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サステナビリティって何? 専門家が答えます。 連載Vol.2「もはや企業の義務」ケリングの責任者が語る基本のキ

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――とはいうものの、具体的に何をどうしたらいいのかわからないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回はサステナビリティに取り組む先進企業である「グッチ(GUCCI)」を擁するケリング(KERING)の、マリー・クレール・ダヴー(Marie-Claire Daveu)=ケリング チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼国際機関渉外担当責任者に聞く。

「そもそもサステナビリティとコストは天秤にかけるものではない」

WWD:サステナビリティにこれから取り組もうとする企業から、「何から手を付けるべきか、コストはどの程度かかるのか」と聞かれることがあります。

マリー・クレール・ダヴー=ケリング チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼国際機関渉外担当責任者(以下、ダヴー):まず理解してほしいのは、サステナビリティはもはやオプションではなく、必須のものであり、ビジネスに関わる人にとって義務であるということ。そもそもサステナビリティとコストとは天秤にかけるものではなく、360度全方位的に問題に取り組んでいかなければいけないことです。けれど、思っているほど複雑でもなく、難しいことでもない。コストも想像しているほどかかるものでもないでしょう。

WWD:具体的に何から始めましょうか。

ダヴー:例えば原材料はできるだけ低負荷でトレースできるものを選ぶこと。オーガニックが好ましいけれど、そうでなくても、できるだけサステナブルなものを選ぶようにする。工程については、環境に負荷のある化学物質や重金属を使わず、水の使用も減らすことが好ましいでしょう。電力に関しても、店舗の省エネ化を進めたり、製品の輸送にはできるだけ効率のいい方法を選び、エネルギーはできるだけ再生エネルギーを使う。製品についてもリサイクルやアップサイクルすることを考慮すべきでしょう。

WWD:何がよくて何がダメなのかなど、正しい情報をどこから得るべきかも聞かれます。

ダヴー:サステナビリティについての知識が必要であれば、私たちは18年2月にロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)と共同で「ファッション&サステナビリティ:変化する世界のラグジュアリー・ファッションを学ぶ」というMOOC(ムーク:Massive Open Online Couse:無料オンライン講座)を開設しました。サステナビリティに関するさまざまなことを無料でオンラインで学ぶことができるコースで、毎週3時間、6週間のコースです。

「ノウハウを無料開放するのは
よりよい将来のため」

WWD:環境負荷を計測するEP&Lや動物福祉などのガイドラインを無償で公開しているが、教育についても力を入れていたとは知らなったです。

ダヴー:私たちは無償で情報を提供しています。EP&Lをはじめ、原材料の生産や製造工程、動物福祉について基準を設けた“ケリングスタンダード”もそうです。例えば、革のなめし工程で重金属を使わずに省エネで行える方法もオープンソース化しています。それは、他社に比べて優位性を高めるために行っているのではなく、よりよい将来のために行っているのです。

WWD:今、サステナビリティに取り組むときに、国際的な認証が重要になっていますが、それについてどう思いますか?先日取材した素材見本市「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION)」で、あるテキスタイルメーカーは、あるブランドから「認証がないと今後買わない」と言われたといいます。一方、「ケリングは独自の基準はあるけど、それに完全に適合していなくても、ほかの工程でどのような努力をしているかなど聞く耳がある」と聞きました。

ダヴー:私たちはサプライヤーと緊密な関係を築こうとしています。サプライヤーの多くはイタリアを中心とした欧州にあり、長い付き合いです。一方で、カシミアやコットンといった原材料は中国を中心にアジアが多い。

認証はいいか悪いではなく、求められる要件が違うということ。コットンの場合、オーガニックの認証GOTSでは化学物質の使用は禁止されているけれど、一方で、BCI(ベターコットンイニシアチブ)はある程度農薬や化学肥料の使用を認めるものもある。つまり、取り組む側がどこまで環境負荷を軽減することにコミットするかによって異なる。第三者機関が必要であることも確かで、そういう機関が関わることで信頼性が高まることもあります。

また地域によって判定基準が異なります。そのためサプライヤーと契約を交わすにあたっては、各地域の基準を確認しながら、必要に応じて要件を追加しています。ケリングスタンダードは、認証を補う役割があります。例えば動物福祉は、時に規制が十分でないところがあり、基準を追加する必要があります。もちろん基準や認証のほうが厳しいこともあります。カシミアは生物多様性や社会状況も検討し、考慮しながら契約に盛り込んでいます。

「生産プロセスの効率化と
循環型の仕組み作りが急務」

WWD:企業がサステナビリティに取り組む心得は?

ダブー:サステナビリティは長い旅のようなもの。だから段階を踏んで取り組むことが重要です。例えばコットンは、オーガニック100%がもちろんベストだけど、繊維の品質や求められる長さによって、時には現実的なアプローチを取っていくことも必要になります。ブランドがしなければいけないことは、サステナビリティに関する目標を提示すること、毎年良くなっていることをしっかり伝えること、そして、サプライヤーを励まして共にいい方向に進むことです。

WWD:最近ファッションサイクルがどんどん早くなると感じます。新しい商品を作って投入していき、在庫も増えるし、廃棄も増える。こういう現状をサステナビリティの観点からどのように考えますか。

ダヴー:ファッション産業全体で見れば確かにそうですね。ラグジュアリーブランドは作る量が限られているし、顧客は長い間使うからサステナブルだけれど。産業全体では確かに年々作られる量が増えています。どう対処すべきか――1つ目は生産プロセスの効率化でしょう。2つ目は循環型社会の促進。簡単に言えばリサイクルですが、繊維レベルのリサイクル、つまりケミカルリサイクルが重要でしょう。私たちはH&Mとともに15年から、ケミカルリサイクルの開発をしているワーン アゲイン(WORN AGAIN)に投資して、コットンとポリステルの混紡素材をセルロースとポリエステルのポリマーに分ける技術開発のサポートをしています。これができるようになれば、環境負荷を下げることができるし、お客さまにも新製品の提案ができます。

WWD:ワーン アゲインの開発状況は?

ダヴー:イノベーションが必要で、小さなサンプルでは成功していますが、量産化にはもう少し時間がかかりそうです。でもできるだけ早く実現したいですね。

WWD:ほかにもそうしたイノベーティブな企業に投資していますか?

ダヴー:ええ。破壊的なイノベーションが必要で、こうした企業に目を向けていて欧米のスタートアップに投資しています。こうしたイノベーションに取り組む企業の多くは、スタートアップで資金を必要としているから。もちろん日本やアジアでも探していますよ。