PROFILE: 田口トモロヲ/俳優、映画監督、ミュージシャン
田口トモロヲの4本目の監督作「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」が3月27日に公開された。同作は1978年に起きた「東京ロッカーズ」と呼ばれるムーブメントとその後を描く。本作には、田口の監督デビュー作「アイデン&ティティ」(2003年)の主演・峯田和伸、脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英が再集結。キャストは、若葉竜也を筆頭に「アイデン&ティティ」を愛する若手たちと、田口組でおなじみの面々が参加した。地引雄一が当時のシーンを写真に収めた書籍「ストリート・キングダム」(1986年)をベースに、リアルなムーブメントをフィクションの物語として再構築した青春音楽映画に、田口監督が込めた思いを聞く。
「アイデン&ティティ」チームが再集結
——地引雄一さんの「ストリート・キングダム」に対し、映画化する題材としてどのような魅力を感じたのでしょうか。
田口トモロヲ(以下、田口):原作のある映画を3本撮って、4本目は自分にしかできないテーマのものを撮りたいと考えている時に、「ストリート・キングダム」を読んで「これだ!」と思いました。今の日本のロックシーンでは、何万人も集めるようなフェスが盛んに行われているけれど、このシステムのヒントになるものを、日本で最初に作ったのがこの人たち(「東京ロッカーズ」というシーンに関わったバンドマン)なんです。それなのに、あまりに語られなさすぎだなというもどかしさがありました。ニューヨークやロンドンで起きたパンク〜ニューウェーブ・ムーブメントを、日本で最初に作ったのはこの人たちだということを知ってほしかった。音楽シーンを通して地引さんのことは知っていたので、すぐに「やらせてくれ!」と連絡しました。脚本は宮藤(官九郎)君にしか書けないと思ったので、それも話したところ、地引さんからOKをいただきました。
——宮藤さんにしか書けないと思った理由とは。
田口:この原作をもちろん知っていて、宮藤君自身もバンドをやっている。日本でこのリアリティーを書けるのは宮藤くんしかいない! という選択です。
——主演が峯田和伸さん、脚本が宮藤さん、音楽を大友良英さんが担当されています。「アイデン&ティティ」チームが再集結したのは、田口さんの意向でしょうか。
田口:自分の中では必然の流れでした。監督作はほぼ同じチームで作ってきたので、今回もこのスタッフィングで、キャストも自分が好きな、信頼すべき人たちで、というのは最初から決めていました。
——今回、バンドマンの峯田さんにバンドマン役を当てなかったのはなぜでしょうか。
田口:「アイデン&ティティ」で俳優デビューしてから、峯田君は他の人の作品でも、表現者側を演じることが多かった。叫んだり、歌ったり。だからそうじゃない峯田君を開発したかったし、受けの芝居をする峯田君を僕自身が見てみたかったんです。だから今回は、俳優さんの熱量を全部受け止める、目撃者側のカメラマン、ユーイチを演じてもらいました。浜野謙太さんや渡辺大知君もそうですが、今回は意図的に、ミュージシャンにミュージシャンではない役を振っています。
——ユーイチがカメラ目線でモノローグを言う、いわゆる第四の壁を破る演出の狙いとは。
田口:ロックのお客さんがいない時代の、局所的で狭いシーン、ムーブメントの話なので、なるべくポップで開けた映画にしたかった。今の人が見ても刺激を受けて、共感できる映画にするために、カメラ目線で話すという手法を使いました。字幕のフォントを現代的にしたり。その辺はすごく意識しました。
——逆に、俳優がミュージシャン役を演じているわけですが、ライブ・シーンのパフォーマンスが素晴らしいです。田口さんは、モデルになったミュージシャン本人に寄せなくていいと俳優部に伝えたそうですが、若葉竜也さんのモモや、間宮祥太朗さんのDEEPは驚くほど似ています。俳優たちが作り上げたパフォーマンスをどう思われましたか?
田口:「ここまで仕上げてくるんだ! いやー、今の俳優ってすごいなあ」と感心しました。俳優としてのエゴが見えないというか、精神的な部分から役に入り込んで作ってくれたので、本当に嬉しかったです。みなさん出来上がっていたので、ライブシーンでは細かく演出する必要がほぼありませんでした。
スタイリスト伊賀大介と
初タッグ
——モデルとなったミュージシャンの映像を本編に挿入することは、撮影前に俳優部に伝えていたのでしょうか。
田口:いや、伝えていなかったと思います。入れられたら入れたいなと思っていて、編集の時点で最終的に作り上げた形です。だた、地引さんが撮影した写真を入れるというのは決めていました。完成台本にも、地引さんの写真を載せておいたんですよ。そうすることで、ムーブメントのイメージを丸ごと把握してほしかった。
——写真の入った台本! 初めて聞きましたが、田口さんの発案ですか?
田口:はい。そのシーンに該当する地引さんの写真を載せた方が、テキストとして分かりやすいだろうと思ったので。
——今回、スタイリストの伊賀大介さんが初めて田口組に参加しました。起用の理由をお聞かせください。
田口:伊賀さんはエレファントカシマシのスタイリングをやっていますし、バンド周りの世界観を熟知しているので、お願いしました。あの時代の資料をできる限り集めてお渡ししたところ、そういうムードのある衣装を用意してきてくださいました。
——細かい指示を出したのでしょうか。
田口:いや、そうでもないです。基本的にスタッフさんを信用しているので、その人にお願いした時点で、その人がやりたいことを持ってくるのがいいなと思っています。あまりにも方向性が違えば言いますが、そうじゃなければ面白がれる方なので。
——今回、伊賀さんのスタイリングで面白いなと思った部分とは。
田口:全体性です。世界観を“再現”ではなく“再生”してくれました。そしてやはり、音楽を知っているな、と。小道具さんが用意した履物を見た上で、いくつも持ってきたサングラスを「これですかね」と合わせてくれる。そういう一つ一つをチョイスして、この時代のピースをキチッと合わせてくれるところが、さすがだなと思いました。
10年ぶりの監督作
——今作は10年ぶりの監督作になります。
田口:「アイデン〜」から6年毎に撮れていたのですが、今回は途中でコロナ禍もあり、10年かかってしまいました。でも、その年月が必要だったと、自分の中では落ち着いています。言い方はおかしいかもしれないですが、“強敵”といえる作品でした。当初はドキュメント的な作品として立ち上げましたが、全く食いつきがなかったんです。
——ドキュメント的に撮りたかったのはなぜでしょう。
田口:地引さんの「ストリート・キングダム」が回想ドキュメントなので、映画もそういう方向性がいいのかなと思いました。実際にあった話なので、そこを描くには、あまりドラマを盛らない方がいいのかなと。写真という作品を汚さないようにしたいという思いもありました。
——そこから方向転換することに葛藤はありましたか?
田口:「えー? こんなに食いつきない⁉︎」というくらいなかったので、「自分ってどんだけマイノリティーなんだろう」「自分が興味あることってこんなに人に訴えないんだな……」というショックはありました。そこから試行錯誤しながら、いろいろなことを変更していきました。「ストリート・キングダム」は真実の物語で、実在する人たちがいます。でも、映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」はあくまでもユーイチの目線で描いているフィクションなので、モデルになっている人たちに、個別のコンタクトは取りませんでした。だからこそ、その人たちをどう納得させられるだろうかというプレッシャーもありましたね。それぞれの意見を聞いていたら、とても受け止めきれなかったので、「事実をベースにしたフィクション」に徹して良かったと思います。
俳優業と監督業、両方やるメリット
——監督業をする際に、田口さんが大切にしていることはありますか?
田口:これはいつも言ってることなのですが、「自分が俳優として嫌な思いをしたことはやらない」です(笑)。でも、ワイルドな時代の映画の現場を体験したことは、今となっては良かったと思います。いい時代になってからの現場と、両方知っているので。
——逆に、俳優として嬉しかった出来事を、演出などに活かしていますか?
田口:純粋に「いい!」と思えることに対して「いい!」と言う。お芝居もですが、例えば美術さんが作ってくれたものも、「いいっすね!」と口に出して言うようにしています。
——俳優業と監督業の両方をやるメリットとは。
田口:それぞれで違う景色が見えるということでしょうか。初めて監督した時は、俳優部で見ていた世界と全然違ったことにショックがありました。監督は全部見えるし、全てに関われるので、めちゃくちゃ疲れるけどめちゃくちゃ面白いじゃん、というのがありました。でもスタッフさんに「タバコの銘柄、何がいいですか!?」と聞かれて「ん〜、そこはそちらで決めてよ〜」となることもありますが(笑)。
——監督作を積み重ねていくことで、見えるものに変化はありますか?
田口:自分の方法論というか、やり方みたいなものは落ち着いてきたのかなと思います。映画のスタッフは昔は怖かったから、「アイデン〜」の時は「素人みたいなことを言ったら怒られるんじゃないか」「舐められないようにしなきゃな」という気持ちがありました。今はもう、肩の力が抜けましたね。信頼している好きな人たちと一緒にできているので。
「俺は自分の踊りを踊ってんのか?」
——田口さんが一番影響を受けた監督や作品は?
田口:アメリカンニューシネマなんですよね、世代的に。ロバート・アルトマン、サム・ペキンパー、社会派のエンターテインメントを撮るシドニー・ルメットには影響されました。ペキンパーほど暴力的にはなれず、アルトマンほどシニカルにはなれず、「じゃあどうしたらいい?」っていうね(笑)。今でも娯楽として、改めて見ては、「面白れえなあ〜!」と思います。それを自分の監督作で、自覚的かつ具体的に、表現として出すかというのは別として、細胞みたいな感じで刻み込まれているので、自然とそういう傾向は持っているのかなと思ったりします。いやでも、あの人たちはグレートすぎますね(笑)。
——作品を撮るペースについて、どう考えていますか?
田口:命は限られているので、あとどのくらい撮れるのか、ということは考えます。僕は、ちょっと前まで「異業種監督」と言われる立ち位置でした。僕が本当に親しくしている監督さんが、90年代に撮れなかった時代を見ているので、そういう人たちに失礼のないような、自分が撮るべきテーマを見つけて撮っていきたいなと思います。真面目か俺!(笑)。
——この映画は「自分の踊りを踊る」「自分の音を鳴らす」という明確なメッセージを投げかけています。ということは、この映画を作りながら、田口さんも監督として自分にそれを問いかけていたのではないかなと想像しました。
田口:あのメッセージは、(江戸)アケミさん(※中村獅童が演じているヒロミさんのモデル)と知り合った時から投げかけられているので、フジヤマの看板を見るたびに「俺は自分の踊りを踊ってんのか?」と自問します。パンクが教えてくれた、誰にも共通のメッセージ。それは忘れることはないですね。
——田口さんも死ぬまで自分の映画を撮り続けるのかな、と。
田口:映画なのかは分からないですよね。今、いろいろな方法論がありますから。YouTuberとか、自分がなったらびっくりしますけど。「え? これから?」って(笑)。この映画も、東京ロッカーズというムーブメントが終わった後の「そして人生は続く」という話なので、これを見た人が何かいいヒントを持って帰ってくれると嬉しいです。
PHOTOS:MASASHI URA
「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」
◾️「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」
3月27日からTOHO シネマズ日比谷ほか、全国公開
出演:峯田和伸 若葉竜也
吉岡里帆 仲野太賀 間宮祥太朗 中島セナ
大森南朋 中村獅童
監督:田口トモロヲ
原作:地引雄一「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
プロデューサー:小西啓介
製作:映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」製作委員会
配給・製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:ダーウィン
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
2026年/日本/130分/カラー/ビスタ/5.1ch
©2026映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」製作委員会
https://happinet-phantom.com/streetkingdom








