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メディアはSNS時代の新たな“拠りどころ”になれるのか、ローンチから1年の独自コミュニティー「She is」に聞く

 音楽や映画、アートなどのカルチャー情報を発信するウェブメディア「シンラネット(CINRA.NET)」を運営するシンラ(CINRA,inc.)から生まれた“自分らしく生きる女性を祝福する”ライフ&カルチャーコミュニティー「シーイズ(She is)」はこの冬、オンラインコミュニティーの立ち上げや会員の新プランなど、機能を大きく拡大した。月額定額制で、単なるコンテンツ配信にとどまらず、“ガールフレンド”と呼ばれる女性クリエイターとともに作ったギフトを毎月届けるという独自ビジネスモデルが特徴的なメディアだが、立ち上げからちょうど1年を経て、今後はどこを目指すのか。設立メンバーでもある野村由芽(ゆめ)・編集長と竹中万季・ブランドリーダー兼プロデューサーに話を聞いた。

WWD:そもそも「シーイズ」設立の経緯は?

竹中万季「シーイズ」ブランドリーダー兼プロデューサー(以下、竹中):私は4年前にCINRAに入ったのですが、その前は野村も私も異なる広告代理店系列の会社で働いていました。入社後は野村が「シンラ」の編集、私が企業や行政とのプロジェクトなどのプランニング・編集といった仕事をしてきたのですが、一緒に仕事をすることも多くて、生活のこととか、人生の話をする機会も多くて。仕事は楽しいけれど、楽しければ楽しいほど長い時間働いてしまって、仕事と生活が地続きになっていく。でも地続きになるのであれば、今やっている仕事を今と同じ働き方で続けていくことができるのだろうかという問題に直面しました。当時私が28歳、野村が30歳で、女性としていろんなことを考える年齢だったこともあり、2人でこうした人生の話をしていたことが最初のきっかけになったんだと思います。

野村由芽「シーイズ」編集長(以下、野村):働くこと、生きていくことを考えた時に、結婚のこととか、子どものこととか、「女性たちは〜」というように大きな主語で一般的な話題として「まだ結婚をしていないのか?」というような括られた場合、それぞれの気持ちはどこへいくんだろうと思ったことがあって。自分たちが生きたいような生き方を肯定できる場所、“依りどころ”を作りたいと思いました。考えるための場所、いろんな声を集めて、知ることができる場所です。そこには、自分の気持ちはどうなのかということを考え一人で考えを深めていく部分と、一方で深めたことを交換できる場所が必要だと思いました。

WWD:“一人で考える部分”というのは、具体的にはメディアにおいてどういった部分ですか。

野村:特集では最初に「未来から来た女性」という自己紹介的なことをした後、「母と娘」や「誰と生きる」「ほのあかるいエロ」といった、生きていくうえで選択に悩む瞬間や、話してみたいけれどなかなか気軽には話しにくいことをテーマとして扱っています。また、記事や特集で使う言葉使いにはとても気をつかっています。たんに意味を伝えるのではなくて、何かを想像させたり、気持ちを動かす言葉といいますか。

竹中:例えば「モテってなんだ?」という特集テーマを検索した時に、ウェブ上で検索上位にあがってくるものは「こうあるべき」という記事も多くて、自分もそうでなくてはいけないとか、ということを少なからず感じてしまいます。だから「シーイズ」では自分の考えを持てるよう、問いかけをおこなうときは余白を持たせることを意識しています。

WWD:(一緒に会員用のギフト作りなどを行う)ガールフレンドの存在が一つの特徴かと思いますが、彼女たちの役割とは?

竹中:「シーイズ」編集部だけが何かを提言していくのではなく、私たちが場所を作って、みんなで話し合いたいという思いがあったので、その場所に対する投げかけをおこなうのがガールフレンドたちです。ジャンルや著名度を問わず軸を持って生きている魅力的な女性に「シーイズ」編集部がお声掛けしているのですが、毎月テーマごとに一般公募もしていて。そこで出会ったガールフレンドとは継続的な場所作りを一緒にやって生きたいと思っています。

野村:一握りの従来的な限られたスターだけが優れた感覚を持っているのではなくって、素晴らしく生きている人はそこかしこにいるという思いが根底にあって。だからガールフレンドにはいわゆる“著名人”だけでなく、普段は企業で働いる人や、学生の方もいるんです。

WWD:メディアとしてのビジネスモデルは?

竹中:最初こうした場所がほしいという話から始まったのですが、事業として続けていくためにも、もちろんお金をどうまわしていくかを考えることが必要でした。広告を入れたり、タイアップをメーンで運用するなど、いろんな手法があると思うのですが、場所を作りながら、発信者であるガールフレンドの方々にお金をお支払いしていく仕組みを作ろうと思った時に、自分たちの場所に共感してくれた人から、「シーイズ」を介して発信者にお金が回っていくような形を取ろうと思って考えたのが“メンバーズ”(有料会員制)でした。そして、共感してくれたメンバーズに対して、東京のオフィスから発信をする私たち2人から何のお返しができるのだろうと考えて、毎月のギフトにたどり着きました。女性はどうしても毎月のホルモンバランスの変化によって落ち込んでしまう時期があるのだから、何か必ず毎月前向きになれるような仕組みがあればいいと思い、“日々を祝福する”というタグラインからも贈りものを贈るサービスはぴったりだということで、“ギフト”という名前にしたんです。こうして立ち上げ時に会員制と(毎月のリターンとしての)ギフト制度が出来上がりました。

野村:他にも、企業やメーカーの方々とご一緒することもあって、ただ、記事単独でのタイアップというよりは、場所が主体となってコンセプトに可能性を感じてくれる方と深く関わり、一緒に可能性を探していくようなイメージです。ここで出会ったものが今後の人生においても何かのきっかけになったらいいなと思っています。

竹中:今年は初めてとなるアート展「SNS展 #もしもSNSがなかったら」をLINEモバイルに協賛していただいて実現しましたが、自分たちだけでは規模的にできないことも企業と一緒にやることで実現できるし、遠くまで届けることができると思います。

WWD:実際に1年間この独自の仕組みを運用してきてどう感じていますか?

野村:メンバーズにもいろんな思いを持っている方がいて、積極的にオフラインでのイベントなどにも参加してくださる方もいます。お金以上の価値をお互い感じているのではないかと思います。

竹中:特集に合わせた本をテーマにした「She is BOOK TALK」というイベントを毎月やっていますが、こうした場作りが重要で、実際に集まって会話が生まれたり、出会うはずのなかった人たちが出会ったりして、こうした場所に対して価値を感じてもらえるのかなと思っています。今後はこうした出会いが自分たちの企画したものだけではない部分からも生まれたらいいなと思っています。

WWD:10月にスタートした「She is TALK ROOM」というオンラインコミュニティーや「She is MEETING」という会員限定のオフ会、会員の新プランなど、メディアの幅を大きく広げていますが、どんな意図があるのでしょうか。

野村:今形にしているものは、場所を始める頃から考えていたことです。この1年間は仲間との関係性・土台作りをする年だったと思っていて、今後ここに集まってくれる方々と関わっていく深度を増していくフェーズだと思っています。だから、メンバーズの方との積極的な意見交換の場所を増やしていく必要があるなと。

竹中:例えば、いろんなことが話されているSNSでは、話せないことも増えているように感じていて。「She is TALK ROOM」のようにクローズドな場所ができることでどういった意見交換が生まれるのかはやってみたかったことでもあって、こうした考えを深める場所を今後も増やしていきたいです。

野村:そもそも「シーイズ」は価値観を扱う場所なので、その価値は常に変わっていきます。だから、メディアとしてこれからずっと同じコピー、コンセプトを掲げようとは思っていなくて、つねにアップデートしていくということを願っています。この場所自体が形骸化してしまわないように、つねに風通しの良い場所であり続けるためにも、自分たち自身が提案する価値に対しても問い続けることが必要なんです。

WWD:SNSのようなオープンな場所と「シーイズ」はどのような関係でしょうか。

野村:SNSにはいろんな意見がありますが、「シーイズ」には「一人一人が自分の人生を肯定できるように」という軸があります。

竹中:SNSは何についても話していい場所だけど、そうした軸があるからこそ話を深められるのが「シーイズ」だと思います。

WWD:SNSから離れたところで、コミュニティーが閉鎖的になっていくイメージですか?

竹中:閉鎖的なコミュニティーを作っていきたいとは思っていません。むしろ今後はより開いていきたいと思っていて、「シーイズ」が考えていきたいことを一緒に考えてくれる人が集まる場所になれたらいいなと。

野村:まだまだ多数派が弱い者、儚いものを追いやってしまったり、意見や尊厳を奪ってしまったりする原理はあって。でも、ここではまず個人の声があって、それぞれが自由に共感することも離れていくこともできるというあたりまえのことが成立する場所でありたいんです。SNSも使う人が増えてくるとポジティブな意見もあれば、もちろんネガティブな意見も増えてくるので、居心地が悪いと感じるのなら新しい場所を作ればいいと思っていて。この時代を生きる人にとって、そこに希望があれば、その新しい場所がいつかこれからの主流になるかもしれないし。ただ、私たち自身、この場所だけで完結していこうとは思っていないし、「シーイズ」を盲目的に信じてもらう必要もありません。SNSが当たり前の時代にこういう場所があるということを知ってもらえたらうれしいんです。

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