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1970年大阪万博の未完のアートを現代に再現 グッチ銀座 ギャラリーで開幕した「横尾忠則 未完の自画像―私への旅」をリポート

PROFILE: 横尾忠則/美術家

横尾忠則/美術家
PROFILE: (よこお・ただのり)現代美術家。1936年兵庫県生まれ。72年にニューヨーク近代美術館で個展。その後もパリ、ベネチア、サンパウロなどの世界3大ビエンナーレに招待出品。ステデリック美術館やハンブルグ工芸美術館、パリのカルティエ財団現代美術館、東京都現代美術館、東京国立博物館などの世界各国美術館で多数の個展を開催。2012年、神戸に横尾忠則現代美術館が開館。13年、香川県豊島に豊島横尾館が開館。作品はメトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館、大英博物館、ポンピドゥ・センター・メス、ウフィツィ美術館など世界各国の主要美術館に収蔵されている。26年春にイギリスのテームズ・アンド・ハドソンより500ページの作品集が世界発売する PHOTO:MAYUMI HOSOKURA

横尾忠則の個展「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」が東京・銀座のグッチ銀座 ギャラリーで8月24日まで開催している。同展は横尾と「グッチ(GUCCI)」が2020年にグッチ渋谷 ミヤシタパークのオープンの際のコラボレーションが発展した形で実現した。

同展では、横尾が一貫して掲げてきた「未完」をテーマに、約30点の作品を鑑賞できる。​初公開となる自画像や家族の肖像など最新作6点も含まれている。キュレーションは美術評論家の南雄介が担当し、「旅」を想起させるテーマを描いた作品を中心に構成されている。

展示は「未完」「自画像」「旅」の3つのテーマで構成されている。「未完」では、1970年の大阪万博「せんい館」で発表されたインスタレーション《未完の足場》が再構築され、真っ赤な足場が空間を支配。​「自画像」では、最新作6点が展示されており、夫婦を描いた4点、家族全員を描いた1点、自画像1点からなる。​「旅」では「Y字路」シリーズを含む、旅を想起させるテーマを描いた作品がそれぞれ展示されている。

創造の源泉である“未完”

同展のために描かれた新作自画像は、横尾がこれまで「描いたことがない」という6点の連作で展示されている。家族の肖像を描いた《家族総出演》は、微笑む横尾夫妻を取り囲むように描かれた家族の姿がある。奇抜な色使いと「朦朧派」のような輪郭が不分明な構成の中に、あたたかい眼差しと時間の積層が感じられる作品だ。《未完の自画像》は、キャンバスの中央に描かれた自身の顔の一部が塗り残されているが、単なる制作途中ではない。むしろ「未完であること」そのものが意図された完成形のようでもあり、観る側に補完する視線を求めるようにも感じられる。横尾の創作は今なお現在進行形であり、見ること、観察することへの執着が強くにじみ出ているように感じた。

1970年の大阪万博「せんい館」を現代に再現

7階から屋上に通じ、さらに屋上のビルボード作品へと続くインスタレーション《未完の足場》の再構築にも注目したい。1970年の大阪万博「せんい館」で物議を醸した「未完のアート」を55年ぶりに再現した同作は、天井まで届く真っ赤な足場が空間を支配し、その中に《原始宇宙》の複製が浮かぶように展示されている。「建設途中の構造物を展示する」という挑発的なコンセプトが時を経て今再び、鮮烈な印象で鑑賞者を圧倒する。「未完」という状態そのものを空間全体で体験することができる。

会場には“旅”をイメージさせるモチーフが繰り返し登場するが、インタビュー映像で横尾は「旅は外へ出ることではなく、内面への回帰」と語り、自画像の連作については「自画像というのは私への旅」とし「自分の存在というものはわからない。不思議で謎に満ちている。そこから『自分への探求』を始めてみようと。それが自画像」と結んでいる。作品を通じた自己回帰の旅は、我々が今なお「旅」の途中であり未完であることを強く示しているようだ。

同展は横尾の「未完」という美学を多角的に体感できる貴重な機会であり、​最新作から過去の代表作までを通じて、創作の旅路を追体験することができる。​現在に再現された《未完の足場》は当時の革新的な試みを現代に蘇らせるものであり、インスタレーションも必見の展示といえる。

◼️「横尾忠則 未完の自画像 ― 私への旅」
会期:8月24日まで(予定)
会場:グッチ銀座 ギャラリー
住所:東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座 7階
時間:11:00〜20:00(最終入場は19:30)
休日:会期中無休
料金:無料(予約優先) 
※屋上スペースの展示は天候・時間によって観覧不可の場合あり
来場予約:https://line.me/R/app/1601842270-wAXNyj2g

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