あぶらとり紙で知られるよーじやグループ(京都市、國枝昂社長)は、京都・四条烏丸に飲食の新業態「26(にーろく)ダイニング」を11月26日オープンする。今年3月に発表したリブランディングの一環で、「京都の生産者とつながる店」をコンセプトに、京都府の26市町村を巡って掘り起こした食材を生かした料理を提供。京都の人が京都を訪れた知人や友人を案内したくなる店をめざす。
京都最大のビジネス街であり、近年は大人をターゲットにした商業エリアへと変貌しつつある四条烏丸エリアに出店した。地下鉄と阪急の駅に直結した複合商業施設の地下1階という好立地にある。近隣のオフィスで働く30~40代のビジネス層を中心ターゲットに、接待需要も見据え、客単価は5000~6000円を想定。甘くやわらかな脂身が特長の「京丹波ぽーく」の焼売、肉厚で出汁がたっぷり染み込んだ白ちくわのおでん、そば粉で揚げた京丹波ラディッシュの天ぷらなど、地元の旬の食材を生かした約40種類の和食創作料理を提供する。
京都の生産者とつながる
入り口付近の壁にはその日扱う食材の産地を示す「生産者さんとつながるマップ」を掲示し、席には食材のこだわりや生産者の思いをまとめた「生産者さんとつながるブックレット」を配置する。
京丹波ぽーくを提供する岸本畜産の岸本大地氏は「養豚農家がどんどん廃業するなか、飼料設計にこだわるなど家族経営でしかできないことを行い、地産地消、安心安全でおいしい豚肉を生産している」とアピールする。よーじやグループと取引する生産者は、小規模ながらも高品質な食材や飲料を手がける約50社。よーじやグループの広報の東紗良氏は「おいしいという体験から、生産者の思いや地域の魅力に触れることで、最終的には生産地まで足を運びたくなるようなきっかけを作っていきたい」と話す。
営業時間は15時~23時で、11~15時は別業態の十割蕎麦専門店「10そば」として営業する。昼と夜の営業を切り替える二毛作運営で収益性を高めるのが狙いだ。3年前に京都市役所前にオープンした「10そば」は、同店で3店舗目になる。ワンコインで十割そばを味わえると話題を集め、2店舗目の大阪・本町店は1日200人以上が来店する。ただ集客がランチに偏り、夜の需要がとりきれず、採算性に課題がある。「中小企業がそばの事業だけで多店舗展開を進めるのは難しい。そこで、夜に集客できる事業が必要と考え、カフェとバルを切り替えて展開するプロントのモデルを参考にした」と、同社の國枝昂社長は振り返る。
批判もあったリブランディングに込めた思い
よーじやは1904年に創業。地元客向けの雑貨店として長く営業してきたが、90年代にあぶりとり紙がブームとなり、観光客向けブランドというイメージが定着した。2015年頃からは中国人を中心としたインバウンド(訪日客)が急増した。19年に國枝氏が社長に就任した直後にコロナ禍で売り上げが激減し、経営危機に直面した。
がらんとした京都で「誰に向けてビジネスを続けていくべきか」を自問自答した結果、行き着いたのが「脱観光依存」への方針転換だった。以来、地元客に向けた事業や店舗展開に注力し、限られた資金やリソースを生かしながら商品や販路を拡大。あぶらとり紙が売り上げの中心だった店舗が、スキンケアや入浴剤など日常使いの商品が主力となる品ぞろえに大きく変わった。「10そば」もその一環で、かつて展開していた飲食事業のリソースを活用したものだ。
3月のリブランディングでは、「みんなが喜ぶ京都にする」をコーポレートスローガンとし、地元京都に貢献し、愛される企業をめざすことを宣言した。60年間使用し、ブランドの象徴でもあったおなじみのロゴを刷新し、コーポレートキャラクター「よじこ」を新たに登場させた。「リブランディングに関しては大きな反響があったが、SNSでは批判も多く見られた。京都とよーじやの関わりを客観的に捉えた決断であり、京都のために存在意義を見出せる企業になるためにはリスクも覚悟の上だった」と國枝社長は語る。
リブランディングの成果は早くも業績に表れている。リブランディング前の24年7月期に約22億7000万円だった物販店舗「よーじや」の売上高は、25年7月期には前年比約20%増になった。飲食を含むよーじやグループ全体でも、同約20%増と物販・飲食ともに好調に推移した。
今後、化粧品ブランド「よーじや」と「よーじやカフェ」を一本化し、身近に感じてもらえるライフスタイルブランドへと進化させる方針だ。
「京都だけでなく、大阪や福岡、札幌などでもインバウンド需要を取り込めるため、安定して店舗数を拡大していけるのがよーじやの強み。さらにライフスタイルブランドの方向性が確立できれば、これまで出店できなかった住宅地の近隣へも出店できる」とし、郊外型商業施設への出店も視野に入れる。
飲食事業は第2の柱として強化する。「10そば」は収益性の改善を図りながら、いずれは多店舗展開をめざす。「26ダイニング」はあえて多店舗化せず、よーじやグループの理念を伝えるブランド作りを優先させる。京都全体の魅力を伝える場所としての役割を重視する方針だ。
「飲食はお客さまと直接つながるBtoC事業であり、非常にこだわりがある。飲食で成功することはさまざまな可能性を広がることにもつながる」と國枝社長。さらに、来年度中には飲食とは異なるBtoC領域で新規事業を立ち上げる。京都に貢献するという同社の理念を体現する事業になるという。
京都の観光土産を象徴する存在から、地元に寄り添うブランドへと舵を切ったよーじや。観光需要に依存せずに企業体質を強化しようとする姿勢にいま注目が集まっている。