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来場者数よりも“本気の商談“を重視するベルリンのB2Bイベント「ザ ユニオン」 日本ブランドも多数出展

世界的に見本市ビジネスが過渡期を迎える中、ドイツ・ベルリンを拠点とするザ ユニオンが主催するB2Bイベント「ザ ユニオン ベルリン(THE UNION BERLIN)」が活気づいている。同イベントは「良きビジネスのための場(A PLACE FOR GOOD BUSINESS)」をスローガンに掲げ、2022年夏にスタート。6月22〜24日に開催された26年春夏シーズンは、デニムやレザーウエア、アロハシャツからバッグ、シューズ、シルバージュエリーまでヘリテージファッションを中心に約70ブランドが出展した。その3割以上を日本が占め、比較的規模の小さな日本のブランドが欧州市場に進出したり、海外ビジネスを拡大したりする足掛かりにもなっている。

同イベントを手掛けるのは、ドイツで「ポーター(PORTER)」のディストリビューターなども務めているフェリックス・エンゲルマン(Felix Engelmann)=ザ ユニオン創業者だ。立ち上げの経緯について、彼は「自分自身もディストリビューションの仕事をしていて、従来のトレードショー(見本市)や合同展は多くの来場者がブースを訪れても、必ずしも商談や買い付けにつながるわけではないと感じていた。私たちが取り組んでいるのはブランドとショップが共にビジネスを行うための共同体。だから『トレードショー』とは呼びたくなく、シンプルに“連合”や”組合”を示す『ユニオン』という言葉を選んだ」と説明。「重視するのは、来場者数よりも本気で商談が行われる環境を整えることだ。そのため、ショップ関係者が来場するには出展ブランドまたは私たちからの招待が必要。支払いなどで待たされることの多い食事やコーヒーなどのドリンクを無料でスムーズに提供したり、必要に応じて現地での通訳を手配したりと、円滑なビジネスをサポートしている」と続ける。

また、常にイベントを改善していくため、「WhatsApp(メッセージングアプリ)」で出展ブランドや来場したショップの意見を聞いたり、出展料の改定などの際には多数決を取り入れたり。皆で作り上げるオープンで民主的な運営体制も特徴と言える。そういった背景もあり、ビジネスに重きを置いているものの、会場には親密でフレンドリーな雰囲気が漂う。

品質で勝負するブランドだけを厳選

そんな「ザ ユニオン ベルリン」は会場となっている元冷蔵倉庫の1フロアのみでスタートし、現在は中央が吹き抜けになった3フロアと完全アポイントメント制の1フロアを使用するまでになった。しかし、エンゲルマン創業者は「最も大切なのは、参加者全員が効率よくビジネスをできること。規模が大きくなりすぎると、自分たちがなりたくない従来型の見本市や合同展のようになってしまうリスクがある」とし、焦点を絞ってクオリティーを維持していく考えだ。

出展者の選考基準については、「マーケティングではなく“品質の証“としてブランドのラベルやロゴを用いているか。アイテムカテゴリーや価格帯は問わず、品質で勝負するブランドを選んでいる。そうすることで、来場する小売業者が“『ザ ユニオン』に行けば、すでに買い付けているブランドだけでなく、他の素晴らしいブランドにも出合える“と思えるような場所にしたい」と語る。「私が知る日本のブランドからは、製品やモノ作りに真摯に向き合う文化を感じる。そういったブランドの評価は欧米でも高く、その姿勢は“ディスカウント”を前提としない健全なビジネスを続けていくためにも重要だ」。

出展者が語る「ザ ユニオン」の意義

今回のイベントには、ドイツをはじめとするヨーロッパ、アメリカ、タイ、イスラエル、台湾、韓国、日本などの約180店舗のバイヤーが訪れたという。その数自体は大規模な見本市に比べると圧倒的に少ないものの、その狙い通り、ビジネスの場として機能しているようだ。

初めて出展したベーシックなニット中心の「ムーンキャッスル(MOONCASTLE)」を手掛ける月城亮一・月城ニット社長は、「海外ではすでにフィレンツェの『ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)』とパリの『ウェルカム エディション(WELCOME EDITION)』に出展している。他と比べて『ザ ユニオン』は来場人数が少ない分、バイヤーの方々にじっくりとブースを見てもらったり、製品について説明させてもらったりすることができた。結果、ビジネス的にもほかの海外展に引けを取らないくらいの手応えがあった」と振り返った。

一方、4回目の出展となるデニムブランド「フルカウント(FULLCOUNT)」を率いる辻田幹晴社長は、日本製デニムが世界で認知される前の1990年代後半から海外展開に挑戦しており、地道に販路を確立。その中で酸いも甘いも経験してきたという。現在は他の見本市には出展していないが、「ザ ユニオン」については「私たちの場合は、すでに海外に100アカウント以上の卸先がありビジネスも安定しているので、既存のお客さまと会うことが出展の大きな目的。一つのブランドとして成功すればいいというわけでなく、日本のモノ作りの背景をしっかり守っていくためにも、海外で日本の製品がしっかり評価される場になれば良いと考えている。その点、『ザ ユニオン』は日本の文化を尊重するフェリックスとの距離も近く、コンセプトに共感する部分も多い。他の新しいブランドにも声をかけたり、意見を交わしたりして、一緒に取り組んでいる」と話した。

今年から日本でのイベントも本格始動

さらにザ ユニオンは、「クロ(KURO)」などオリジナルブランドの生産・販売や海外ブランドのディストリビューション、合同展示会「マグ(MAG)」を手掛けてきた総合セールスエージェントのブルース(BLUES)とパートナーシップを締結。2年半にわたる話し合いの末、「ザ ユニオン ベルリン」のコンセプトを踏襲した日本でのイベント「ザ ユニオン トウキョウ(THE UNION TOKYO)」を始動した。3月のソフトローンチを経て、2026年春夏シーズンは7月15〜17日まで渋谷のクウォーツギャラリー(QUARTZ GALLERY)で開催する。今回は、国内外の約25ブランドが出展予定だ。

刑部健太郎ブルース社長は、「これまで開催していた『マグ』は一旦ストップし、『ザ ユニオン』にフォーカスする。今回の来場予定は国内のショップが多いが、将来的には韓国や中国、台湾などアジアのバイヤーが集まるハブにしていきたい。また、ベルリンでは欧米のショップから、東京ではアジアのショップからオーダーを取れるような環境を整え、両方に出展するブランドを増やすことを目指す」と語る。今後は、海外のブランドやバイヤーの参加も促すため、グローバルな買い付けや生産サイクルに合わせ、7月と2月の年2回開催していく予定だ。

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