PROFILE: 岡﨑龍之祐/「リュウノスケオカザキ」デザイナー

岡﨑龍之祐デザイナーによる「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」が、29点もの最新コレクション「004」を発表した。その代表的なドレス「Sakura」は、英ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)の永久コレクションとして収蔵されることが決まり、それを含む作品展が同館で10月19日まで展示されている。
「リュウノスケオカザキ」の作品は立ち上げ時から、広島出身である岡﨑デザイナーの「平和への祈り」が創作の根幹にある。新作を含む「JOMONJOMON」シリーズは、コロナ禍であらためて着目した縄文時代の生活から着想を得ている。目に見えない脅威も自然の一部として受け止め、祈りを捧げる人々や、願いを込めて作られた土器の存在がインスピレーションの源だ。コレクションとしてのテーマは設けないが、「Sakura」は自宅前に咲き誇る桜を見て、その儚い死生観がブランドのコンセプトに重なると考え、桜色をモチーフに選んだ。
コレクションにテーマを持たない理由には、モノづくりにおける感覚で養った手の経験にこそ重視する姿勢がある。「素材を変え、縫い方を試し、形状を維持するための工夫を重ねる。そうしたプロセスにこそ本質がある。それは常にアップデートされ、シームレスに移ろっていく。一点一点、実験して観察を繰り返し、そこから変化を加えていくことで自然に形になっていくのだ」と独自のスタイルを語った。スケッチもシーチングもしない。360度どこから見ても美しいかどうかという探究心こそ、唯一無二のコレクションを生み出す原動力だ。
手の感覚が生み出した初めてのドレープと“シルエット”
「004」での大きな変化は、そうした手の感覚から紡いだ“面”を意識した造形だ。ゆるやかな伸縮性を持つニット素材にプラスチックの芯材を入れ込み、布の重みで描かれる自然な曲線を利用することで、軽やかでありながら立体的なドレスを形成。また創作の過程において、布の面積を変化させることで美しいドレープが落ちることを発見した。これにより、ブランドの象徴でもあったシンメトリーは、アシンメトリーへと変化。エレガントなベロアを使って美しい曲線の面を描き、それまで“造形”と表現していたドレスは、初めて“シルエット”という言葉を用いて身体や肌を意識した。
「これはまさに自分の手の経験から生まれたこと。ただ一般的な“服”とはいえないが、その感覚には近づいている。ドレープを生むことで、衣服は人間の身体に寄り添い、よりエレガントな表情を帯びていった。これまでになかったグラフィックなアシンメトリーも魅力的だと感じた。自分にとって大きな発見であり、モノ作りにおいて新しいことにチャレンジしたいという意識が芽生えた」。
「ファッションかアートかは定義しない。どちらも本気だから」
岡﨑デザイナーは東京藝術大学大学院在学中から作品が高く評価され、21年の卒業年には文化庁支援のもと東京コレクションに公式参加。ランウエイに現れた造形美あふれるドレス群は記憶に新しい。そして翌年、ファッションデザイナーの登竜門「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストに選ばれ、ファッションデザイナーとしてその名を広めた。
しかし、岡﨑デザイナーにアートとファッションの境界線について聞くと、「創作活動の根幹は変わらない」と答えた。どちらかに定義づけることにこだわらず、アーティストでもファッションデザイナーでも呼ばれても気にしない。「アート活動も本気でしているし、ドレス作りも同じくらい力を入れている。その両立こそ自分らしさだと思っている。オブジェや空間デザインの延長線上に、身にまとうことでファッションに接続するドレスがある。それだけのことだと思っている」。
作品として造形していたドレスを“服”として意識するようになったことは大きな転機となり、プレタポルテへの挑戦を考え始めたと話す。「自分にとって大きなチャレンジだし、ブランドとしてもアーティストとしても世界を広げる試みになる」。その第一弾として「004」では初のシューズとバッグを受注生産で展開する予定だ。
24年の米ニューヨークのメトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)、25年のV&Aという世界有数の美術館での作品収蔵もアーティストとしての夢をかなえた。「好きな美術館での収蔵は、人生の後半に置いていたマイルストーンだった。予想より早く達成できたことで、次はより多くの人に手に取ってもらえるモノづくりをしたいと考えるようになった」。これまで一人で制作してきたが、今は外部のパートナーと組むことで新たな挑戦を始めている。「ウエアはまだ模索中だが、いいものを作りたい」と語った。