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若手デザイナーの夢の舞台、「LVMHプライズ」の最終審査に密着

 世界の若手ファッションデザイナーにとって最も価値のあるコンテストとも言える「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」の第6回の最終審査が9月4日にパリで行われました。その魅力は、30万ユーロ(約3600万円)というグランプリの賞金だけでなく、1年間にわたりブランド運営に必要なコーチングをLVMHグループのブランドに携わるプロから得られるということ。過去の受賞者やファイナリストの活躍も手伝い、年々注目度は高まっています。そして今回、最終審査を密着取材する機会をいただいたので、ベルリンからひとっ飛び、会場となったフォンダシオン ルイ・ヴィトン(Fondation Louis Vuitton)に向かいました。ここでは審査の模様をはじめ、現地取材を通して感じたことをお届けします。まずは、当日の大まかな流れから。

10:00 審査スタート

 審査員が続々とフォンダシオン ルイ・ヴィトンに到着。ちなみに一番乗りはジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)「ロエベ(LOEWE)」クリエイティブ・ディレクターでした。自由にブランドのブースを回って、それぞれ展示された服をチェックしたり、デザイナーたちと話したり。この時点で会場に入れるメディアは、限られたジャーナリスト数人のみで、ゆったりしたムードが漂います。

11:00 最終プレゼンテーション

 審査員が一堂に会する別室に1組ずつ呼ばれ、10分間の最終プレゼンテーション。ここは非公開のため取材には入れずでしたが、1ブランドにつき3人のモデルが実際のコレクションを着用して登場。終了後には、デザイナーがモデルと共にメイン会場に戻ってきて記念撮影。やはり人が着ることで、服の個性や魅力がグッと引き立ちます。

12:30 帝王現る!

 ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOが到着!ファイナリストは緊張した面持ちで、自身のコレクションを説明。先ほどとは打って変わって、会場に少しピリッとした緊張感が漂いました。

13:15 ランチタイム

 お弁当のようなスタイルで、野菜中心のメニューが供されました。が、お腹が空きすぎて写真を撮るのを失念。バックステージの狭い階段にデザイナーやモデル、ブランド関係者が仲良く座って食べているのは、なんだか微笑ましい光景でした。

14:00 メディア&ゲスト到着

 テレビや雑誌など世界各国のメディア関係者、業界関係者が入場。一気に会場が人でごった返しました。中には、初回に特別賞を受賞したサイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)「ジャックムス(JACQUEMUS)」デザイナーや、昨年グランプリに輝いた井野将之「ダブレット(DOUBLET)」デザイナーといったこれまでの受賞者の姿も。また、来年からおそらく審査員に加わるであろうフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)「ケンゾー(KENZO)」新クリエイティブ・ディレクターも会場を訪れていました。

15:15 結果発表

 審査員全員がステージに登壇。今年は、多様性をイメージしたレインボーカラーの背景が印象的です。デルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)=ルイ・ヴィトン エグゼクティブ・バイス・プレジデントのスピーチの後、ファッションスクールで学ぶ最終学年の学生を対象にした「グラデュエート・プライズ」と、特別賞「カール・ラガーフェルド賞」が授与され、いよいよグランプリの発表です。今年は女優のアリシア・ヴィキャンデル(Alicia Vikander)がプレゼンターとして登壇し、栄冠を勝ち取ったテベ・マググ(Thebe Magugu)「テベ マググ」デザイナーにトロフィーを手渡しました。終了後は、皆ステージから降りてきて来場者と談笑したり、ファイナリストたちの労をねぎらったり。受賞者の2人にはインタビューが殺到し、2時間ほど続きました。

時代を象徴するファイナリスト

 「LVMHプライズ」のファイナリストは毎年実力派ぞろいなのですが、そのラインアップは常に時代のムードを反映しているように感じます。特に今回はそれが際立っていて、環境やサステイナビリティーを意識したモノづくり、ジェンダーを問わないデザイン、インクルージョン&ダイバーシティーや社会問題へのアプローチを軸にしたデザイナーたちが選ばれました。ただし、あくまでも選考のポイントは“デザインのオリジナリティー”。そして、“ストーリー性”も多くの審査員が重要な点として挙げていました。つまり、どんなにサステイナブルでも、社会的に素晴らしい取り組みでも、結局は人の心を惹きつけるコレクションでなければいけないのです。

 また今回は、南アフリカのヨハネスブルクとイスラエルのテルアビブという、伝統的にファッションで知られる都市ではない場所を拠点とするデザイナー2人が受賞したことも印象的でした。ちなみに、「ディオール(DIOR)」がモロッコで2020年プレ・スプリング・コレクションを発表したり、米コンデナスト(CONDENAST)が南アフリカで「インターナショナル・ラグジュアリー・カンファレンス(International Luxury Conference)」を開いたりと、ラグジュアリーファッションビジネスにおいて大きな成長の可能性を秘めるアフリカ市場は今、注目を集めています。グランプリ受賞と直接関係があるとは言えませんが、LVMHがそれを意識しているのは間違いないでしょう。

気になる賞金の使い道は?

 「LVMHプライズ」ではグランプリに30万ユーロ、特別賞にも15万ユーロ(約1800万円)の賞金が授与されます。若手デザイナーにとってはかなり大金なので、その使い道が気になるところ。今年の受賞者2人にも聞いてみました。マググ=デザイナーは、「今は予算管理からパターンのドラフトや素材の調達まで自分でやっている部分が多いので、その部分を担ってくれる人を雇い、チームを作りたい。そして、今は自宅で作業しているので、より快適に働けるスタジオを構えようと思う」とコメント。「ショーなどの大きなことに使うのではなく、今本当に必要なことに投資して土台を築き、着実に成長していきたい」とし、9月末にパリで展示会を開いたりはするそうですが、今後も南アフリカのヨハネスブルクを拠点に活動を続けて、アフリカ発のインターナショナルブランド確立を目指すそうです。

 一方、特別賞の「カール・ラガーフェルド賞」を獲得したヘド・メイナー(Hed Mayner)「ヘド メイナー」デザイナーは、すでにパリ・メンズ・ファッション・ウイークで継続的にショーを行なっていることもあり、現在の活動拠点であるテルアビブに加えパリにもスタジオを構えることを検討中。「今ブランドに携わっているのは、自分を含めて4人。人員を増やして、よりクリエイティブに専念できるようにしたい。財務などビジネス面については、LVMHのメンターに相談するつもり」と話していました。

サラ・ムーアが日本の若手デザイナーに提言

 最終プレゼンテーションが終わるのを待っている間、ファイナリストの選出に携わる選考委員の一人でもあり、若手デザイナーの支援に情熱を注ぐファッションジャーナリストのサラ・ムーア(Sarah Mower)と話しました。彼女がまず口にしたのは、「日本には面白いデザイナーがたくさんいるのだから、もっと積極的に応募すべき。言語のハードルが高いのかもしれないけれど、その面をサポートしてくれるメンバーを見つければ大丈夫でしょう?」ということ。もちろん日本のデザイナーが挑戦していないわけではなく、ここ数年は毎回ファイナリストに残っていますし、昨年は「ダブレット」の井野デザイナーがグランプリに選ばれました。しかし他国と比べると、ある程度キャリアを積んだ後、もしくは国内で“中堅”と呼ばれるようになってからしか応募していないというところに大きな違いがあるのではないかと思います。

 その点を会場に来ていた井野さんに尋ねてみたところ、「日本でブランドを手掛けている身からすると、セールスや資金繰り、生産の土台ができないことには海外に出るのが難しいというのもある」と話していました。確かにコンテストで注目を浴びることはきっかけに過ぎないですし、海外発表を継続するためにはブランドの体力が欠かせません。その一方で、「自分がグランプリをもらえたのは、去年のタイミングだったからかもしれない」とも。先ほども触れたように時代の流れが反映されるので、挑戦するタイミングも非常に重要です。ブランドにとってステップアップを必要とする時期はそれぞれですが、「LVMHプライズ」がきっかけとなり新たな出会いや機会に恵まれることが多いのも事実。来年は日本から世界を目指す若手デザイナーが増えることを期待しています。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。