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アディダスの画期的な“循環”スニーカー NYイベントに参加して思う“課題は山積み”

 アディダス(ADIDAS)は、100%リサイクル可能なランニングシューズ“フューチャークラフト.ループ(FUTURECRAFT.LOOP)”を4月17日に米国ニューヨークで発表しました。ここではイベントの様子と、参加して思うことをレポートします。

 会場はブルックリンのイベント会場ドゥグル・グリーンハウス。イースト川を挟みマンハッタンの高層ビル群を臨む、のんびりした場所です。そこにアスリートやジャーナリスト、インフルエンサーなど同社が“リーディング クリエイター”と呼ぶ200人を世界各地から招き、私もそのひとりとして参加しました。“クリエイター”だなんてくすぐったいですが、その意味も後でわかります。

 会場に入り、まず歩いたのが巨大なモニターのトンネルです。「1950年代初めから83億トンのプラスチックが製造されてきた」「その内91%はリサイクルされていない」など、プラスチック廃棄問題に関するメッセージが投影されています。そこを抜けると円形のスペースに到着。座席はなく、登壇者を囲んでプレゼンを聴くスタイルです。これだけでも今回のメッセージが明快。そう、キーワードは“サークル”“循環”です。

 海のプラスチックごみは増え続けており、このままだと2050年には魚と同じ量になるなどと言われています。しかもそれが自然に還るには500年かかるとも。そんなとんでもない海洋プラスチック廃棄問題に対して企業はさまざまな取り組みを始めており、スターバックスは昨年、プラスチック製の使い捨てストローの使用を2020年までに世界中の店舗で全廃すると発表しました。

 “フューチャークラフト.ループ”は、この問題に対してアディダスが出したひとつの答えです。単一素材で製造することで100%リサイクル可能な、しかもアスリートの使用に耐えるレベルのランニングシューズを発表しました。もちろん、思い立ってすぐ完成するハズもなく10年の月日を費やしたそうです。その詳細はこちらの記事(アディダスが循環するスニーカー、10年かけ完成)か、この記事の一番下にある動画に詳しくあります。

 プレゼンが終わると来場者の背後の壁が動き、天井から真っ白なスニーカー200足がドラマチックに登場しました。“リーディング クリエイター”は自分の番号がついた靴を探して受け取ります。私は31番。サイズを事前に提出していたのでぴったりでした。

 サイズだけじゃダメ。スニーカーですから、履き心地や見た目が重要です。TPU由来の糸で編んだアッパーは、「アディダス」の“プライムニット”と比べると堅め。私は最近「アディダス バイ ステラ マッカートニー(ADIDAS BY SELLA McCARTNEY)」の新作を愛用しており、その“ほぼ靴下”なフィット感に慣れていると堅く感じます。かといって不快ではなく、帰国後ランニングした後も快適でした。

 デザインはというと、その“少し堅め”な質感や“現段階では蛍光塗料などの後加工はできない”ことを逆手に取った白一色。技術的には色をつけることはできるそうですが、我々が手にしたのは、あくまで実験用。後日回収しデータを採集するための200足ですから真っ白はむしろ“プロトタイプ”感たっぷりでよいと思います。

 さて、「アディダス」はこの靴を回収し、どんなデータを得るのでしょうか?アスリートからは機能性に関してフィードバックがあるでしょうし、インフルエンサーからはファッション性についてコメントがあるかもしれません。しかし発表会に出てみて、このプロジェクトの今後の最大の課題は靴の機能やデザインではない、と思いました。それらについては改善点が出てもきっと「アディダス」がなんとかする(笑)。課題は「回収」です。

 ドイツにある同社の研究機関であり最先端工場でもあるスピードファクトリーのスタッフに「200人から回収するデータで重要なことは何ですか?」と質問したところ、その答えは「まず200足全部きっちり回収すること、それができるかどうか」と返ってきました。

 あぁ、なるほど……深い。そうですよね。このサークルを完成し、循環させるためには靴を回収する必要があります。どんなに製品の完成度が高く、それをリサイクルする技術を開発しようとも、靴が戻ってこなければ循環させることはできないのです。自分自身の日常を振り返ると、ペットボトルはリサイクルを意識しているものの、そのほかのプラスチック製品に対してはただ廃棄しているだけ。何もできていません。

 ループを完成するには、消費者が能動的に動く必要がありますが、そのためにはインフラの整理なのか、コミュニティー作りなのか、ビジネスモデルの開発なのか。課題は山積みなんですよね。その仕組み・仕掛けは今後発表するようですが、今回、200人を“リーディング クリエイター”と呼び招集したのもそのひとつ。“皆さん、サークルを率先してクリエイトする人であってくださいね”という意味も込められていたようです。自分は気が付くとそのコミュニティーの内側に立っていた(笑)。まるでオープンソースの一部になった気分です。

 乗りかかった船だから一緒に漕いで進路を確かめよう、私自身は今そんな風に思い、データ提供に役立つよう、柄でもないランニングを始めました。ものぐさな人をさえこんな風に動かす辺りが「アディダス」上手し。でもいつまで続くことやら。100%自信があるとは言えません。