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ファッションと法律の架け橋 ファッション専門の弁護士集団「ファッション&ロー」に聞く

 労働問題や模倣品問題など、ファッション業界を取り巻くトラブルは年々増えている。またトラブル増加に伴い、ファッション業界に関連する法律を総称する“ファッションロー”という概念が日本に浸透し始め、ファッションローに携わる専門家も増えている。弁護士を中心にファッションローに関するセミナーの開催や無料法律相談などを実施する専門家集団「ファッション&ロー(FASHION & LAW)」もその一つだ。彼らは芸術や文化に関するサポート活動を行う非営利団体「アーツ&ロー(ARTS & LAW)」に所属する弁護士たちがファッションローに特化することを目指して結成したチームだ。彼らにファッション業界の現状を聞くと、「あらゆる人が同じようなことで困っていて、まずは弁護士に“相談する”という方法があることを知ってほしい」と口をそろえて語る。

WWD:「ファッション&ロー」設立のきっかけや活動内容は?

永井幸輔・弁護士(以下、永井):「アーツ&ロー」自体は10年以上前から活動している団体で、現代美術からデザイン、舞台、出版など広い意味でクリエイティブ全般を対象とした法的知識を提供しています。その中でファッションに特化したチームが、2014年の「ファッションは更新できるのか?会議」というシンポジウムをきっかけに「ファッション&ロー」というチーム名をつけて活動しているというのが設立の経緯です。コアメンバーとして動いているのは5~6人で、全体では8人程度です。

WWD:具体的な活動内容は?

永井:無料相談を軸に活動しています。“法律相談”という手段が本来必要なところに届いていないと感じますし、特にクリエイティブの分野に関しては、“法律に関して相談する”という行動自体が、非常にハードルが高いようなので、それを解決するためにチームを結成しました。「相談したいけど、どこに相談したらいいか分からない」という方々の受け皿になりたいと考えています。とはいえ、何かトラブルが起こってからでは遅くて、「起こる前にこうすればトラブルが起こりませんよ」といったセミナーを開くなど、いわゆる予防法務としての役割も担いたいんです。その他にも、どうしたらよりよい環境でビジネスを進められるかといったお手伝いをすることもあります。

WWD:活動拠点はある?

永井:メンバーはそれぞれ本業がある中で活動しているので、チームとして活動拠点があるわけではありません。今は、相談したい人は「アーツ&ロー」のサイトからコンタクトしてもらっています。

WWD:サイト経由の相談件数は?

馬場貞幸・弁護士(以下、馬場):「アーツ&ロー」では年間100件程度来ていて、そのうちファッションは1割くらいです。

WWD:認知度が足りない?

永井:それもありますが、セミナーを開くとそれなりに人が集まってくれるので、認知度というよりは、そもそも現場の方が「相談する」ということを思い付かないのだと思います。

WWD:「ファッション&ロー」の特徴は?

永井:まず、無料相談というサービスがとても重要です。あとは第一線で活動している弁護士が多く集まっていることが他団体との違いで、若手デザイナーなど本当に困っている人にソリューションを提供できる点が他との差別化につながると思っています。

小松隼也・弁護士(以下、小松):私は個別の相談をおおよそ週1ペースで受けていますが、若手デザイナーの最初期の支援やブランドネームの登録に関する相談がたまに来ることがあります。ただし、若手デザイナーって弁護士に依頼したくても費用を払えなかったり、赤字になってしまう人も多いんですよ。でも本来は契約ってその後のことに大きく影響するので、最初期の契約って本当に大切なんです。なのに費用の問題から相談にふみ切れなかったり、弁護士に相談するということが選択肢にないケースが多い。なので、そういった知識を広めるような活動を個人でもやっているのですが、限界を感じています。無料法律相談はどうしても受け身の姿勢になってしまいます。今は発信の方法がセミナーという形になっていますが、今後はファッションの合同展示会とかに出たり、服飾系の専門学校とも提携できないかなどについても考えています。ただ、今でも授業をいくつか持っているんですが、学生向けに法律をやると人気がなくて(笑)。だから人気デザイナーと組んで生徒の興味を引くような講義ができるといいなと思って準備しています。

WWD:興味を持ってもらうためにはどうする?

小松:デザイナーには、立ち上げ当初の悩みなどを話してもらって、私がその悩みに対して法律的なアプローチで解説をする、とか。例えば、ジュエリーは初めの頃に発表したアイテムが定番商品になることがよくあるのですが、発表してしまうと権利を取得できなくなってしまうケースもあるんです。実際そういう相談っていっぱいあるんですよね。なので、早い時期からそういった情報を提供する活動を団体としてやりたいです。

WWD:企業なら契約書を作る時に“専門家に相談”という発想になると思うが、クリエイターにその発想はない?

小松:その発想に至らないのと、そもそも“契約書”という形にならないですね。口約束になってしまう。海外のセレクトショップと取り引きをするときに、そこで初めて契約書を見ましたっていうケースも多い(笑)。契約書があればまだいい方で、ほとんどが口約束やメール。全部を契約書にした方がいいとまでは言いませんが、メールで約束するにしても、どちらが責任を持つかというような基礎知識を伝えたいです。

WWD:トラブルになった事案で契約書がないパターンは多い?

小松:受けた相談の8割くらいは契約書がありません。そうすると今度はメールを探したり、インタビューして話を聞いたりするので、逆に弁護士費用や手間がかかってもったいない。でもはじめから相談さえしてくれれば、「メールでここだけ聞いてください」といったちょっとしたアドバイスで、最小限のコストでトラブルを回避できるので、まずは「そういったこともできますよ!」という周知活動をしていきたいと思っています。

永井:契約書という形が業界に合っていないのかもしれないですね。弁護士はどうしても契約書という方向に意識が向きがちですが、契約書でなくても契約はできるわけです。もう少し柔らかい書面とか、なんならフォーム形式のメールでもいいと思うんですが、ファッション業界に適した“最適なツール”があるかもしれないので、そういったことを考えることにも意味があると思います。

馬場:私が今相談を受けているのは、ブランド内でのトラブル。例えば2人体制でブランドをやっていて、片方が抜ける時にどうするかといった問題です。同時期に似たような相談が複数来ています。

WWD:その他に、ファッション業界で多く見られるトラブルは?

馬場:労働環境の問題やキャリアパスの問題はよく聞きます。いわゆる労務や働き方の問題。あとは盗作の問題も多いですね。

小松:海外にデザインを盗まれてしまっているケースは本当に多くて、皆同じ悩みを持っているのに個別に直面してしまっている。それを解消するために、学校とはアワード優勝者には賞金などにプラスして法務面のアドバイスを付けたらいいのでは?といった話もしています。そういうところから認識が変わっていけばいいですし、変えられるところはたくさんあると思っています。

WWD:日本では“ファッションロー”という概念がようやく浸透してきたように思うが、この分野は海外でもまだ伸びる?

小松:海外は伸び切っているイメージです。ニューヨークやフランスはファッションローを専門とする弁護士も多い。海外の弁護士団体から連絡が来て、「ファッションローを専門としている分科会には1000人が名前を連ねているが、日本人が1人も入っていないから入ってくれないか」と打診されたくらいです。

WWD:弁護士の視点で、おもしろい取り組みをしていると思うブランドは?

永井:「エンダースキーマ(HENDER SCHEME)」ですかね。意図的にグレーゾーンを攻めているところや、みんなが知っている形をデザインに落とし込んでいるという意味でもおもしろいブランドだと思います。それが結果的にみんなに受け入れられて、ブランド側からコラボレーションしたいと依頼が来るほどのダイナミックさは誰もができるわけではない。特に日本ではあまり聞かないケースなので、飛び抜けて他と違うことをやっている点がおもしろいと思います。

小松:「ヴェトモン(VETEMENTS)」は法務が大変そうだなと思います(笑)。一つ言えるのは、コラボの数の多さ。企業コラボは結構大変で、毎シーズン、コンスタントにコラボしているのはすごいなと思います。ファッション企業とコラボしないような企業ともコラボしているので、そんな事案を見ると、誰がどのような交渉をして、誰が契約書を作っているんだろうなと感心します。

馬場:福岡県の八女にある、うなぎの寝床という地方発のセレクトショップがおもしろい取り組みをしています。そこは、地域の技術や伝統をプロダクトに落とし込んで販売することで、地方の職人や工房にどうやってお金が回るようにするか、どうやって技術を伝承させていくかといったビジネスモデルを考えています。私はそのお手伝いをさせてもらっていますが、技術を権利化して保護するのか、ある程度オープンにして、他に技術を持っている人と協働していくのかなどの戦略を一緒に考えています。