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「カルティエ」が「オメガ」を抜いて世界第2位に その原動力は“美の資産”のセレブレーション

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 「カルティエ(CARTIER)」のウオッチメイキングにとって、2021年は記念すべき年になった。世界の売上額ランキングによれば、「カルティエ」は「オメガ(OMEGA)」を抜き、3位から2位に躍進したのだ(ちなみに1位は「ロレックス(ROLEX)」。一連の成功における主役のひとりが、カルティエ インターナショナル本社でインターナショナルマーケティング&コミュニケーションを担当するアルノー・カレズ(Arnaud Carrez)ディレクターだ。

 2年ぶりにジュネーブで開催された時計フェア「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」で、「カルティエ」は他のメゾンを引き離す圧巻の新作を次々と発表した。

 中でも注目したいのは、“タンク”コレクションだ。昨年には万人がアクセスできる“タンク マスト”が登場したが、今年はコレクター向けの“カルティエ プリヴェ”コレクション “タンク シノワーズ”と“タンク ルイ カルティエ”を発表。“タンク シノワーズ”は1922年に誕生したコレクションで、今年はちょうど100周年。また“パシャ ドゥ カルティエ”には風防を守る格子状のプロテクターを取り外しできるモデルやコンプリケーションモデルも追加された。さらに時計通好みの“サントス デュモン”の新作も見逃せない。

 またレディスではクッションケースを持つ新コレクション“クッサン ドゥ カルティエ”や人気の“パンテール ドゥ カルティエ”の新色。さらに最高峰の職人技を駆使した“メティエダール”や、メゾンのアイコンのひとつ“パンテール”を使ったハイジュエリーモデルも、ため息の出る美しいものばかり。さらにコンプリケーションモデルの“マス ミステリユーズ”など、どれも圧倒的な魅力を放っている。これらに対しカレズディレクターは、「新作は、昨年以上に充実したものになった」と控え目に語る。

 ところで、今年の新作もそうだがこの4〜5年間の「カルティエ」、特にメンズの新作には、明らかにひとつの明確な方針が見られる。それは、新作のほとんどが、メゾンのヘリテージ(伝統資産)を踏まえたモデルであること。つまりゼロからのニューモデルではなく、“サントス ドゥ カルティエ”や“パシャ ドゥ カルティエ”、そして昨年の“タンク マスト”のように、時計の世界で「時代を超えた永遠のアイコン」モデルが中心なことだ。どれも共通しているのは「『カルティエ』らしい」ということ。それはなぜなのか?

時代を超越した
「永遠のデザイン」を未来に

 「『カルティエ』は、アメージング(驚きに満ちた)なメゾンです。他のメゾンとのいちばんの違い、いちばんのアイデンティティは、1847年に始まる長い歴史の中で誕生した、時代を超越した美しい時計のスタイル、美しいデザインという資産に恵まれていることです」。

 こう語るカレズディレクターは、05年から09年にかけてカルティエ ジャパン マーケティング&コミュニケーション ディレクターとして日本に駐在し、東京都現代美術館での「カルティエ現代美術財団コレクション展」や東京国立博物館の「カルティエ特別展 Story of ...」を担当した経験を持つ。

 「今から6年ほど前、私たちは“メゾンが数多く世に送り出してきた唯一無二のデザイン”こそ、私たちのアイデンティティであり、永遠の資産であることを社内で再確認し、新たな製品戦略を決めました。そして、この“美の資産”をセレブレーションする、つまりその価値を大切に育て、未来に継続し伝えていくことを戦略の中心に据えました。昨年“タンク マスト”コレクションをスタートしたのも、“パシャ ドゥ カルティエ”の新機軸も、この戦略に沿ったもの。期待以上の結果を実現しています」。

 「カルティエ」のデザインが持つ“時代を超越した美しさ”、つまりデザインの永遠性を何よりも大切にし、このデザインを未来に伝えていくこと。それが、メゾンにとっていちばん重要なことだとカレズディレクターは断言する。

 「毎年新製品を出し続けることがビジネス上、必要な業界もあります。しかし時計は、私たちのメゾンにはその必要はありません。新製品をやみくもに出すのではなく、永遠の価値がある美しいデザインを、時代に合わせて再解釈し、次の世代、未来に伝えていく。“永遠のデザイン”を数多く持つ私たちのメゾンにはその使命がある。そう考えています」。

ゼロからの時計作りより
難しい“再解釈”

 ただ“永遠のデザイン”を時代に合わせて適切に再解釈することは、まったく新しいデザインの時計をゼロから創り出す以上に難しい、という。

 「デザインは生きているもの。立ち止まるのではなく、オリジナルモデルに始まるデザインの一貫性を守りながら、常に未来に向かってデザインを育て発展させていかなければ、永遠のものにはなりません。これはまったく新しい時計を作るよりもはるかに難しいことです」、09年に発表した“タンク ソロ”に代わって21年に誕生した「タンク マスト」も、こうした取り組みの中で誕生した。100年以上もの歴史を持つ“タンク”は「カルティエ」の中でももっともアイコニックなコレクションであり、もっとも多様性があり、大きな発展可能性を秘めた時計だとカレズ・バイスプレジデントは語る。「個人的にも気に入っていますし、ビジネスでも大きな成功を収めました」。

 今年の複雑時計の新作「マス ミステリユーズ」も、「カルティエ」らしい逸品だ。スケルトンの空中に浮かぶ時分針2本の針。その後ろでスケルトン構造のムーブメント自体が、時計を動かす動力源である主ゼンマイを巻き上げる自動巻きローターとして回転、時計を刻む。実現まで約8年間もの開発期間が必要だったというこのムーブメントはもちろん世界初。ゼロから新開発されたもの。

 だが、比較の対象がないほどミステリアスなこの複雑時計も、「カルティエ」のヘリテージから生まれたもの。“メゾンのヘリテージを発展させる”という方針から生まれたものなのだ。この時計のルーツは、今から110年前の1912年に「カルティエ」と時計職人のモーリス・クーエ(Maurice Couet)が開発・発表した“ミステリークロック”だ。“近代奇術の父”と讃えられる偉大なマジシャン、ジャン=ウジェーヌ・ロベール=ウーダン(Jean Eugène Robert-Houdin)の置き時計にインスパイアされて生み出され、当時も今もセレブリティに愛されてきた。

 「カルティエ」は2013年にこの“ミステリークロック”のメカニズムを腕時計にした初のモデルを開発、発売。以降16、17、20年とこのメカニズムをさらに発展させたミステリアスな複雑時計で世界を驚かせ、時計愛好家を魅了してきた。この新作は、そのアイデアと美しさ、技術を継承発展させたものなのだ。

 今、顧客が高級時計メゾンに求めていることは何か。それは「ブレずにメゾンらしい」こと。そして「ゆるぎのない価値を持っている」こと。「カルティエ」のクリエーションは、このリクエストに見事に応えている。「このモデルは、過去のクリエーションを未来に向かって発展させていくという、私たちのメゾンのコミットメントを最高のかたちで実践したもの。これからもこうした極上のサプライズをお届けできると思います」。

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