ビジネス

「Tシャツ屋」からIPアパレルへ グラニフ村田昭彦社長に聞く、2大キャラで65億円のIP戦略

PROFILE: 村田昭彦グラニフ社長

村田昭彦グラニフ社長
PROFILE: (むらた・あきひこ)1967年生まれ。90年明治大学卒業後、オンワード樫山に入社。ネットプライス、カフェグローブ・ドット・コム取締役COOを経て2007年ベイクルーズへ。EC事業を担当し、売上高を12年8月期の58億円から17年8月期の280億円に伸ばし、EC躍進の立役者に。18年9月にオンワードホールディングス常務執行役員、19年10月に退社。20年9月から現職 PHOTO:HIRONORI SAKUNAGA

グラニフ(GRANIPH)の村田昭彦社長は2020年9月、コロナ禍のただ中で社長に就いた。店舗の採算に苦しんだ2年間に、思い切って事業の軸をアパレルからIPへ振り切った。オリジナルキャラクターの「ビューティフルシャドー」と「イカク」は2つで65億円と主力IPに育ち、26年4月には東北新社の傘下に入った。台湾で意外な人気を掴んだ「日本独自のキャラクター」の正体、ヒューマンメイドに重ねる勝算、そして「バトンタッチした方がいい」と語る本音まで、6年間の舵取りと次の5年の構想を聞いた。

Tシャツを捨て、IPに舵を切った

WWD:社長就任から6年。まず率直な手応えを聞きたい。

村田昭彦グラニフ社長(以下、村田):就任は2020年9月、ちょうどコロナ禍が始まった時期だった。当時のグラニフはリアル店舗主体だったから、2年くらい厳しい時期が続いた。ただ、厳しかったからこそ、どこで勝負するブランドであるべきかを問い直せた。グラフィックを使ったTシャツは大手も含めて参入が相次いでいたから、その競争からどう回避するかを徹底的に考えた。自社の強みを生かせて、なおかつ成長余地のある市場はどこか。そこでIP関連商品の市場を見つけられた。苦しい2年間の最大の収穫だ。

WWD:事業ドメインをアパレルからIPへ移した。

村田:我々はIPの企業になる、と大きく舵を切った。昨年度(25年6月期)の売上高は134億4700万円、前期(24年6月期)の125億2500万円から107.4%の伸びとなった。日本基準だとのれんが乗るので(営業)利益はトントンに見えるが、国際会計基準で見ると営業利益率は12%。まずまずと言えるし、収益基盤は整ってきた。ただ、方針転換は正解だったと思う一方、転換には思ったより時間がかかった。社員の意識、ものづくり、店づくり、ブランディング。そこに時間がかかってしまったのが、この5年の素直な実感だ。

WWD:時間がかかった理由は。

村田:会社で一番難しいのは人を動かすことで、トップの仕事の半分はそこだ。それまでのグラニフは、グラフィックデザインのクオリティーをかなり重視したアート思考の会社だった。IPカンパニーにシフトするということは、愛着や歴史のあるキャラクターだったとしても、人気がなければデザインを見直したり、廃盤にしたりすることもある。重要なのは人気のあるIPを増やし、育成することだからだ。スタッフも頭では理解はできるけれど、愛着のあるキャラクターへの情もあるし、それまで手掛けたことのなかったバッグや雑貨、日用品にアイテムを広げる不安もあった。

WWD:就任時のインタビューでは、26年に売上高300億円、いずれはIPOも目指すと話していた。

村田:当初はアイテムのカテゴリーを増やし、店舗のサイズも大きくすることでトップライン(売上高)を伸ばす、という戦略だった。ただ、コロナ禍とIPシフトへの移行が思っていたより長く時間がかかったことで、計画が大きく崩れた。

WWD:東北新社とのシナジーはどう描く?

村田:具体的な青写真はこれからで、現時点で決まったことはない。東北新社は映像作品やIPの部分で非常に強い。一方でグラニフも「IP×物販」という部分でユニークな立ち位置にあり、シナジーは大きいはずだ。

WWD:「IP×物販」におけるグラニフの強みとユニークなポジションとは?

村田:重点戦略の1つはオリジナルIPとライセンスIPの両輪による高付加価値化で、売上総利益率は昨年度61%になった。他のアパレル企業と比べれば高い水準だ。当社で一番売れているのは「ビューティフルシャドー」と「イカク」の2大キャラクターで、商標も取ってグッズも作り、昨年度はこの2つで47億円。今期は65億円くらいになる。自社IPでしっかり利益を作れるようになった。

2大キャラで65億円、育成の裏側

WWD:いろいろ試した結果、この2つが残った?

村田:そうだ。この2つが圧倒的に売れた。それまで人気や知名度という意味では他にも競るキャラクターはいたものの、アイテムがTシャツ以外にも広がる中で、多すぎるキャラクターを絞る必要もあった。

WWD:IPを育てるノウハウは。

村田:昔は絵から始まっていたが、いまはコンセプトやパーソナリティーを考えてから絵に起こし、立体物にする。ただ、IPを生み出せても、どう育成するかはまだノウハウがない。絵本にしたり、ソーシャルアカウントで漫画的なものを配信したり、試行錯誤している。サンリオのような企業と比べれば、グローバルで人気化させるノウハウも資本力もこれからだ。

WWD:マルチカテゴリー化の成果は。

村田:キャラクターやIPの世界は缶バッジやアクスタ、ぬいぐるみが中心だが、我々はライフスタイル全般、日常の中でIPを届けるというコンセプトだ。結果、非アパレルの売り上げシェアは社長就任前の0%から昨年度で20%まで拡大し、大型店では30%を超える。顧客層も広がった。男性シェアは昨年度で31%。もともと20%くらいだったが、洋服以外の雑貨が増えて取り入れやすくなった。年齢も30〜50代中心から20代・30代が上がり、いまは2割、3割、3割、2割とバランス良く広がっている。

会員売上7割超の裏側

WWD:OMOと直営シフトも進めた。

村田:ECはモール出店を全部やめた。顧客基盤が作れないチャネルはやめましょう、と。会員売り上げは全体の73%を占めるまでになった。ECだけなら91%だ。今期は全体で8割近くになる。売り上げの3分の2が店舗、3分の1がEC。外部環境に左右されず、自分たちの顧客基盤で売り上げを作れるようになった。

WWD:売り上げの7割超が会員とはすごい。店頭を巻き込まなければこの数字にはならない。

村田:自分が入社した頃は20〜25%しかなかった。顧客基盤の拡大は毎年掲げる重点戦略の1つで、成長エンジンにすると言い続けてきた。自分もオープン日には店頭に立つが、レジが並んでいる間にスタッフがお客さまを案内し、会員登録の特典を説明して、一緒にスマホを開いてもらう。アプリで買われて店頭売り上げが減るのではという危機感は普通あると思うが、そういうことは考えずに愚直にやってくれている。会員化すれば直接コンタクトが取れるし、データも蓄積できる。

WWD:逆に、やり残していることは。

村田:店舗の大型化と新規出店のペースだ。相手先があるので思ったように進められなかった。商品カテゴリーの拡大も、企画開発の体制づくりや初めて作るアイテムの精度を高めるのに想定より時間がかかった。実行スピードが想定通りではなかった。成果は出たが、もっと早くやりたかった。

出店ペースは緩めない

WWD:出店は?

村田:ペースを落とすつもりはない。むしろ伸ばしたい。いまは店舗の大型化も進めており、最近は100坪くらいが多い。キャラクターをフルラインナップでそろえると、キャラクター数×カテゴリー数で膨大になる。減らせばパワーが落ちるし、近隣に大きい店があれば客は必ずそちらに来る。会員数は昨年度で226万人、直近1年間に購入履歴のあるアクティブ会員が65万人。特に東京は弱いので、原宿のように思い切った面積の店を都内にもっと出したい。

WWD:ポップマートは意識しているか。

村田:かなり前からベンチマークしている。グラニフに来る前に、あるとき海外でものすごい行列ができているのを見て、これは何だと思った。正直、いまはまだ当社が競合と言えるような水準ではないし、事業の構造も違う。彼らの主力の事業ドメインはトイやフィギュアだし、一番違うのは購買動機だ。ポップマートのお客さまは集める、所有することが大きいように思うが、我々のお客さまはその要素もありつつ、着る、使う、日常に溶け込ませるという実用が中心だ。

だから、ものづくりも大変だ。缶バッジなら絵をそのまま使えるが、洋服やバッグに溶け込ませるには創意工夫がいる。単純なものにすればIPの強さだけの勝負になる。商品の強さとIPの強さ、両方が必要だ。

WWD:ファッション業界から離れていく、という見方もある。

村田:離れたいわけではない。これからのファッションの捉え方が違うということだ。より、カルチャー寄りになる。ファッション業界の中でものすごく成功しているところを見ると、ヒューマンメイドが上がってくる。あれも一緒でIPビジネスじゃないか。従来のファッション企業からは生まれない発想と収益性だと思う。IPやキャラクターのTシャツをひたすら売っているところが昔から強いというのは、実は分かっている。

海外展開、そして次の世代へ

WWD:5年後のグラニフの姿とは?

村田:IPやエンタメは、日本が世界で戦える数少ない領域だ。その一翼を担える存在でありたい。IP商品のリーディングカンパニーを目指すビジョンを掲げている。そのためにはオリジナルキャラクターの認知を高めてファンを増やすこと、そして海外展開を本格的に加速させることだ。これを5年でやる。人気の漫画やアニメなら世界中にファンがいるが、当社のようなキャラクターも台湾やインバウンドのお客さまに好評だ。台湾でも2トップは国内と同じ。自国にいないキャラクターで、日本独自のカルチャーが刺さる余地がある。

WWD:海外はハードルが高いのでは。

村田:デジタル施策はゼロベースで考えることになるが、知識として学べばできる。一番大変なのは海外の人にも刺さる商品を作ることで、そこはすでにクリアできている。プロモーションもしていないのに台湾でものすごく売れていて、周りのブランドと比べても日本以上の成績だ。昨年台湾に1号店を出してうまくいったので、今年は2号店を出す。台湾以外のエリアにも出ていきたい。

WWD:後任については。

村田:実はなるべく早く次の世代にバトンタッチした方がいいと思っている。グラニフの社員にはカルチャーに対する圧倒的な熱がある。だからこそ、お客さまもIPが好きという純粋な感情でものを買い、集めてくれる。グラニフや商品とお客さまの間には強い結び付きがあり、至らない点があっても、逆に応援してくれるお客さまが少なくない。説明は難しいがこの部分が、感覚でわかる人じゃないと、グラニフの経営は難しい。私の場合はアパレル経験が長かったからこそ、この感覚がわかった部分もある。

GRANIPH x ビジネスの記事

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

サステナビリティ特集「循環は、日本から」 ファッション主要48社が答えた現在地【WWDBEAUTY付録:Jビューティ「2兆円」への道筋 世界市場をつかむ7つの打ち手】

「WWDJAPAN」9月28日号は、サステナビリティ特集「循環は、日本から」をお届けします。大量に作り、売り、捨てる——。そのリニア型のものづくりから、日本のファッション産業は循環型へと進めるのか。掛け声ではなく、データでその現在地を確かめました。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。