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サステナビリティって何? 専門家が答えます。 連載Vol.4 化粧品業界のリーダーの役割とは 日本ロレアル

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回はビューティ業界の雄、日本ロレアルの船津利佐コーポレート・コミュニケーション本部シニアマネージャーに聞く。

WWD:ロレアルグループではサステナブルな活動に2013年から本腰を入れていますね。

船津利佐日本ロレアルコーポレート・コミュニケーション本部シニアマネージャー(以下船津):当グループは、世界的な課題である地球温暖化をはじめ、貧困、男女格差などの社会的課題に対して、化粧品業界のリーダーとしていち早く施策を講じるため13年に、20年に向けてよりよい環境や社会の持続的発展のためのコミットメント「SHARING BEAUTY WITH ALL(シェアリング ビューティ ウィズ オール)―美のすべてを、共に次世代へ―」を発表しました。これを策定するにあたり、世界中の200以上のNPOなどの組織と社会的な課題について議論を行いました。また、継続して毎年、150以上の組織と意見交換を実施しているんですよ。

「4つの柱でプロジェクトを推進」

WWD:具体的にはどのような取り組みがありますか?

船津:4つの柱(イノベーションにおける持続的発展、暮らしにおける持続的発展、生産における持続的発展、社員・サプライヤー・コミュニティーにおける持続的発展)に基づき、さまざまなプロジェクトを推進しています。一例を挙げると、生産における持続的発展において、生産活動で排出するCO2の量、水消費量および産業廃棄物量を20年までに05年対比で60%削減することをグループ全体の目標に掲げています。静岡県御殿場市にある製造工場のコスメロールでは、アジア太平洋地域における当グループの工場として唯一ラグジュアリー製品を生産しているのですが、燃焼効率に優れたボイラーの導入や蒸気滅菌の活用など、環境負荷の削減活動に早くから着手し、15年末にグローバル目標であるCO2排出量および水消費量の60%削減を早々に達成。日本をはじめ各国の取り組みにより、当グループの18年は05年比で工場・流通センターのCO2排出量を77%削減する一方で、生産量の38%増を達成しています。

イノベーションにおける持続的発展の柱においては、18年にグループが投入した製品のうち、79%の製品は環境への負荷を低減した処方を採用。例えば、原料とパッケージ(容器・包装)については、環境への負荷を最小限にするため、「ランコム(LANCOME)」の「レネルジー」シリーズでブランドの世界観を維持しつつ、リサイクルガラスを25%使用。「ケラスターゼ(KERASTASE)」の「バン オーラボタニカ」は、リサイクルPETを 100%使用した容器が採用され、処方と共に環境負荷低減に寄与します。原料では生分解性原料が95%採用され、そのうちの35%はグリーンケミストリーによって製造されているんですよ。今後は、20年までにPETをグループ全体で60%以上、25年までには化石原料を使用しない容器の割合を50%まで引き上げることを目指した取り組みも進めています。さらに、20年からはPCR(ポストコンシューマーリサイクル材料)比率を75%にまで高めたリサイクルガラスを導入する予定です。どのカテゴリーにおいてもレフィルまたはリチャージができるような容器開発も加速していきます。

「日本では20以上のプロジェクトを実施」

WWD:日本独自の活動も推進していますよね。

船津:日本では、NPOや教育機関などと協力し20以上のプロジェクトを実施中です。その一つであるシングルマザーキャリア支援プログラム「未来への扉」は、日本におけるシングルマザー家庭の平均就労年収は181万円と大変厳しい状況にあることから、そういう女性たちが美容部員やプロジェクトリーダー職、オフィスワーク職に就くための5カ月間のビジネススキルアップ共通講座や、美容部員、オフィスワーク養成講座を提供しています。10月末に第5期を終え、これまでに120人以上のシングルマザーが講座を修了し、56%(第1~4期生)が収入増を実現し、経済的安定とキャリアアップにつなげました。

ブランド別では、「シュウ ウエムラ(SHU UEMURA)」が児童養護施設などから巣立つ若者がメイクアップ アーティストや美容師になる夢を支援する「ラーニング アトリエ スカラーシップ」プログラムを17年4月からスタート。メイクアップスクールに通う2~3年間の奨学金を給付(返金不要)するのですが、19年に入学した若者を含め、合計6人がメイクアップやヘアケアを学んでいる状況です。「キールズ(KIEHL'S SINCE 1851)」は、15年から日本の化粧品会社として初めて民間リサイクル事業のテラサイクル社の協力のもと、「キールズ」全店舗で使用済み製品容器を回収し、再利用する独自のリサイクルシステムを導入しました。これまでに110万個以上のスキンケア容器を回収し、スパチュラなどお客さまへのギフトとして還元するなど、日常で活用できるグッズに生まれ変わり(アップサイクル)再利用しています。

「パリ協定の目標に向け新たな指標を策定」

WWD:サステナブルな取り組みが今後、御社ならびに化粧品業界にどう影響をもたらすでしょうか。

船津:15年に制定されたパリ協定は、全体目標として掲げられている「世界の平均気温上昇を2度未満に抑えること」に向けて、世界全体で人間活動による温室効果ガス排出量を実質的にゼロにしていく方向を打ち出しています。これを受けて化粧品業界のリーダーである当グループもSDGs(持続可能な開発目標)の課題にいち早く取り組むべく、製品開発、製造、流通、店頭から消費者へのコミュニケーションにいたる全ての過程において、イノベーションやデジタルを積極的に活用して施策を講じています。当グループではパリ協定の目標値の実現に向けて、CO2排出量の削減に関する新たな目標を設定しました。30年までに16年比でCO2排出量を25%削減する目標を掲げています。工場、流通、グリーンムーヴ(Green Move: たとえば、出張において飛行機による移動手段の代わりにビデオ・電話会議を使用するなどデジタルツールの活用)、エコPOS、サステナブルな製品を消費者に提供していくなど、消費者とともにより良い環境への理解を醸成していきます。