ファッション

伊勢丹「マ・ランジェリー」は縮小リモデル後に予算3割増 その理由をバイヤーに直撃

「WWD JAPAN」1月5 & 12日合併号で、日本の下着市場で好調ブランドなどを紹介した。その中で、百貨店の下着売り場の現状について伊勢丹新宿本店(以下、伊勢丹)の向井りさ三越伊勢丹第2MDグループ新宿婦人・子供商品部 マ・ランジェリー・サイズ・パーソナルラボ バイヤーに取材し、下着売り場「マ・ランジェリー(MA LINGERIE)」の動向を聞いた。「マ・ランジェリー」は、昨年7月に売り場をリフレッシュオープンし、売り場面積を約半分、ブランド数は約3分の2に減らした。売り場が狭くなり、選択肢も減った印象を受けるが、売り上げは予算比30%増と好調で、顧客からも好印象の声が多いという。ここでは、紙面で一部しか伝えられなかったインタビュー全文を紹介する。

ーー昨年7月のリフレッシュオープンでブランド構成はどう変わった?

向井りさ三越伊勢丹第2MDグループ新宿婦人・子供商品部 マ・ランジェリー・サイズ・パーソナルラボ バイヤー(以下、向井):ワコールやトリンプのベーシックラインの取扱いを一旦止め、顧客から支持の高いプレステージラインに絞り込んだ。ワコールは「ユエ(YUE)」「サルート(SALUTE)」「ワコールサイズオーダー(WACOAL SIZE ORDER)」「ハンロ(HANRO)」、トリンプは「フロラーレ バイ トリンプ(FLORALE BY TRIUMPH)」というブランド構成だ。

ーーここ数年の売上高の進捗は?リモデルの目的は?

向井:コロナ禍が落ち着いた22年は、前年比約30%増と伸長した。23年も2ケタ増と好調だったが24年は、館全体が過去最高益となったがランジェリー売り場は前年並に留まった。同社は今、高感度で上質なMDで識別顧客(エムアイカードや三越伊勢丹アプリ保有者)とのコミュニケーションを深め、客単価を上げる施策を強化している。その一環としてランジェリー売り場の面積適正化とMDの見直しを目的リモデルした。売り上げは予算比30%増と好調だ。

ーー予算比30%増の理由は?

向井:「選りすぐりの商品が見つけやすくなった」という声が多い。中には、「広い売り場よりも心理的に安心して商品を探せる」と言う声もある。意図的に顧客の価値観に合ったグレードの高いMDに取り組んだ。一般的に売れる商品を縦積みするのではなく、識別顧客に売れている商品が何か分析し、その在庫を強化した。「マ・ランジェリー」には、各ブランドによる顧客の声を反映しアップデートした商品も多く、その打ち出しとそれにまつわるストーリーの発信にも力を入れた。それが、売り上げにつながり、客単価も2万5000円から2万7000円にアップした。売れ筋ブラジャーの平均単価も1万3000円から1万9000円になった。

コロナ禍を経て下着の需要は“快適”と“上質”にシフト

ーーコロナ禍以降、消費者動向はどう変化した?

向井: 女性の消費に対する価値観が大きく変わり、承認欲求の時代から自己肯定の時代になった。ありのままの自分を大切に、量より質の内面的価値が重視される中、百貨店に求める品ぞろえも変化した。下着に対する価値観の軸が、他人から見た美しさから、自身の生活を本質的に豊かにしてくれる“快適さ”や“上質”といったものに移った。以前は、レースを用いた装飾性が高いブラジャーをはじめ、機能性重視のブラジャーなど、「褒められたい」「セクシーに思われたい」という価値観を満たすような商品から、シルクなどの高級天然素材を用いた心地良さや圧迫感のない軽さなど、日常的にラグジュアリー感を感じられるアイテムが売れている。
 
ーーその流れを反映するブランドや商品は?

向井:「ハンロ」と「ランジェリーク(L’ANGELIQUE)」が順調に売上高を伸ばしている。これらに共通するのは、時代やトレンドに左右されない“名品”と呼ばれる定番品があること。「ハンロ」の上質なコットンにシルケット加工を施した“コットンシームレス”、「ランジェリーク」のシルクを使った“ミュゼット”シリーズなど、どちらも天然素材を使用したシンプルで無駄のないデザインが特徴だ。日々、心地よさとラグジュアリー感を感じられるこれらアイテムをリピート購入する顧客が多い。

館内客と「マ・ランジェリー」の出合いをデザイン

ーー現在の課題は?

向井:ランジェリー売り場は、ファッションフロアからの買い周りが少ない。館内客をどう売り場に取り込むかが課題だ。「ユエ」と「フェティコ(FETICO)」のコラボレーションは非常に反響が大きく、「マ・ランジェリー」で買い物をしたことのない高感度な新客の獲得に成功した。元々「フェティコ」はランジェリー風のアイテムやボディーコンシャスなデザインが得意なブランド。それに「ユエ」の下着特有の縫製技術が加わり、ファッションとランジェリーが融合した新しい価値提案ができた。ここ最近、ランジェリーは“ファッションの一部として見せて楽しむもの”になっているのに、その価値観にMDの感性が追いついていない。ファッションとランジェリーのボーダーレス化は、業界の大きな流れで、それを武器にした商品開発や売り場作りにより、館内客と「マ・ランジェリー」の出合いをデザインしたい。

ーー注目しているブランドは?

向井:日本発インナーウエア「アロマティック(AROMATIQUE)」は、本物志向の素材、ラクな着け心地、ファッションとの融合を感じさせるデザインと3拍子そろっていて、今のムードにピッタリだ。ポップアップ展開したオーストラリア発の水着ブランド「シサンディ(SISANDI)」も注目だ。ビーチだけでなくタウンユースもできるボディースーツ感覚で着用できる水着などを提案している。下着にも酷暑対策が必要となる中、洗濯機で手軽に洗え、ファッションとして透け感のある服にも合わせられるといった価値観を提案している。

百貨店のコンサルテーション力を生かした商品・売り場作り

ーーランジェリーの買い付けで重要なポイントは?

向井: ECだけでなくコンビニでもブラジャーが買える今、市場は、機能や価格で勝負するブランドで飽和状態になっている。その中で生き残るためには、商品のクオリティーはもちろん、消費者がブランドや商品の世界観やストーリーに感動・共感し、共有できるという点が非常に重要だと考える。例えば、「ランジェリーク」とアクティビストのエリさんとのコラボレーション。彼女自身がサステナビリティの観点からのモノ作りを発信することで、それに共感するミレニアル世代を取り込むことができた。

ーー今後、取り組みたいことは?

向井:市場では快適さが重要視されているが、意外と動いているのが補整下着だ。ここ数年、女性経営者や管理職が増加した。彼女たちにとって“印象管理”がキーワードになっており、洋服をきれいに着こなすための補正下着の需要が高まっている。素材と構造の進化でラクな着け心地をかなえた補整下着が売り上げを伸ばしている。補整下着でも、快適な着け心地は絶対条件で、百貨店ならではのコンサルティング力を強みにしながら、“なりたい自分”に寄り添うような下着を提案したい。また、伊勢丹では、客の悩み解決や関心ごとに応える商品やサービスを提供するためのモノ作りとサービス業の融合「2.8次産業」を戦略の一つとして掲げている。ファッションとランジェリーのボーダーレス化も「2.8次産業」の一部だと考えて商品開発や売り場作りにより、同質化が進む中で独自性、差別化を図りたい。

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