「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へのオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は「WWDJAPAN」2025年7月28日号からの抜粋です)
コスメ界に一体何が起こっているのか?正直そういう感慨を持たざるを得ないのは、言うまでもなく、常に人気ブランドであり続けた「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」が10月末に日本から撤退することが決まったから。とりわけコアなファンが多かったこともあり、一体なぜ?という悲鳴にも近い驚きと困惑が渦巻いたからだった。実際、美容各誌のベストコスメの常連で、クッションファンデーションなどでは“常勝ブランド”でもあったから、一体なぜ?の反応は業界内でも同じ。この数年、幾つものブランド撤退があったものの、最も不可解なケースとなった。
3年前に資生堂が米国ファンドにブランドを売却、資生堂は販売のみ行っていたわけで、もちろんそれを明快な原因にすることは簡単だけれど、むしろここにある違和感から今のコスメ市場にある問題をさまざまにあぶり出すこともできるはず。
一つに、たとえベスコスの常連であっても、実際の現状とは齟齬があることを物語ったわけだが、それ以上に今回はブランドの将来性ということに疑問が生まれたのかもしれない。いやもちろん素晴らしいブランド。しかし、ブランドのルーツを考えるならば、メイクアップ・アーティスト、ローラ・メルシエが1996年に作ったブランドは創業から約30年、本人は第一線を退いており、彼女が作った独創的なナチュラルベースメイクの理念はまだ引き継がれているものの、アーティストコスメとしての役割は既に終えていたのかもしれない。少なくとも1990年代から2000年代に一大トレンドとなったアーティストコスメも今や意味合いを大きく変え、アーティストの提案だから手放しに受け入れるという時代ではもうない。どれだけ時代を読み切った洗練を示せるか?に懸かっている。一方でハイブランドだから買うという時代でもないわけで、そういうカテゴリーを超え、安価な韓国コスメなども含めて同じ土俵での戦いとなる“メイクもの”にはけっこうシビアな未来が待っていると見るべきなのだろう。
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