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コルセットオタクが高じて起業 ”元鈴木さん”って何者?

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 日本製コルセットブランド「エンチャンテッドコルセット(ENCHANTED CORSET)」や、胸の大きい人のためのアパレルブランドなども複数手掛けるのは、“元鈴木さん”こと大橋茉莉花Alyo社長(以下、元鈴木さん)。もともと理想のボディー・イメージの実現に深い関心があったが、「大の面倒くさがり」という同氏が目をつけたのが、労力もコストも抑えられるコルセット。美容に関する知識や、女性に寄り添うコルセットやアパレル販売を通したフェミニズム的パーパスが共感を呼び、今や“元鈴木さんのコルセット”は秒売れの人気商品に。約11万フォロワーを持つツイッターでは、アパレル製品の使用感を等身大に伝える“おもしろツイート”や、美容に関する発信、愛猫たちやパートナーの愛らしい姿などの投稿が人気を集める。ユーモアあふれる自身の性格から起業するまでの“波乱”の人生、コルセットやアパレルに込めた思いなどを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):今手掛けているブランドの総数は?

元鈴木さん:「ピンナップクローゼット(Pinup Closet)」というECサイトを運営しながら、3ブランドを持っています。アパレルブランドの「24 バイ シネマティック(24 BY CINEMATIQ)」と「シネマティック(CINEMATIQ)」、コルセットブランドの「エンチャンテッドコルセット」というオリジナルブランドの3つに加えて、セレクトアイテムも販売しています。

WWD:近年の売り上げや業績は?

元鈴木さん:業績はとても好調。コロナ禍でも成長を続けています。伸縮性があって、アイロンが不要なアパレルを手掛けているので、“おうち需要”で伸びるばかり。コルセットも、おうち時間で自身の体と向き合う人が増えたからか、需要が増しています。

“抑圧の象徴”ともされるコルセットを逆手に取って社会をサバイブ!

WWDJAPAN(以下、WWD):なぜコルセットに目をつけた?

元鈴木さん:イベントコンパニオンをしていたとき、オーディションで審査に残るための策を練ってコルセットに行き着きました。審査員の印象に残るために、まずオリジナルの“昭和のレスラー”という一発芸を生み出し、次にコルセットで圧倒的なくびれを作ろうと決めました。見た目にインパクトを出したかったのですが大きな胸やお尻は作り出すことは難しかったから、くびれなら運動もせずできるな、と(笑)。当時は仕事をとにかくいっぱいもらえていました。

WWD:コルセットの魅力とは?

元鈴木さん:一番の魅力は、どんなときでもコルセットを締める人の味方でいてくれること。ボディー・イメージを変えたくてダイエットをすることもあるかもしれないけど、モチベーションを保つのはすごく大変なこと。特に現代人は忙しいし、時間を確保するのも難しい。そんなときコルセットは10秒で好きな自分になれる最強の“チート”。自分はとにかく運動も大嫌いで、面倒くさがり。楽してなりたい自分になれるアイテムなんです。

WWD:コルセットは“女性の抑圧の象徴”的なアイテムでもある。コルセットを味方にすることのフェミニズムとは?

元鈴木さん:確かに、今はコルセットやブラジャーは女性を締め付けるものの代名詞として挙げられるものですよね。でも私自身はコルセットで社会のプレッシャーから解放された一人。現代社会には、コルセット以外にも女性をいろいろな方面から縛るものが存在しています。「ハイヒールを履かないと就活ではダメだ」「スカートをはきなさい」いう外見へのプレッシャーや制約はまだまだあるし、見た目がちゃんとしていないと、「自己管理がなっていない」と言われてしまう。周りの人が求める見た目じゃないだけで、「こんなに面白くて賢い私の価値が、なぜないものになってしまうのだろう?」というのが本当に疑問でした。だからコルセットを着けることが自分の本来の価値に気付けたり、自己肯定感を育めたりする一歩になったらいいと思っています。ゆくゆくは“卒業”して、コルセットを脱いでもいい。その結果うちの製品が売れなくなったら、それはそれでいい社会になったのだと思います。気に入ったら使っていただきたいですけど(笑)。

WWD:どんな人にコルセットはおすすめ?

元鈴木さん:多くの方は、コルセットを自己表現や自己実現のために使っています。最近では、男性も使っていると聞いてとてもうれしかったです。くびれを生み出すことを楽しんで愛用してくれているそう。コルセットは自由意思の下で、自分が自分を好きになるために着けてもらうことが大事です。誰かから「これしないとだめ」とか、「やばいよ」と言われて着けるものではない。強制されてはいけないんです。男性から「彼女にプレゼントしようと思っている」という相談を受けることもありますが、「彼女は本当に欲しがっている?」と確認するようにしています。誰かを傷つける製品ではありたくないです。

谷間は“鬼死守”!? 500mlのペットボトルも入る“マジカルポケット”がヒット

WWD:アパレルアイテムでこだわっていることは?

元鈴木さん:製品の生地が伸びることや、500mlのペットボトルも入る“マジカルポケット”を備えていること、女性が一人で着られることを大事にしています。製品を通して女性の自立を支援したい。例えば、当初は背中にファスナーがあるドレスを扱っていましたが、一人で着られないという声を受けて、なるべく脇部分にファスナーを採用するようにしています。 あとは、一時期家賃も払えず、ご飯もまともに食べられず、1カ月間“ホームレス生活”を送っていたこともあって、ブランドアイテムは多くの人が手を伸ばしやすい価格帯にすることをモットーにしています。

WWD:ヒット商品は?

元鈴木さん:“ホリデーワンピ”が特に人気です。別名“谷間鬼死守”ワンピと呼んでいます。胸元が深いけど生地が伸びて体に寄り添うので、どんなに動いても谷間が見えない。谷間がきれいに見える服が好きでも、ブラジャーが見えるのを気にしてしまうことが多いんですよね。“鬼死守”仕様だったら、快適に安心して過ごせるようになっています。

 “ヴァージニースカート”も人気です。そもそもこの製品が生まれたきっかけが、「メンズのアパレルはポケットが多くて身一つで出られるものが多い。でもウィメンズはシルエット重視で機能性に欠けている」という趣旨のツイートを見たこと。「じゃあメンズのポケットよりも大きい容量で、形がきれいに見えるものを作ろう!」と決めたんです。狙ったわけではなかったのですが、結果、お尻拭きや哺乳瓶も丸々入るということで子どもを育てる人からも人気がある製品に成長しました。

 “リアルフリーサイズワンピ”は、ECで苦戦するサイズ選びを楽にした商品。ワンサイズでどんな人もきれいに着られるものを目指し、安心してお買い物を楽しめるようにしました。肩のところが開いているので、「ワクチン打ってきた!」とアピールしやすいのもポイントです(笑)。

WWD:“リアルフリーサイズワンピ”はパートナーが着用した写真が印象的だった。

元鈴木:「メンズの服って上下が分かれていて蒸れるから、家の中では俺もワンピースが着たい」と申し出があって、着せてみたら実際着られたし、似合っていた。ツイッターに載せるときも、「俺が売り上げに貢献する!!」とノリノリでエンジョイしていました(笑)。

WWD:洋服づくりへの思いは?

元鈴木さん:オシャレというよりも、問題へのソリューションを提供しているので、洋服だけを作っているわけではないと感じています。ウィメンズの洋服特有の問題があって、どういう製品だったらそれが解決できるかを考えています。女性の“叫び”のようなものはツイッターに一番集まるので、課題はSNSから拾います。SNSで共感を呼ぶことは強みでもあるしリスクでもあるけれど、モノづくりの基本にフェミニズムを据えているので、そこを守っていれば届いてほしい人に届くはず。

生粋のエンタテイナー気質でツイッターで人気を獲得

WWD:ツイッターのアカウント名である“元鈴木さん”の由来は?

元鈴木さん:単純に旧姓です。旧姓でイベントコンパニオンや芸能活動をしていた時期があり、そのアカウントを引き継ぐときに鈴木ではなくなっていたので、「元鈴木」に。少し怪しげな、含みのある名前で気に入っています(笑)。

WWD:猫たちの投稿もとってもキュート。

元鈴木さん:今は丸顔のみーだんちゃんと、黒猫のこしあんくんの2匹を飼っています。みーだんは、会社を創業してすぐのときに住んでいたアパートの側溝にハマっちゃっていたのを助けて引き取りました。みーだんと共に会社は成長している感じです。看板猫であり、招き猫です。

WWD:ツイッターの投稿で大切にしていることは?

元鈴木さん:昔からとにかく凝り性で、いろんな方面に「オタク」です。その中でもブレないのは、「めんどくさい」を減らすこと。美容やライフスタイルについて多く発信する中でも、努力しなくても結果が出るものしか紹介しません。あとは、自虐しないこと。見ている人が悲しい気持ちにならないよう意識しています。エンタテイナーでありたいんです。

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