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「社長セクハラ査問会」の真相 連載ストライプ・ショック(1)

 「再調査を行う予定はない」――。ストライプインターナショナルの石川康晴氏のセクハラ報道による辞任を受けて3月6日付で就任した立花隆央社長は31日、WWDジャパンの取材申し込みに書面で回答。「一連のセクハラ報道に対して第三者などによる調査を行う予定はあるか」との質問に対して、冒頭のように答えた。2018年12月に行われた査問会ですでに結論が出ており、それを尊重するという主張だ。

 石川氏を辞任に追い込んだ「朝日新聞」や「週刊新潮」の報道内容について、ストライプはいまだに公式には認めていない。報道されたLINEによる食事やホテルへの誘いに関して、査問会では「従業員とのコミュニケーションの距離感が近すぎる」という理由で厳重注意した。それが現時点での同社の公式見解だ。石川氏の辞任もあくまでセクハラ報道による混乱の責任を取ったという理屈である。

厳重注意「二度とあってはならない」

 だが関係者の証言を集めると、「距離感が近すぎる」では済まされない実情が浮き彫りになる。

 18年12月の査問会で石川氏のセクハラとして報告されたのは、15年から18年にかけての4つの事案だった。地方の店舗で働く女性スタッフをしつこく食事やホテルに誘うLINEでのやりとり。ホテルの部屋に呼ばれて性行為を強要されたという生々しい証言。査問会で証拠を突きつけられた石川氏は性行為に関しては否認したが、何度も食事に誘ったり、ホテルの部屋に呼び寄せたことは事実だと認めた。

 査問会で下された処分は「厳重注意」だった。同社の役員規定では、査問会での処分内容は解職、降格、謹慎の3つのいずれかになる。しかし、オーナー社長である石川氏が解職や降格になれば、セクハラの事実が世間に知られ、4000人近い従業員が働く会社の存続自体が危うくなる。査問会は役員規定に基づく処分ではなく、いわば“政治決着”を選んだことになる。

 査問会の後の役員への報告の場で、社外取締役の一人は石川氏に猛省を促した。

 「石川さんは創業者かつオーナーであり、グループ経営をけん引する存在。(今後の会社にとって)一番大事なのはこれからも企業価値を長期的に伸ばしていくこと。今回の件で(役員規定通りに)解職、降格、謹慎を適用するのは難しい。厳重注意とするが、処分を非常に重く受け止めてほしい」「被害を受けた女性社員個人の問題にとどまらず、社内に知られれば女性社員のモチベーションが著しく下がる」「万が一、外に漏れれば、石川さん個人の評判だけでなく、会社が生き残れなくなる深刻な事態になる。絶対に二度とあってはならない」。

 この言葉を受けて、石川氏は「事実を認めて処分を受け入れる」「軽率な行動でたいへん申し訳ない」と述べた。

 査問会から1年3カ月後、社外取締役が恐れていた「万が一」が現実になった。査問会の事案がメディアに流れて、日本中がファッション業界のカリスマ経営者の不祥事を知ることになる。

「コロナ騒動による風化を考えているのでは」

 同社は3月31日付でハラスメントの防止策を発表した。コンプライアンス違反事項についてのアンケートを5月から毎月行い、それを踏まえて弁護士による研修を毎月実施する。従来から設けていた外部弁護士事務所への通報窓口の存在を従業員に周知する。また第三者を含めた監督機関を設置し、社外の有識者や社内の女性スタッフを参画させる。

 従業員が安心して働けるような再発防止策が必要であることは言うまでもない。だが同時に、当事者である石川氏によるセクハラの事実関係とそれを許してしまった組織風土を検証するのが常道だろう。そうでなければ、従業員と会社との信頼関係は保てない。

 東京本部勤務の箱崎薫さん(仮名)は、経営側の一連の対応に疑問を持っている。「(3月4日の報道後も同6日の石川氏辞任後も)社内はまるで何事もなかったような雰囲気でいつも通りに仕事をしていた。経営陣から社員向けのメッセージがようやく届いたのは3月23日。立花社長の名前で出された一斉メールだった。そこには石川さんに関する説明は一切なく、今後『取締役や管理職について問題があれば、直接、私(立花社長)に相談してください』と書かれていた。世の中が新型コロナで大騒ぎになっているうちに、いずれセクハラのことは風化すると考えているのではないか」と不信感を募らせる。

 石川氏の社長辞任から1カ月。「アース ミュージック&エコロジー(EARTH MUSIC&ECOLOGY)」など知名度の高いブランドを展開し、学生の就職人気ランキングでも上位だった企業の不祥事は世に衝撃を与えた。石川氏の暴走を許した組織風土の問題点はどこにあったのか。前代未聞の危機を乗り越えて、同社は信頼を取り戻せるのか。関係者の証言から追う。

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