ファッション

始まりは何気ない沖縄移住から “外の視点”で沖縄の魅力を伝える「タイオン」10周年

郷土愛の強さで知られる沖縄には、購入者の6割が地元民、残りの4割が観光客という沖縄発のアパレルブランドがある。大坪奈央がデザイナーを務め、夫のリー・ヤスミツ(Lee Yasumitsu)がテキスタイルの原画を描く「タイオン(TAION)」だ。沖縄の鮮やかな花々をオイルペインティングしたプリント柄がアイコンで、2015年にテキスタイルブランドとして立ち上げてから、この4月で10周年を迎える。現在、直営店を那覇市に2店舗構え、「琉球ホテル&リゾート 名城ビーチ」「ハレクラニ沖縄」などリゾートホテルを中心に県内に5つの卸先を持つほか、年に2回ほど伊勢丹新宿本店などで県外でもポップアップを開いている。

県外からふらりと移住
11年のTシャツ販売業が芽を出すまで

さぞかし沖縄に関係性の深い人物が手掛けたブランドかと思いきや、大坪デザイナーは山口県、リーは福岡県出身だ。「タイオン」の始まりは偶然だった。約20年前、数週間の滞在のつもりで沖縄を訪れた2人は、那覇市のメインストリートである国際通りの露天商たちに目を奪われた。物売りをしている人がいれば、火まわしの大道芸人もいる。そんな新鮮な環境に、「自分たちもやってみたい」と自己資金で始めたのがハンドペイントのTシャツ販売だ。2004年のことだった。

それまで一度も絵を描いた経験のないリーのTシャツは鳴かず飛ばずで、気づけば在庫を抱えたまま数年が経っていた。「スピリチュアルだと思われるかもしれないが、沖縄はパワースポットが多い土地。初めは独特の空気感になじめず、早く地元に帰った方が良いのかも、とすら感じていた」(大坪デザイナー)。しかし粘り強い2人に、沖縄の神も根負けしてくれたのだろう、ある日リーが突然「なんだか絵の描き方をつかんだかもしれない」と言い出した。すると、Tシャツは飛ぶように売れ始め、ピーク時には数時間で二桁万円の売り上げを記録するようになった。

徐々に2人のTシャツを卸売りする小売店が増える中、ブランドの世界観をより大きなファブリックで表現したいと、15年にテキスタイルブランド「タイオン」にリニューアル。服飾を専門に学んだ経験のない大坪デザイナーは社内でパタンナーを雇い、オリジナルのテキスタイルからドレスやスカート、かりゆし(沖縄版アロハシャツ)、バッグまでを作り販売を開始した。「沖縄の人は地元産を大切にする傾向がある。アラマンダやブーゲンビリアなど沖縄の花を描いているから観光地にふさわしいと、すぐにリゾートホテルから取引依頼がかかるようになった」。

10周年で初のファッションショー
四季折々の花々で観客を魅了

2月下旬、沖縄市にある日本初のショッピングセンター「プラザハウスショッピングセンター」には大勢の「タイオン」ファンや関係者が詰めかけていた。この日の目当ては、ブランド設立10周年を記念して開催したランウエイショーだ。

ブランドの次のステージを示すため、大坪デザイナーは新機軸となるコレクションライン「タイオン マリアージュ(TAION MARIAGE)」を発表した。青いユリや白いデイゴ、ピンクのハイビスカスがコットンやシルク、シフォン生地の流麗なシルエットのドレスに映える、ウェディングラインだ。「同性婚でも事実婚でもなんだっていい。人生の節目に寄り添うようなコレクションを作りたかった」と大坪デザイナーは話す。リーが同ラインのために描き下ろした13種類のテキスタイルは、パフスリーブ、オフショルダー、モックネック、キャミソールなどさまざまなタイプのドレスに加え、男性用のオープンカラーシャツとして生まれ変わった。

レギュラーラインが平均3万〜5万円であるのに対し、「マリアージュ」ラインは8万〜10万円。さらに、家族やブライズメイドもそろいのスタイルを楽しめるようにと、新ラインの中に1着5000〜1万円で借りられるレンタルラインも作ったという。

沖縄仕込みの鮮やかな色彩で
世界のリゾート地を目指す

「まだまだ小さいビジネスだから」と話す大坪デザイナーの謙遜とは裏腹に、しっかりとファン層は育っている。ショー後のアフターパーティでは、「タイオン」に魅せられた観客を多く見た。豊見城市で貸し衣装業「かりゆしレンタル アン」を営む女性によれば、「『タイオン』はウエディング衣装目的でレンタルする人が多いブランド」といい、ショーのために愛知県から来たというYACOさんは「日本のブランドで色や柄がはっきりしているウエアは少ない。ホテルで購入したのがきっかけで集めるようになった。リゾート地に持っていくことが多い」と話す。沖縄を拠点に活動するジャズシンガーのMITCHYさんは、「鮮やかでステージ映えするので衣装によく選ぶ。それどこの服?と聞かれることも多々ある」と体験談を語ってくれた。

ひっそりと始めたブランドが、10年続く存在にまで成長するのはたやすいことではない。大坪デザイナーに成功の秘けつを尋ねると、「沖縄出身でないからこそ、この土地のすばらしさや新鮮さ、色彩の鮮やかさに気づけたんだと思う」とほほ笑んだ。今後は世界のリゾート地を照準に、販路拡大を狙う。沖縄でつちかったノウハウをもとに、ハワイやバリで路面店をオープンさせたり、ホテルで卸販売したりするのが夢だという。

ひょんなことから沖縄に移住することになった大坪デザイナーとリーの「タイオン」。限られた卸先から、本州の人々の目に触れる機会は多くないだろうが、ぜひ「WWDJAPAN」読者に知ってほしいブランドだ。2人が20年前に蒔いた“種”が、沖縄の花々のように、大輪を咲かせようとしている。

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