PROFILE: 若林正恭/芸人
オードリー・若林正恭による初小説「青天」(アオテン)が2月20日、文藝春秋から刊行された。同作は発売直後から全国の書店で売り切れが続出し、発売2週間で累計発行部数が28万部となるなど、大きな反響を呼んでいる。
「青天」は万年2回戦どまりの弱小高校のアメフト部に所属する高校3年生の「アリ」こと中村昴が主人公。若林自身もアメフト経験者だからこそのリアルな視点で描かれた青春小説だ。
今回、初の小説を出版した若林にメールインタビューを実施。「青天」を書くきっかけから、書く上で考えていたこと、そして書き終えた今の心境を聞いた。※質問に関しては、若林氏が声が出ない時期だったので、文章で回答してもらった。
小説を書くきっかけは?
WWD:もともと若林さんのnoteで書かれていた本作ですが、小説を書くきっかけは何かあったのでしょうか?
若林正恭(以下、若林):アメフトが好きだけど年齢的にもうプレーはできないので書くしかないと思いました。
WWD:小説の連載が始まったのが「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」が終わった後だったので、「燃え尽き症候群にならないように新しい挑戦をしよう」という考えもあったのでしょうか?
若林:ドームライブが終わって時間に余裕ができたのはあるかもしれないです。
WWD:アメフト経験者には馴染みのある「アオテン」(※アメリカンフットボール用語で、仰向けに倒されること)という言葉ですが、今回は漢字の「青天」を採用しています。このタイトルはすぐ浮かんだのでしょうか?
若林:「アオテン」の漢字表記は、「青天」「仰天」「仰転」など、諸説あります。その一説を採用しました。出版の時に編集者さんから、漢字の「青天(アオテン)」だと「セイテン」と読み間違える人が続出するので、「青天(セイテン)」として出版しませんか?という提案がありました。アメフト経験者としてそこは譲れなかったので、「それなら、カタカナ表記で『アオテン』とさせてください」とお願いしたら、「青天(アオテン)」のままでOKとなりました。
WWD:今回、若林さんにとって初の小説でしたが、ストーリーは事前にどこまで固めてから書き始めたのですか?
若林:最後のシーンだけ決まっていたので、そこまで辿り着けたらいいなと書き始めました。
WWD:煮詰まった時にやっていたリフレッシュ方法などはありますか?
若林:ずっと楽しくて、まったく煮詰まらなかったです。
WWD:小説を書く上でどなたかにアドバイスなどはもらいましたか?
若林:内容に関して相談した人はいないです。連載が終わって文藝春秋さんから出版のオファーをいただいた時、「商業出版するレベルにあるのか?」という相談を、歌人の加藤千恵さんにゲラをお渡しした上でさせてもらいました。今思うと、随分答えにくい相談をしてしまったと思います。
時打設定は1999年
「おじさんに懐かしんでもらいたい」
WWD:設定を高校のアメフト部にしたのはどういった理由からですか?
若林:大学や社会人、あるいは高校の強豪校だと、監督やコーチの存在や激しいレギュラー争いによって、モチベーションが外部から誘発されます。一方で、高校の弱小校だと、アメフトに向き合う動機が本人の自主性に委ねられる。その内面的な葛藤や熱量を強調したかったので、この設定を選びました。
WWD:アメフトは、日本では多くの人がルールを知らない競技だと思うのですが、そこに「伝わらないかも」という不安はありましたか?
若林:今までの人生で、アメフトのルールを口頭で説明して伝わった試しがありません。実際、動画を見てもらうのが一番手っ取り早いという実感があったので、動画を見てもらうように文章を書くしかないと割り切っていました。
WWD:書く上でフィクションとリアル、どれくらいのバランスにするかなどは意識されたのでしょうか?
若林: (自分自身の)高校時代がもう30年も前のことなので、何がフィクションで何がリアルかよく分かんなくなってました。
WWD:固有名詞など、当時(1990年代後半)の空気感が伝わるものが多く出てきましたが、意図したものですか?
若林:とにかくおじさんに「懐かしい!」と言わせたかったので、古本屋で当時の雑誌を大量に購入しました。自分が懐かしんでしまって、執筆が滞りました。
WWD:作中に出てくる日本語ラップの曲は若林さんが聞いていた曲が多いと思いますが、こちらはどのように選んだのでしょうか?
若林:時代設定が1999年なので、それまでに発売された曲の中からアリが選びそうな曲にしました。餓鬼レンジャーさんの「火ノ粉ヲ散ラス昇龍」だけは時代的にまだ発売されていなかったのですが、他にしっくりくる曲がどうしても無かったので使わせていただきました。SNSで気づいてる人を探したら1人しかいませんでした。
WWD:書いていて一番難しかったシーンと、楽しかったシーンを教えてください。
若林:書いていて難しかったシーンは無いのですが、「3分の1は削って欲しい」と言われていたので、カットする部分を決めるのにかなり悩みました。書いていて楽しかったシーンは、ゲーセンで同級生にドッキリを仕掛けるシーンだったのですがカットになりました。
WWD:主人公のアリの「他者との距離」にはリアルな若林さんが投影されている部分もありますか?
若林:存分にあります。ただ、アリのようにモノを盗んだりしません。
WWD:高校時代の部活というのは、「楽しくやるのか」「上を目指すのか」と部員一人ひとりの思いが違っていて、特に本作のように学生主体の部活だと、その意志統一も難しいと思います。時には厳しくして、離れていく人もいます。若林さん自身はそこのバランスに関しては、どのように考えていますか?
若林:作中にも書いていますが、楽しむにも最低限の実力が必要だと思います。
WWD:作中の岩崎先生との対話に関しては、かなり人生の本質的なことを話している感じがしました。特に終盤の「運命」と「自由」の話に関して。この岩崎先生というのは最初から登場させようと考えていたんですか? また、この「運命」と「自由」の話は若林さんの中でも核になっている考えなのでしょうか?
若林:高校時代に倫理の先生に「さっき授業で死後の世界は信仰する宗教によって違うと言ってたけど、無宗教だとどうなるんですか?」と質問しにいったら「余計なこと考えてないで試験勉強に集中しろ!」と怒られたのを思い出して、そういう質問に向き合ってくれる先生がいたらアリに変化が起きるのではないかと思い、登場させました。
「運命」と「自由」については私も岩崎先生と同意見なので、占いが嫌いです。
初小説を出版して思うこと
WWD:初の小説を書き終えて、今どういった心境ですか? 達成感を感じているのか、反省点が思い浮かんだりしているのか?
若林:書き始めて1年7カ月でようやく発売されたので、「小説って長ぇ!」という心境です。
WWD:読者からの反応で思ってもみなかった感想はありましたか?
若林:(登場人物の)ダイブツが好きという感想がすごく多くて驚いてます。
WWD:校正の時に編集者からの指摘で、「なるほど」と思ったものはありますか?
若林:目次に「オーバータイム」と表記しないで、読み進めると「オーバータイム」と書かれた章扉のページが突然出てくるようにしたいと編集さんに伝えたら、「それだと誤植だと思われる」「内容は大丈夫なので小細工しない方がいい」と言われて、「小細工なんだ!なるほど!」と思いました。
WWD:「小説」という表現方法に新しい可能性は感じましたか?
若林:コンプラからは一番自由だと思います。そのうち自由じゃなくなるんでしょうけど。
WWD:本作は「過去の自分」に向けて書いたところもあるのでしょうか?
若林:同世代のおじさんの心の中の高校生に向けて書きました。
WWD:「諦めること」について、主人公のアリは最後まで「諦めなかった」ですが、本作の何人かは「諦めていった」。長い人生においては、「諦める」ことで別の可能性が広がることもあります。若林さんは「諦めること」についてはどう考えていますか?
若林:私はやりたかったことを大量に諦めてラジオエッセイ人間になったので、アリにも勉強や遊びなどいろいろと諦めさせてアメフトを選ばせました。なんでもできる人間じゃなければ、そんなもんなんじゃないでしょうか。
WWD:若林さんは「LIGHTHOUSE」(Netflix)やラジオで「中年の危機」についての悩みも話されていましたが、そこはもう吹っ切れましたか? もしアドバイスするとしたらどんな言葉になりますか。
若林:中年の危機は吹っ切るものではなく、慣れるものだというとこまでは分かってきました。
WWD:若林さんが今、アリのように「自分と約束していること」はありますか?
若林:朝起きたらベランダで四股を踏むことです。
WWD:「アメフト」をやっていたことが、今の芸人人生に活かされていると思うことはありますか?
若林:奇策でなんとかすることです。
WWD:小説に関して、次作への意欲は現状どれくらいありますか? また小説に限らず次にやってみたいことは?
若林:アメフトほど書きたいことがないので次回作は考えてなかったです。今はオードリーの漫才がやりたいです。
「青天」
◾️「青天」
著者:若林正恭
定価:1980円
出版社:文藝春秋
判型:四六判 並製カバー装 304ページ
発売日:2026年2月20日
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163920665




