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カールが関わった最後の「シャネル」 笑顔と総立ちのフィナーレ

 「シャネル(CHANEL)」は、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)がかかわった最後のシーズンとなる2019-20年秋冬コレクションを5日、パリで発表した。会場に用意されたのは、静かな山間部の街並み。本物かと見まごう雪が積もり、粉雪が舞っている。華やかなスキーリゾートとは異なる静かで美しい雪景色だ。カールの死という現実を前に、しかし喪に服すのではなく、あくまで美しく送り出そうとする「シャネル」の姿勢が伝わってくる。

 ショーの冒頭にモデルが表に全員登場するとアナウンスが流れ、1分の黙とうが行われた。広いグラン・パレいっぱいに業界関係者やセレブリティー、顧客が揃う中で静寂が続く。その静寂の重さに改めてカールの偉大さに気づかされる。

 フィリップ・グラス(Philip Glass)が流れるとショーがスタート。クラウディア・シファー(Claudia Schiffer)をはじめとするカールのミューズたちが見守る中、ファーストルックを飾ったのは同じくカールのミューズ、カーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)だ。白と黒のツイードのハイウエストのパンツに、千鳥格子のツイードロングコート、胸元には真っ白なフリルと大振りのネックレス。華やかでクラシック。マスキュリンでフェミニン。特別なショーの始まりにこれ以上の装いはないだろう。

 粉雪の中、いかにも暖かそうなアウターやニットが充実したコーディネートが続く。ツイードのスパッツとツイードのスカートの重ね着、「シャネル」マークのブローチを飾ったハイネックに合わせるボリュームのあるカーディガン。ワンピースも肩にはボレロを、スカートにはもう一枚スカートを重ねたようなデザインで暖かそうだ。後半はネオンカラーのスキールックでツイードのジャケットにはスキーのチケットが入るようなポケットがついている。

 ショーの後半、女優のペネロペ・クルス(Penelope Cruz)が一輪の花を持って登場し、献花をほうふつとさせるシーンも。フィナーレでは後任のアーティスティック・ディレクター、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)がひとりで挨拶をし、再びカーラが先導しモデルたちが笑顔で歩くと観客は総立ちで拍手を送った。涙をぬぐうモデルや観客の姿も多く見られたが、暗さはなくショーは終始華やかに進行。常に前を見て、ファッションを愛したカールにふさわしい弔いだ。

 黙とうの後には、フランス語を話すカールの声も流れた。最初に「シャネル」の仕事を打診された際のエピソードだという、その全文は次の通りだ。

 「その依頼を受けた時、人々は口を揃えて『やめたほうがいい。最悪だ。もう終わったブランドだ』と言った。今でこそ、古いブランドを再生していくのが当たり前だが、当時は誰もそんなことはやっていなくて、新しい名前や新しい世界が必要とされていた。だからそれを聞いて、むしろ面白いじゃないかと思ったんだ。その状態も含めて、全てが。だからみんなが『やめておけ。うまくいくはずがない』と言ったけれど、二度目に打診をされた時、引き受けることにしたんだ。でも結果的にそれは、ブランドがファッションシーンに見事に返り咲く初めてのケースとなった。誰もが、英国の皇太后さえが、欲しいと思う存在にね。彼女が車から降りてきた姿は、今でも忘れられない。僕たちは花から何まで本当に美しく整えて準備をし、彼女は英語でこう言ったんだ。『あら、まるで絵画の中を歩いているようね』と。あのことは一生忘れられないだろうね」。