フォーカス

サステナビリティって何? 専門家が答えます。 連載Vol.11 丸井が考えるESG経営の本質

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのかわからないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回は丸井グループの関崎陽子サステナビリティ部長にESG経営(環境、社会、ガバナンスを重視した会社運営)やビジョン策定のプロセスを聞く。

CSRからサステナビリティへ。「本業を通じて社会貢献したい」

―時代と共に求められる経営や社会とのつながり方が変わる中で、丸井グループがESG経営に取り組もうとしたきっかけは?

関崎陽子サステナビリティ部長(以下、関崎):今所属しているサステナビリティ部は、もともとCSR推進部としてスタートしました。CSRは「企業が社会に対して責任を持っている」ことにフォーカスできるよいキーワードでしたが、経営陣を含めて、「本業とは別の」とか、「本業プラスアルファ」という位置付けである印象が否めませんでした。丸井グループは「本業を通じて社会貢献したい」という考えがあったので、違和感もありました。

ちょうどそのころ、ESGが潮流として出てくる中で、その考え方が自分たちがやりたい「本業を通じて社会に役立つ」ことととてもリンクするものでした。ESGの本質は「サステナビリティの実現を目指す」ことであり、自分たちの目指しているものとしっくりきました。そこで部の名前もサステナビリティ部に変え、「CSRリポート」も「共創サステナビリティリポート」へと改称しました。単に名称を変えたのではなく、「本質を考えた」ということ。

―SDGs(持続可能な開発目標)が2015年に国連で採択されてから、流れが大きく変わった。

関崎:SDGsはよいきっかけで、「SDGsの軸でわれわれのビジネスを見たときに、課題が整理できるのではないか」と、SDGsの開発目標やターゲットを活用しました。でも、「SDGsのこれをこうやっています」というだけでは足りません。SDGsの目指すところは「誰ひとり取り残さない」こと。私たちも「ダイバーシティ&インクルージョン」「包摂」を掲げていたので、ここが一番合致しました。そこで、4つの重点テーマ「お客さまのダイバーシティ&インクルージョン」「ワーキング・インクルージョン」「エコロジカル・インクルージョン」「共創経営のガバナンス」を16年11月に策定しました。

―とくにESG経営に舵を切る中で、どのようなステップで体系づくりを進めたのか?

関崎:17年ごろ、投資家の皆さんから「『インクルージョン』という共創理念の浸透や事業戦略の実施は素晴らしいが、もう少し長い展望で長期ビジョンや実現に向けた長期目標を示してほしい」「長期目標の達成に向けてどういうKPI(重要業績評価指標)でどのように取り組んでいくのか、進捗状況を定量的に示してほしい」という要望がありました。それをきっかけに「ビジョン2050」の策定に乗り出しました。

自ら手を挙げて集まった社員たちを起点に、17年12月に「サステナビリティプロジェクト」が発足。約1年かけて、社員、執行役員、外部有識者が対話を重ねながら策定しました。「2050年の未来」をゴールとしたバックキャスト手法で、目指す未来を共に考えました。そうありたい姿を考える「未来創造ワークショップ」を通じて、グローバルなメガトレンドからミクロなトレンドまで外部環境を分析し、未来を予測。「ありたい姿としての2050年ビジョン」を描き、実現に向けた長期目標やKPIも立てました。

関わった社員は約700人で、とくに実際にその時代を生きることになる若手世代の声を最も重視しました。そして、ビジョンの実現のために、「世代間をつなぐビジネス」と「共創ビジネス」「ファイナンシャルインクルージョン」という大きな3つのビジネスを行っていくことを決め、それぞれにKPIを立て、全てにESGやサステナビリティの視点を保ちながら実行していこうと定めました。「ビジョン2050」ができたことで、本格的にESG経営に踏み出しました。

手を挙げる文化が根付き、ビジョン策定でも花が咲いた

―「サステナビリティプロジェクト」に参加したのは、主に自ら手を挙げた社員であり、ボトムアップの力が際立っていたと思う。また、「人材育成」をサステナビリティと一緒に語っているのが独創的だ。

関崎:この文化をつくるのに10年ぐらいかかっていると思う。「手挙げ」と呼んでいるが、いわゆるダイバーシティで、いろいろな人が交ざり合わないと成長していかないし、イノベーションも起きないという課題認識の中から生まれました。たとえば会議に出ます、とか、社内のプロジェクトメンバーを募集するとか、こういう研修があるといった際に、指名制でやるのが一般的ですが、それをガラっと変えて、やりたい人がやるようにしています。

まさにそれ自体が人材教育というか、指名されて出させられる研修よりも、自分からモチベーションがあって行ったほうが、臨む姿勢も違うし、得るものも違うし、その後の波及力も違う。周りに「こんないいことを学んできた」「こんなことがわかった」など、まさに、持続可能な「人」創りという面で、すごく寄与していると思います。

最初はみんなおっかなビックリだったし、一気に手が挙がったわけではないのですが、手を挙げて行った人間が職場に戻ってきて、喜々として話をする。周りも「えっ、あいつ、楽しそうに帰ってきたけど、自分も次は行ってみようかな」と好循環が生まれるなど、いろいろな意味の波及効果があり今日に至っています。突然みんながどんどん手を挙げるようになったわけではありません。

トップのコミットメントはサステナビリティ、ESG経営推進に重要

―かなりボトムアップ型、全員参加型のプロジェクトだと感じるが、ESGやサステナビリティは、トップのリーダーシップや相当なコミットメントがないと進まないとも聞く。

関崎:私も他社のCSRやサステナビリティ関連の仕事をされている方と話す中で、トップの理解や経営陣の理解にとても苦労をされている企業が多いと感じました。弊社の場合、社長の青井浩がサステナビリティやESGに対してどんどん考え方が進化し、自ら前に進んで考え、示唆を与えてもらえました。トップのコミットメントは携わる社員にもとても励みになります。また、当社では「2項対立」と呼んでいるのですが、「ROE(自己資本利益率)とESG」「リスクとチャンス」など、相反することを乗り越えるために考えたり意思決定する際にも役立っていると思います。

「取り組み」と「開示」はニワトリとタマゴ。ステークホルダーに丸井の取り組みをしっかりと伝えたい

―ブルームバーグの「ESG開示ランキング」では世界の小売業でも、国内企業でも1位を獲得。「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インディシーズ」では世界の小売業で4位、日本企業で7位など、ESG経営について、海外機関などからも高い評価を受けている理由は何だと考えるか?

関崎:弊社の共創サステナビリティリポート「VISION BOOK 2050」(英語版)が、世界最大のアニュアルリポートコンペティションである「インターナショナルARC アワード2019」の スペシャライズ・アニュアルリポート部門におけるサステナビリティ・リポートアジア太平洋カテゴリーで銀賞を受賞しました。確かに海外の評価機関から高い評価をいただいて驚きもありますが、「開示しないと評価もしていただけないので、しっかり伝える」スタンスをとってきました。日本企業は奥ゆかしいのかなかなか開示されないのですが、アピールするという意味ではなく、「ステークホルダーの皆さんにグループがやっていることをしっかりとお伝えしよう」という姿勢が、評価機関の方々からすると、丸井の取り組みがすごく進んでいるように見えての評価だという気がしています。

一方で、伝えるためには、伝えるものがないといけないので、今まで出していなかった指標を出したり、今まであまり関心を持っていなかったことも数値化しています。「伝えることがあるからリポーティングする。リポーティングしたいから取り組みをする」というニワトリとタマゴのようなところもありますね。ちなみに、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)で、気候変動に対する影響を財務的に開示しようという動きがあり、弊社はそれを有価証券報告書に載せたところ、「ある意味、不確実性があるかもしれないことを載せたのはすごい」と驚かれました。会社としてお伝えできることを率直にお伝えしたことがよかったようです。

環境対策は「グリーンビジネス」。まずは再生エネルギー100%に

―とくにE(環境)についてフォーカスしている取り組みは?

関崎:環境については「グリーンビジネス」と呼び、「環境負荷の低減」と「サーキュラー」をキーワードにしています。環境負荷低減ではエネルギーと廃棄物の2つの要素があり、まずはエネルギーから着手しました。というのは、丸井グループのGHG(温室効果ガス)排出量の84%は電力です。店舗の照明、空調、保冷ケースなど、小売りは電力をすごく食う業種。省エネでは足りません。そこで30年までに再生可能エネルギー化を100%にする目標を掲げています。今年度で23%ぐらいなので野心的な目標だといわれますが、グループで連携しながら取り組んでいるところです。廃棄物に関しては、来年7月にレジ袋を有料化するなど、外圧によってやらざるを得ないこともたくさんありますが、店舗の視点では、店内で出るゴミと、お客さまにお渡しした後にゴミになるであろう部分を両方解決していかなければなりません。当然、出店していただいているテナントの皆さまにも協力していただかないといけないし、お客さまにゴミを渡さない方法を考えなければならなりません。ショッパーも、持って歩いてもらうことで販促的な位置づけもありますが、根底から考え直していきたいですね。

「モノを売らない」ことで、「無駄なものを買わせない」「ゴミにしない」提案も

―「モノを売らない」売り場も増えているが、サーキュラーエコノミーやシェアリングなどの施策もユニークだ。

関崎:D2Cやシェアリングの部分は「お客さまに無駄なものを売らない、買わせない」ということが本質で、それがサーキュラーであり、リデュース(削減)に近いものだと考えています。例えば、細かくサイズ対応している“ラクチンきれいパンプス”は結果的に「履けない靴をお客さまに買わせない」ことで、捨てない、履かない靴を持たない、が実現できます。自前でできないところはファブリックトウキョウのようなスタートアップ企業に投資するなどして、外部企業と一緒に手掛けていきます。「売らないお店」は「無駄なものを買わせないお店」であり、これから私たちが一番力を入れてやっていく部分だと考えています。

―「共創経営リポート」のメッセージ「この指と~まれ!」というのは?

関崎:いろいろな可能性や課題がある中で、丸井グループに対してお客さまがどういうことを求めていらっしゃるかを、お客さまの声を聞きながらお客さまと「共創」していきたいと考えています。私たちの考え方に共感していただけるお取引先さまやお客さま、学生さんなどと一緒に価値をつくっていくことが、サステナビリティに寄与することにつながると考えています。なので、「本当にお客さまが望んでいることをやろう!」という言葉が、チームの中でも飛び交っていますし、経営陣からも言われています。

―再生可能エネルギーはまだ日本では料金が高く、コストアップになるが?

関崎:いわゆる電力代自体は上がっています。当然、そこを理解したうえで経営としても進めていますが、このままではずっと調達コスト増で、ある意味、リスクになります。一方、それを機会ととらえれば、再生可能エネルギーをお客さまにおすすめし、エポスカードでお支払いいたけるようになれば収益にもつながります。リスクと機会を両方見たら、機会のほうが規模的には大きい――だからグリーンビジネスが成り立つ、というような発想をしています。
ESGでは、その機会にフォーカスして、そこになにか新しいビジネスチャンスがあるかもしれない、そこから何か新しいものを生み出していくことができれば、それは企業価値の向上につながっていくよねと――それが丸井グループがやりたいサステナビリティ経営なんです。

未来の価値を創る「将来世代」とつながり、社会に役に立てるビジネスを一緒に共創する

―未来の価値を創る「将来世代」とどうつながっていくかも課題だ。

関崎:持続可能性は、若い世代のほうが切実ですよね。それに、先日の台風19号の際には、他の小売店と同様、関東近辺のお店を休業にしました。まさか営業ができない気候変動にさらされるなんて思いもしませんでしたが、「何十年かに1度の台風」がこれから毎年来るとしたら、まだ間に合うんだったら対策をしないと私たちはそもそも商売ができなくなるのではないかということを本当に感じました。そして、将来世代とのつながりとして、11月15日には、中学生・高校生が参加する IT 教育プログラム「Life is Tech ! 」を運営するライフイズテックと資本業務提携を発表しました。サステナビリティの根底には「持続可能な地球を残す」ことが含まれているので、私たちにとっては将来世代もステークホルダーです。どうやってビジネスを創っていくかを一緒に考えていきたいと思っています。私たち世代より今の小・中・高生のほうが環境やSDGsのことをよく知っています。彼らが持つアイデアや彼らが求めることを、丸井グループの経営資源と共に生かして、ビジネスにして社会のお役に立てるようになればいいなと思っています。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)