ファッション

ブドウの搾りかすから人工皮革 「ベントレー」が注目する伊ベンチャー

 イタリア・ミラノのベジェア(VEGEA)はブドウの絞りかすから人工皮革“ベジェア(VEGEA)”を作る注目のスタートアップ企業だ。7月9~11日に初出展したイタリア・ミラノで開催の素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」で、初日と2日目に同社のブースを訪れたメーカーは600社以上。そのうち50社以上が試作品のために少量を買い付けたという。10日には、英国の高級車「ベントレー(BENTLEY)」が100周年を祝してデザインしたコンセプトカーのシートに人工皮革を提供したことが発表された。

 ベジェアが注目を集めたのは、H&Mファウンデーション(H&M FOUNDATION)が主催するイノベーションコンペ「グローバルチェンジアワード(GLOBAL CHANGE AWARD以下、GCA)」の受賞がきっかけだ。

 設立は2016年。建築家やインテリアデザイナーとして13年働いていたジャンピエロ・テッシトーレ(Gianpiero Tessitore)が、大学で化学を学んだ友人フランチェスコ・メルリーノ(Francesco・Merlino)らと立ち上げた。なぜ、ブドウの搾りかすから人工皮革を作ろうと思ったのか。オーナーのジャンピエロ・テッシトーレに話を聞いた。

「家具用の素材を探していたときにサステイナブルなものがなかったから」

WWD:ブドウの搾りかすから人工皮革を作るというアイデアがとてもユニークだ。取り組むことになったきっかけは?

ジャンピエロ・テッシトーレ=オーナー(以下、テッシトーレ):仕事でソファの素材をリサーチしていた時に、サステイナブルなものがないことに気づいた。石油由来の人工皮革か動物の革――そのどちらでもないサステイナブルな素材が必要だと思い、それならば自分で作れないか、と3年前にミラノやフィレンツェの大学、国が運営するリサーチセンターなどと研究を始めた。でも当時はビジネスにしようとは思ってなかった。

WWD:突然、人工皮革は作れない。

テッシトーレ:共同経営者のフランチェスコが化学者で、さまざまな植物について研究していて理解が深かった。中でも彼はワイナリーで働いた経験があったのでブドウの特性、つまりセルロース繊維、木の繊維、オイルが入っていることをよく理解していた。それらに植物オイルを加えたらポリマーを作ることができた。

WWD:簡単そうに話しているけれど、ブドウの絞りかすからどう作るのか?

テッシトーレ:蒸留酒のグラッパを造る工程で出る絞りかすが原料。絞りかすはコラボレーションしている蒸留所から仕入れている。絞りかすを乾燥させて粉にして不純物を取り除き、そこにリネンのオイルとセイヨウアブラナのオイルを加えて混ぜて液状にしたものをオーガニックコットンかリサイルコットン、リサイクルポリエステル製のベースに塗ると“ベジェア”ができる。物理的な処理はするけれど、化学的な処理はしない。

WWD:ゴミを資源として活用して動物を殺さず石油も使わない。環境への負荷が少なくサステイナブルだ。そうはいってもブドウの搾りかすから製品化するにあたり、強度や価格などの問題は?

テッシトーレ:強度、硬度、圧力、柔軟性などのテストを繰り返し、EUが定める基準はクリアしている。本革のような質感も再現できるし、厚さなどもいろいろできるようになった。ただし、価格はいわゆる一般的な人工皮革と比べると30%程度高くはなる。

WWD:「ミラノ・ウニカ」に出展するということはすでに量産化が可能ということ?

テッシトーレ:ついこのあいだ可能になったんだ。実は量産化はもっとも苦労した点。GCAの助成金30万ユーロ(約3660万円)でそのプラットフォームを整えることができた。

WWD:GCAの受賞から大きく動き出した。

テッシトーレ:量産化にこぎ着けることができたことだけではなく、受賞してから1年間、コンサルティングを受けたことも役立った。ファッション産業の仕組みもよく分かったし、誰に会いに行ったらいいかなど細かくアドバイスを受けた。大変だったことといえば、ファッションのスピードの速さに順応することかな。もともと家具用に始めたけれど、ファッションの方がインパクトが大きいし、宣伝効果も大きいと感じる。今日発表された「ベントレー」とのコラボレーションも、GCAで知ってアプローチしてくれたから。

WWD:「ベントレー」とのコラボレーションとは?

テッシトーレ:「ベントレー」の100周年を祝い、未来の車としてコンセプトカーを出したいと打診された。“ベジェア”はサステイナブルな素材でありながら、見た目にも美しい。ブドウはシャンパンやワインなどの原料だし、「ベントレー」のラグジュアリーなイメージとも合ってよかったみたい。

WWD:「ミラノ・ウニカ」の2日目を終わってメーカーの反応は?

テッシトーレ:約600社がブースに来てくれて、そのうち50社以上がサンプル用に2~5m程度の購入を決めた。そこからオーダーをもらって本格的な量産は9月から始める。量産のために、もともとある機械を改良したが、この“ベジェア”は機械を一から作らずに生産ができるのがポイント。今は1日500メートル(140cm幅)の生産が可能だ。

WWD:ライセンスビジネスもできそうだ。

テッシトーレ:ゆくゆくはね。でも今は、まずはしっかりと売っていきたい。また、技術革新もしたい。他の植物でも人工皮革を作りたい。

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