PROFILE: ディディエ・ギヨン/ヴァルモン・グループ会長兼アートディレクター
スイス本国をはじめヨーロッパでは、ブティックで提供するスパトリートメントや高級ホテルのアメニティーで知られる。日本ではギンザシックスの直営店のほか、コンラッド東京やフォーシーズンズホテル東京大手町など高級ホテルのスパを中心に展開し、百貨店の外商向け商材としての引き合いも多い。富裕層を中心に支持を集める同ブランドは、文化交流や社会貢献活動でも知られる。ヴァルモン・グループの会長兼アートディレクターのディディエ・ギヨン(Didier Guillon)は、自身のアートへの情熱を伝えキュレーター・アートコレクターとして収集する現代美術のコレクションを公開するため、2015年にヴァルモン財団を設立した。「ヴァルモン」が力を入れる文化活動について話を聞いた。
WWD:「ヴァルモン」が行う文化活動とは?
ディディエ・ギヨン=ヴァルモン・グループ会長兼アートディレクター(以下、ギヨン):「ヴァルモン」はブランドを化粧品の枠に限定せず、“美とアートの融合”をアイデンティティーマニフェストに掲げている。ヴァルモン財団はあらゆる形式で芸術を促進するという使命を持ち、世界中のアーティストによる企画展や芸術イベントを行っている。また、スパ「メゾン・ヴァルモン」では、スキンケア商品とフレグランスコレクションと共に現代アートが並び、目と心に喜びを与え想像力を掻き立てる空間でアール・ド・ヴィーヴル(暮らしの美学)を堪能することができる。
昨年11月に東京・ギンザ シックス(GINZA SIX)で開いた「タンザニアのアイボ展」では、「ヴァルモン」が設立40周年を迎えるブランドでありながら若い精神を持つことと、自由、未来、寛容さといったブランドの世界観を理解していただくことをテーマに企画した。ファッションブランドがファッションショーをするのと同じように、アートを通してブランドを感じてもらいたい。
WWD:「アイボ展」ではサステナビリティの取り組みも伝えていた。
ギヨン:始まりは末娘とベルリン動物園を訪れたことにさかのぼる。私たちは動物園の象徴だったゴリラに親しみを込めて“アイボ”と名付けていた。娘はアイボの悲しげな目を見て私に「アイボを檻から解放して自由にして」と懇願しことから、私はアイボをアートワークにして巡回展として世界中を旅させることにした。展示会場では「ヴァルモン」の最高峰プレミアムライン“レリクシール デ グラシエ”から生まれたミツバチの恵みを取り入れたコレクション“エッセンス オブ ビーズ”も展示。このコレクションはミツバチの保護に対するコミットメントを強化することを目標としている。
ヴァルモン・グループは社会貢献を大切にしている。これまでもアート展を通じで多くの人道的支援団体に寄付を行ってきた。19年に日本で開催した展覧会「ホワイトミラー」や昨年の「タンザニアのアイボ展」では非営利団体「子供地球基金」への支援を行った。サステナビリティに関しては、プロダクト面でリサイクルしやすい容器へのアップデートをおこなってきている。また、われわれはギリシャのイドラ島やバルセロナなど世界中にレジデンスを構え、特別なお客さまのためにフェイシャルトリートメントを受けられるツアーを行っているが、そこではプラスチックを使用しないことや海の清掃を行うなどの活動をしている。将来的には、現代アートで知られる瀬戸内海の直島にもレジデンスを作り環境保護活動を伝えるのもゴールの一つだ。
ホテル空間を通じて
ブランドの世界観を伝える
WWD:ビジネスの展望は?
ギヨン:ホテルのスパに主に導入しているが、観光客だけでなくローカルの人たちにどのように「ヴァルモン」の化粧品や世界観、そしてトリートメントを体験していただくかを考えている。新しいブティックを開くよりは、ステイケーション(遠くに旅行に行くのではなく近場のホテルで休暇を過ごす旅行のスタイル)も近年注目されているが、ホテルの空間を通じて「ヴァルモン」のラグジュアリーな世界観を旅してもらうコンセプトを重視している。日本の23年の売上高は前年比32%増と成長しており、日本のマーケットに大きな期待を持っている。
WWD:ラグジュアリー化粧品市場の動向をどのように見ているか?
ギヨン:最高級の原料を使った化粧品は、効率の良さが全く違う。すぐに変化を感じられることを経験し納得すれば、ブランドのファンになっていただけるだろう。化粧品でもファッションでもラグジュアリーブランドはそのような展開になっている。引き続き、われわれのお客さまに特化したアピールを続けていきたい。