旅の質が重視される今、コンセプチュアルなホテルが求められている。日本初のデザインホテルとして1989年に開業した「ホテル イル・パラッツォ(HOTEL IL PALAZZO)」が2023年10月にリニューアル。今年9月にオープンした敷地内のレストラン「リュニック・ラボ(L’Unique labo)」の博多フレンチも秀逸で、食の宝庫・博多の最新美食スポットに。さぁ、博多で食い倒れよう!
伝統と革新が同居し進化した
博多が誇るデザインホテル
20世紀を代表する世界的な建築家イタリア人のアルド・ロッシ(Aldo Rossi)と、日本を代表するインテリアデザイナー内田繁がタッグを組み、日本初のデザインホテルとして1989年に開業したのが「ホテル イル・パラッツォ」。内田繁のほかにもエットーレ・ソットサス(Ettore Sottsass)、ガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce)らイタリアの巨匠、倉俣史朗、三橋いく代、田中一光といった世界的なクリエイターが参画したことも話題となった。
創業当時の理念を継承しつつ、「Re-Design」された新たなデザイン空間が2023年にリニューアル。日本が元気だった時代、昭和後期の空気を感じる、どこかレトロなでデザインホテルとなった。客室は27m²のスペーリアクイーンと35m²のデラックスキング、それぞれのバルコニー付きの4タイプで、いずれも白を基調にした洗練されたインテリア。プライベートバルコニーにはアウトドアファニチャーが備えられ、風を感じて外でも過ごせるのは贅沢だ。ワークデスクもあり、滞在中は、仕事がずいぶんはかどった。
ゲストは自由にアクセス可能な
ラウンジ「エル・ドラド」を満喫
ファッションシューティングのロケ地となるほどフォトジェニックな「ホテル イル・パラッツォ」。けれど特筆すべきはデザイン性だけではない。それは美食体験。
まずラウンジ「エル・ドラド」がすごい。映画やテレビのセットのような、カラフルで華やかな空間。う~~ん、トレンディ! 11時15分から21時まで、アミューズのプレゼンテーションを提供している。前菜やデザートが並ぶブッフェテーブルがあり、ゲストは自由にアクセス可能。好きなタイミングで、好きな料理を、好きなだけ味わえるという。しかもすべての宿泊プランに朝食ブッフェとラウンジアクセスが含まれるのだ。カウンターにはピザやパスタ、チリコンカンやタコスなどもあり、軽食の域を軽々と超えている。しかも立ち寄るたびに異なる出来立てメニューが並ぶから、目が離せない。困った…!(笑)
130席の地下ラウンジにはソファのブース席、大きなテーブル、PCや資料広げての作業もできそうなデスク席など、さまざまな居場所があり、気分に合わせて過ごせる。楽しそうに語らうファミリーも、本を読んで過ごすソロ旅らしい人も、この距離感ならばそれぞれのペースでくつろげそうだ。
ラウンジの中央にそびえ立つ黄金のファサードは、アルド・ロッシがデザインした同名のバー「エル・ドラド」から内装の一部を移築。その手前のインスタレーション作品は内田繁が晩年に手掛けた「ダンシングウォーター(Dancing Water)」だ。時を経て、伝説のふたりが再び共演、という仕掛けもなかなか憎い。もう1つのリビングルームとして機能し、部屋にいてもラウンジにいても快適で、外出するタイミングがない。(せっかくの博多なのに!まぁ、それもよし)
けれどもこの空間でまったりと過ごし、ちょこちょこと好きなものをつまむのも贅沢。せっかくなので夜は外食せずに、ここで過ごすことにした。スイーツとパスタ、タコスの甘辛無限ループで、黄金郷「エル・ドラド」から抜け出せなかった!これもまた至福。このラウンジは朝食会場ともなり、7時から11時までとオープン時間が長いのも、旅のスタイルに合わせられ、なかなかいい。
チャペル跡地に開業し、早くも話題の
博多フレンチ「リュニック・ラボ」
そしてなんといっても今回の博多グルメ旅のお目当ては、今年9月にオープンしたばかりの博多フレンチ「リュニック・ラボ」だ。今回はチェックイン前に到着し、ランチのコースをいただいた。
ホテルの敷地内、もともとチャペルがあったという場所の扉を開くと真っ白な空間が。チャペルの跡地だけに6mの天井高。高窓から光が差し込み心地よい。席数はわずか8席。オープンキッチンの前にUの字型の大きなカウンターテーブルがあり、既視感が・・・。そうだ!老舗のコの字型の居酒屋だ。
もちろん、ミシュランにも認められたグランメゾンと、庶民的な激シブ酒場では空気がまるで違う。けれども、ゲストとしっかり向き合ってもてなし、ときにはゲスト同士の交流も生まれ、その場にいたからこその物語が始まるという共通点が。そんな予感にときめいていると、「まずはこちらで」と案内されたのはU字カウンターのすぐ前にあるウェイティングサロン。まずはそこで乾杯、というのが習わしらしい。
このウェイティングサロンにはワインセラーを中心に、フレンチに関する書籍やガラスの器がディスプレーされた、こじんまりとした空間だ。これらの器もあとで種明かしがあるわけだが、シャンパンとともに宝石を差し出すようにサーブされたのは胡椒風味のアーモンド。オープンキッチンを眺めながらの1杯には劇場の幕が上がる前のように高揚した。
端正に仕上げた一皿一皿が
五感を刺激するアート作品
その後も端正で、かつドラマチックなデモンストレーションが続く。五感で味わうとはまさにこのこと。アミューズはスイーツに見えて実は・・・という楽しいサプライズもあり、毎回、玉手箱をあけてみるようなワクワクが演出される。ウェイティングサロンにディスプレーされたりんごあめのようなガラスの器はスモークを閉じ込めるためのもの。ブーケのように美しいキャビアを味わう一皿は、黒オリーブを練りこみ、その場で燻製したワッフルをとともに、など情報量も多く、舌も、頭も、心も大忙し。調理する様子を目の前で眺められ、シェフがカウンターで料理を仕上げ、解説してくれるので、一皿一皿が、一幕一幕の舞台であるような臨場感があるのだ。
全てが繊細で、素材や季節を感じる料理だが、そこには爽やかな香りや甘味、酸味を感じる。それはレモン、パイナップル、無花果、カボスなど、それぞれの料理に果実を隠し味としているから。料理とワインをつなぐブリッジとして、九州の果実をマリアージュしたのは、濵野雅文シェフの料理の特徴の1つだ。
味覚と視覚、そして空間で感動を
空間デザインもまた「ご馳走」に
「リュニック・ラボ(L’Unique labo)」は、“唯一無二=L’Unique”と“実験室=labo”を意味し、ほかではできない美食体験をクリエイトするのがコンセプト。福岡県糸島市出身の濵野シェフはフランス・ブルゴーニュで独立後、ミシュランガイドで6年連続2つ星を獲得したスターシェフ。2023年の帰国から約2年をかけて構想された本プロジェクトは、日本での新たな挑戦となる。
伝統的なフレンチの技法を生かしながら、旬の食材と九州のフルーツで、今までの枠にとらわれない一皿を「実験」する場。U字型カウンターを囲むことで、参加者となり、証人となる。メニューは2カ月ごとにアップデートされるという。ラボのメンバーになった気分で、季節ごとに博多に通うのもいいかも、なんて思い始めている。
ランチとディナーの内容が同じなのも私にはうれしい。到着後、「リュニック・ラボ」でフレンチとワインのペアリングを楽しみ、チェックイン後は部屋で過ごす。ランチでフルコースを堪能したので、夜は軽めにラウンジ「エル・ドラド」で軽食をつまむ。小腹がすいたら〆のラーメンやうどんを求めて夜の街へ繰り出す。そんな全力でグルメを楽しむ博多旅が「ホテル イル・パラッツォ」なら可能となる。あらためて「博多は食の宝庫だ!」と心が震えた。博多から世界へ発信する日本が誇るフレンチは、さまざまなエンターテイメントを融合したような美食体験。まずは現場=ラボに足を運ぶべし、なのだ。さぁ、いざ福岡へ!