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AIとクリエイティビティーはどのように共創するのか サム・ アルトマン OpenAI CEOと日本人クリエイターがトーク

10月2日、AIツールChatGPT、動画生成AIツールSoraを有する、OpenAIのCEO、サム・アルトマン(Sam Altman) OpenAI CEO(以下、サム)が来日。プログラマー、メディアアーティストとしてライゾマティクスを主宰する真鍋大渡、AIを用いたアートを発信する草野絵美らとトークショーを行った。司会を務めるのは、バーチャルヒューマンimmaを展開するAwwのプロデューサー、沙羅ジューストー。

トークショーの前日、10月1日にはSoraの後継であるSora 2をリリースしたばかり。サムCEOは「AIは生産性から新たな発見に至るまで、素晴らしいことを成し遂げるだろう。その中で非常に重要なのは、『私たちが何を創造するか』ということ。AIというツールにより、クリエイターが活躍し、これまで不可能だったことや非常に困難だったことを乗り越え、新たな挑戦をする姿を見たいと願っている。そしてAIを使った新たな表現により、全ての人の人生が豊かになれば幸いだ」と語る。AIの最先端を行く彼らが「AIとクリエイティビティー」をテーマに意見交換した。

クリエイターにとってAIはどのような存在か

沙羅ジューストー(以下、沙羅):最初に取り上げたいのは「コラボレーター(共同製作者)としてのAI」。制作プロセスでAIを使うとき、AIはコラボレーターなのか。AIがこれまでの活動に与える影響とは?

真鍋大度(以下、真鍋):もうツールやコラボレーターというより、自分のこと一番よく知ってる存在だ。クリエイティブに関しては人間がやった方がいいところと、AIがやった方がいいところを見分ける必要がある。制作する内容によってバランスが変わってくるだろう。

沙羅:AIが自身の作品を変えた瞬間とは?

真鍋:2023年頃、画像生成のクオリティーが上がったとき。「こういう時代が来たんだな」と思った。そしてChatGPTが出たとき時代が変わったと感じた。インターネットが誕生したのと同じぐらいのインパクトがあったはずだ。

沙羅:サムさんはAIとアーティスト、あるいはAIと人間のコラボレーションをどのように受け止めている?

サム・アルトマン(以下、サム):AIはコラボレーターであり、時間が経つにつれますます加速していくことを願っている。今後、さらなる共同製作者になり得るだろう。そしてアーティスト達が、これまでに見たことがないような新たなアートを生み出していることが何よりうれしい。Soraをローンチしてすぐの頃、7〜8歳くらいの子どもが私たちのオフィスに来て、「考え方が変わった」と言ってくれたのは、私にとって最高の褒め言葉だと思っている。

日本市場におけるAIの可能性

沙羅:草野さんの作品は日本の文化をAIで再現している。日本の文化が受け継がれ、それをAIで表現することをどう見ているのか?日本は将来、AIとどのようにつながっていくのか?

草野絵美(以下、草野):日本にはアニミズム(animism)、そしてテクノアニミズム(techno-animism)という考え方がある。コンピューターやロボット、さらには回路に至るまで、すべてのものに魂が宿るという考え方で、テクノロジーを仲間や守護神として認識している。だからこそ、ほとんどの日本人はテクノロジーに対して非常に楽観的だと感じる。そして、テクノロジーの役割は完璧に複製することだと思っている。3Dプリンターはもちろん、最近リリースしたSoraはほぼ実写に見えるほどのクオリティー。AIはクリエイターの対極にあるとよく言われますが、実際はそんなことはないはずだ。

真鍋:日本ではAIに対し、敵対しないで楽観的。そしておそらく、法律的なことでも日本は利点が多いので、日本でしかできないクリエイションも多くあるだろう。

サム:日本文化の面白い部分は、非常に高度なテクノロジーと、職人技へのこだわりが組み合わさっていること。職人技の価値、特別な経験、そして素晴らしいものを作ることの価値は、ますます高まり、私たちにとってますます重要になるだろう。ですから、日本のその組み合わせは、他にはどこにも存在しないと思う。

クリエイターにとって、AIは脅威か

沙羅: クリエイティビティーを探求すると同時に、安全性と責任についても考える必要がある。特に海外ではクリエイションにおけるAI活用について懸念を持つ人々も多いが、OpenAIではどのように取り組んでいるのか?

サム:われわれはクリエイターの権利、そしてクリエイティビティーに注がれる労力とその価値、歴史を尊重している。しかし、私たちの役割はテクノロジープロバイダーであり、コミュニティーの一員であると捉えている。心地よく、有用であるためにどんなことが必要か、クリエイティブコミュニティーと対話していきたい。もちろん、誰もが同意するわけではないと思うし、AIを使用するためのルールはどんどん変わっていくだろう。そんな中で、人間の創造性を豊かにし、素晴らしいクリエイターたちが不利益を被らないようにすることを意識し続けていこうと思う。だからこそ、今日参加してくれたクリエイターの2人がAIに求めるのはどんなものか知りたい。

真鍋:リアルタイムなものを作ってほしい。そしてオープンソースのものが増えれば、ファインチューニング(学習済みのモデルに、独自のデータを学習させ新たな知識を加えること)可能なモデルがあると、面白さが広がるだろう。

草野:私もファインチューニングモデルと、よりニッチな文化のリファレンスがあるとうれしい。アメリカ的な文化を生成しようとすると非常に正確だが、ニッチな文化に焦点を当てるとあまり正確ではない。

真鍋:今はAIのアップデートにずっとついていく必要がある。1年前のことはもう古くなるような状態で、日々それにキャッチアップしていく状態だ。こんな状態がずっと続けば疲れてしまうと思うが、この先はどうなっていくのだろうか。

サム:情報のアップデートについて、将来はもっと速くなり、今後2年間でさらに加速するだろう。

草野:もし私がAIの未来を定義するなら、それは「エイリアンと共存すること」ーーAIはエイリアンの知性だと言われている。だからこそ、AIは守護神や仲間にもなり得るし、敵のようにもなり得る。このエイリアンと共存するためのヒントとは?

サム:「エイリアンとの共存」について同感できるが、言葉から想像するほど奇妙なことにはならないはず。ほんの3年前に戻れば、ChatGPTは存在していなかった。3年経った今、私たちはすでにエイリアンと共存し、生活は変わらず続いている。世界は大きく変わると思うが、人間としての経験はこれまでとさほど変わらないのではないか。AIは友好的なエイリアンであり、そのエイリアンと共に人間が新たな経験をして、人生はより良く、豊かになると信じている。

沙羅:AIを使って私たちの生活をより良くするためには?

サム:AIは生産性を高めるのに役立ち、すでに新たな科学の発見にも役立っている。我々はこれらのモデルを安全に使うため、どのようにテストし、世界的な安全基準を定義するかが重要な課題だ。世界にはAIを使うさまざまな方法があり、良いものも悪いものもある。非常に悪い事態を避けるために、急いで対応しなければならない。

沙羅:クリエイターはAIとどのように共創すべきか?

サム:われわれはクリエイティブな人たちのことを尊敬しているが、あくまでツールメーカーであり、アーティストではない。だからこそ、アーティストたちの声に耳を傾け、彼らにとって役立つものを作り、世に送り出して、それを世の中にどのように適応させるか考えることこそがわれわれの使命だと思う。そしてクリエイターから多く寄せられる「より良く、より強力で、より速く、より高性能なツールが必要だ」というメッセージこそ、われわれがこれから実現していく課題だ。

沙羅:AIに頼りすぎると人間の能力が弱まるという意見もある。その点について、注意を払っていることとは?

サム:私が子どもだった当時はGoogleが登場したばかりで、先生たちは生徒がGoogleを使うのを禁止しようとした。「何でもすぐに検索できるようになれば、子どもたちは学ばなくなり、事実を覚える必要もなくなる」と。しかし、人々はこの新しいツールがあるからこそ、もっと良く、難しく、面白いことに頭を使うようになり、より多くのことを得られるはずだと考え、今に至っている。そしてそれは、AIも同じはずだ。以前は考えなければならなかったことにAIを使い、それによって心の余裕が生まれ、さらに色々なことを考えられるようになった。もちろん誰もがそのように使っているとは限らず、明らかに“ただ楽をするため”に使っている人も事実だが、少なくとも私は自分が怠け者になったとは感じていない。

沙羅:アニメ以外にも、Soraでは“映画風”などスタイルを指定できる。ユーザーの間ではどんなリクエストが多いか。

サム:最も多いリクエストは、「もっと魅力的に見せてほしい」といったものです。人々は自分の写真をアップロードして、「こんなふうになりたい」と求める。人気のiPhoneアプリを見ても、ほとんどは見栄えを良くするようなものだ。

沙羅:アートにおいて、「人間が行うからこそ価値が残るもの」は何か?人々はAIとどのように生きるべきと考えている?そして、今日のセッションを対面で行うことの意義とは?

サム:人間は他の人間を気にかけるようにプログラムされている。AIが人間よりもうまくできることはたくさんあるものの、人々はそういったものに心惹かれません。私が子どもの頃、IBMが作ったスーパーコンピュータが、当時のチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ(Garry Kasparov)をで破りました。当時、父が「チェスは終わった。もう誰もチェスに関心を持つことはないだろう。機械の方が強いんだから」と言ったのを覚えている。その頃の私にとって、父の言葉はもっともだと思いましたが、今でもチェスは根強い人気で、観戦する人もとても多い。それでも、AI同士が対戦するのを見たいと思う人はほとんどいないーー人々は、物語の背後にいる「人間」に関心があるのだ。私たち人間は「他の人々」の存在に非常に興味がある。昨今、AIがこのような知的作業をこなすようになるにつれ、人々は他の人々のやることや、人によって作り出された新たな経験に重点を置くようになるだろう。今日のトークを対面で行ったのも同じ。対面で行うことで人々の反応を得られるとともに、私は「雰囲気はどうだったか」「周りにどんな人がいたか」「その場所はどこだったか」と記憶するのだ。

沙羅:Appleの1987年のガイドラインは、「製品がユーザーにどのように感じさせ、どのような関係を築くべきか」を強調している。大手テック企業はそれぞれ異なるアプローチを取ってきたが、OpenAIのユーザーと開発者に対する哲学とは?

サム:私たちは、AIが人々の幸福を気にかけてくれる友人のような存在であると人々に感じてほしいと思っている。「あなたがつらいとき、あなたのことを本当に気にかけている人なら何をアドバイスするだろうか」という思想のもとつくられているのが、ChatGPTが他のテクノロジーと大きく異なる点だ。この「あなたを助けようとしている」と感じられることが、人々が好んでChatGPTを使っている理由の一つだと思うーーこれこそが、私たちが望むビジョンだ。

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