
この連載は週に一度、「WWDJAPAN Digital」に掲載した記事から学生に読んでほしいものを厳選し、記者のコメント付きで紹介するものだ。今回は、日本で初めてLVMH主催のイノベーションアワードを受賞した「へラルボニー」の快挙の背景や、101歳の美容部員が活躍するポーラの面白さなど3つの記事を掘り下げる。ニュースの読み方を知るとともに、面接やビジネス会話のヒントになれば幸いだ。
【記事1】
「LVMHイノベーションアワード」受賞直後のヘラルボニー
絵画を纏うシャツ&バッグ始動

ヘラルボニーはこのほど、新しい衣服を提案する「ヘラルボニー イサイ(HERALBONY ISAI)」をスタートした。国内外の知的障害がある作家のアートデータを高密度・多色の米沢織で表現したアートピースを額縁にはめて楽しむシャツとバッグ発売する。ヘラルボニーは、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)主催の「LVMHイノベーションアワード 2024 (LVMH INNOVATION AWARD 2024)」の「従業員体験とダイバーシティ&インクルージョン(Employee Experience, Diversity & Inclusion)」部門を受賞したばかり。(全文はこちら)
【記者の解説】
「LVMH イノベーションアワード」は、世界の有望なスタートアップ企業をたたえ、成長を支援するプログラム。今年は、過去最大の89カ国、1545社からのエントリーが集まったといいます。LVMHが、障がい者アートをIP(知的財産)として活用するヘラルボニーを選んだことについては、意外に思う人もいるでしょうか?
しかし障がい者アートは、ファッションやビューティとの親和性が極めて高いIPだと思います。ヘラルボニーが世に送り出しているアートは、ベルメゾンと一緒に作ったTシャツや雑貨を皮切りに、JALのビジネスクラスで配布されるアメニティを収めたポーチ、コーセーのコスメを詰めるギフトボックスなどに用いられてきました。また銀座の並木通りにある「ハイアット セントリック 銀座」には、ヘラルボニーのアートで彩った客室も存在するのです。
そう考えると、例えば将来「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」の洋服やバッグにヘラルボニーのアートが用いられるかもしれないし、「ゲラン(GUERLAIN)」や「ジバンシイ(GIVENCHY)」のメイクのパッケージやボックス、ショッパーを彩るかもしれないし、「モエ・エ・シャンドン(MOET & CHANDON)」や「ドン ペリニヨン(DOM PERIGNON)」のラベルに用いられるかもしれないし、「セフォラ(SEPHORA)」や「DFS ギャラリア」などの小売店の空間を演出しても不思議ではないでしょう?LVMHとヘラルボニーは、とっても親和性が高いと思います。もちろんヘラルボニーのアートを活用することで、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括性)という社会課題に対するアティチュードを表明できるのも、この価値観を重んじるLVMHにおいて大きなポイントと言えるでしょう。性別や性的指向、年齢、人種、信条などに囚われない組織を目指す会社にとって、障がいの有無を超越した取り組むに挑むことは、自然であり必然のステップなんだと思います。(村上要/編集長)
【記事2】
祝101歳!ポーラの最高齢美容部員がギネス記録更新
月平均売り上げも伸長中
昨年8月に100歳で「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定されたポーラ桜水ショップのビューティディレクター・堀野智子さんが4月9日に101歳の誕生日を迎え、自身が持つギネス記録を更新した。堀野さんはギネス記録認定後も研修や勉強会に休まず参加し、月の平均売り上げをさらに伸ばすなど精力的に活動を続けているという。(全文はこちら)
【記者の解説】

ポーラの訪問販売を担当するビューティディレクターは、顧客のライフスタイルに寄り添ったコミュニケーションを得意とする人が多く、数十年にわたっての常連客も少なくない。コロナ禍で店舗の営業がままならなかった際も、彼女たちの顧客は離れることなくガレージで商品を渡したり、ポストで受け渡しをしたりと売り上げを落とさず、改めて訪問販売の強さを証明した。現在は、自宅に訪れる販売方法に加えて、拠点を設けてエステティックサービスや接客を行うスタイルが増えているため、訪問販売の実態が変わってきている。(牧田英子/副編集長)
【記事3】
デジタルファッションとは?
作らないビジネスの芽を発想の転換で育めるか
5月27日号「サステナビリティの基礎用語65」特集の中から、「デジタルファッション」をピックアップして深堀りをする。「良いものを長く着て作り過ぎない」が理想ではあるものの、トレンドのファッションを楽しみたいと思う消費者からの、安くてすぐ手に入る服の需要も高まっている。そうしたエンターテインメントとしてのファッションをより負荷の少ない方法で提供する手段として、フィジカルなモノ作りをしないデジタルファッションという選択肢が出てきた。ここではAIブームで多方面に広がるデジタルファッションの基礎をおさらい。(全文はこちら)
【記者の解説】
デジタルファッションとは、仮想空間上に存在するファッションアイテムを指す。電力消費の負荷はあるものの、フィジカルな服作りに必要な膨大な資源や製作過程で発生する廃棄物は抑えることができるという観点から、持続可能なファッションビジネスの方向性として注目を集めている。例えばデジタルファッションブランドの「ドレスX(DRESS X)は、SNSで写真をアップするためだけに服を購入している人たちが一定数いることからも、デジタル上のみで楽しむファッションの需要と可能性を語っている。もちろん、袖を通した時の高揚感、布の上で表現される緻密な職人技などフィジカルでしか楽しめないファッションの魅力はたくさんある。ただトレンドを消費するためのファッションは、フィジカルである必要性があるのか改めて立ち止まって考えたい。(編集部記者/木村和花)