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「声を上げるべきだった」元社員の後悔 連載ストライプ・ショック(2)

 2018年12月のストライプインターナショナルの査問会で報告されたのは、4件の事案についてだった。だがこれに限らず石川康晴社長(当時)が女性スタッフを個人的に食事やホテルに誘うことは社内では知られた話だったと関係者は口をそろえる。

 数カ月前までストライプの店舗で働いていた大友真奈さん(仮名)は、一連の報道に接して「とうとう表沙汰になったか」と思った。自身も石川氏からLINEを通じて、しつこく誘われたことがある。大友さんが見せてくれたLINEの履歴には、査問会に資料として提出され、朝日新聞などが報じた石川氏と女性スタッフのLINEと同じような文体の誘い文句や絵文字がたくさん残っていた。「誘われたのは私だけではない。同僚はホテルに呼ばれて、部屋まで入ったけれど、あわてて逃げ帰ったと言っていた。同じような経験を持つスタッフは他にもたくさんいると思う」。

機能しなかったホットライン

 大友さんの予想はおそらく正しい。査問会では石川氏の行為が役員規定のある項目に抵触するとされた。18条の6「役員が異性スタッフを個別に食事に誘うなど必要以上に接触することは原則禁じる」。役員規定の項目に「異性スタッフを個別に食事に誘う」といった文章はかなり異質だ。これは査問会の4件の事案とは別に、石川氏が過去に起こしたトラブルの被害者側の強い要望で16年に加えられたと元幹部は証言する。

 それにしても、なぜ社会的立場のある石川氏が、ここまで無防備にやりたい放題を繰り返していたのか不可解だ。発覚しても抑えられるというおごりがあったのかもしれない。

 査問会で俎上に載った4件の事案は、エリアの店舗を統括するスーパーバイザーなどに寄せられた情報だった。査問会の時点ですでに年月が経過したものも多かった。社内に放置されていたことになる。従業員がハラスメントなどに関して外部の弁護士事務所に直接相談できるホットラインを設けていたが、これも機能していなかった。

 石川氏は全国の自社店舗をこまめに視察していた。営業中だけではない。地方の店舗スタッフたちをレストランや居酒屋で慰労する姿を自身のフェイスブックによくアップしていた。グループ売上高1364億円の企業のトップが店舗の若い女性スタッフたちと膝を交え、仕事の悩みに耳を傾ける。時には出張先で石川氏の趣味であるランニングを地元の店舗スタッフたちと一緒に行う。はた目には親しみやすい現場主義の経営者として映り、フォロワーからはたくさんの“いいね”がついた。

 ストライプが扱う商品のほとんどは婦人服で、従業員も9割が女性である。石川氏は旧クロスカンパニー時代の早い時期から女性が安心して働ける職場づくりに取り組んできた。子育て中の女性が働きやすいような社内制度を他社に先駆けて強化してきた。メディアにもたびたび登場して、女性が活躍する仕組みや女性の幹部登用について持論を述べきた。そうした活動が評価され、19年3月からは男女の人権尊重や政策立案への女性の参画などを目的とする、内閣府の男女共同参画会議の議員に抜擢された(セクハラ報道を受けて辞任)。

物言えぬ組織風土

 石川氏が発信する先進的な企業ビジョンや成長戦略は、ファッション業界のみならずビジネス界から注目された。16年3月には社名を変更して、事業領域を「ライフスタイル&テクノロジー」と定めた。東証一部上場を視野に入れて、IT系など異業種からも経験豊富な人材を集めるようになった。

 元東京本部勤務の社員だった庭山エリさん(仮名)も石川氏の掲げる理想に惹かれて異業種から転じた一人だった。だが、石川氏のセクハラのうわさが耳に入るのに時間はかからなかった。複数の会社でキャリアを重ねてきた庭山さんには、石川氏に意見できる幹部が少ないことが異様に映った。「それでも私が入社した頃はまだ石川さんに『それは違います』と言える幹部がいた。でも、徐々にそういった人は人事で降格されたり、逆に反発して退社してしまい、従順な人たちばかりになってしまった」。石川氏の暴走を許した背景には、そんな組織風土があると感じる。

 セクハラ報道の逆境の中でも懸命に頑張る元同僚や後輩たちの心情を聞き、庭山さんは後悔の念にさいなまれる。「私自身も物言えぬ空気に加担してしまったのではないか。現場が声を上げれば少しは変わっていたかもしれない。会社は今、絶対に変わらないといけない危機なのに……」。