「ONOMICHI DENIMSHOP」尾道デニムショップ
広島県尾道市は、岡山市と広島市のほぼ中間に位置する。瀬戸内海に面し、古くから海運による物流の集散地として繁栄してきた。千光寺のロープウエーや尾道ラーメン、瀬戸内しまなみ海道、尾道出身の大林宣彦監督の映画の舞台として知られている。しかし、ここ1、2年、従来のタイプとは異なる新しい観光客の誘致にも成功していると評判だ。
アーケードの付いた尾道商店街には、セレクトショップ「パリゴ(PARIGOT)」がある。昨年丸の内に直営店をオープンした、現在勢いのあるセレクトショップだ。「パリゴ」を運営するアクセは、尾道が本拠地。商店街のきれいな石畳は、アクセの周囲への声掛けによって実現したものだ。きれいに整備された石畳と「パリゴ」のヨーロッパ風の外観がマッチしている。
「パリゴ」のほぼ対面には「ONOMICHI DENIMSHOP」と掲げられた看板がある。中に入ると長い木の台の上にデニムがずらりと並んでいる。そのデニムは、広島県福山市の出身で、業界の重鎮でもある林芳亨がデザイナーを務める「リゾルト(RESOLUTE)」のデニムだ。それらは、漁師やクリエイター、農園業者、料理人、オフィスワーカーといったさまざまな職業の人に週4日以上はいてもらい、週1回、洗いのために回収するという作業を1年間継続して出来上がったデニムだ。それぞれの職業によって付くシワや表情が異なる。その表情の度合いによって値段がつけられているのが面白い。サイズも加工もばらばらなデニムには、それぞれのストーリーがある。2万円台のものから中には4万円近いものまである。自分に合ったデニムがあるかどうかは、その時の出合い次第。地元の人たち数百人が無償でその取り組みに参加している。
この「尾道デニムプロジェクト」は、備後地方のデニムの素晴らしさを見直し、尾道の人たちと一緒に“本物のモノ作り”に挑戦することを掲げて、「リゾルト」との合同企画として2013年1月にスタートし、おととしショップをオープンした。そのプロジェクトを運営しているのが、「ディスカバーリンクせとうち」だ。“まちに事業と雇用を創出する“”地元の人と共に郷土愛を持って、まちの未来を真剣に考えることをひとつずつ実行する”ことを掲げ設立した会社だ。
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「ONOMICHI U2」の中にある「ホテル サイクル」
同社は、尾道におととし3月に複合施設「ONOMICHI U2」をオープンした。尾道は、サイクリングロードである瀬戸内しまなみ海道の本州側の起点であり、海外のサイクリストからも注目を集めている。その尾道で海運倉庫として使われていた「県営上屋2号」をサイクリストに必要なサービス、施設として再生させたものだ。大きな施設の中には自転車を駐輪できる「ホテル サイクル」を始め、カフェやレストラン、バー、サイクルショップ、ベーカリー、土地に根差した食材、衣料などのライフスタイル雑貨を販売しているショップが併設されている。開放的な空間やデザインは、まるでニューヨークのブルックリンにでもいるかのような洗練された雰囲気で、サイクリストでなくても十分楽しめる。よく見ると販売している調味料や食品には添加物併号がほとんど入っていない。しかも宿泊者には宿泊分の天然酵母パンが無料でプレゼントされるというサービスぶりだ。「ホテル サイクル」は、なかなか予約が取りにくいのもうなずける。レストランやバーには海外からの旅行者姿もあった。近くには、尾道プリンとして有名になったレトロな趣の店構えの「おやつとやまねこ」や、「やまねこカフェ」などを運営している若い起業家が立ち上げたショップがあったり、昔ながらの無添加かまぼこで有名な「桂馬」があったりなど、現在の健康志向に合った、新旧併せた魅力的なショップが数多くある。それこそ自転車で回れる距離なのも良い。尾道ラーメン発祥といわれる「朱華園」には、老若男女問わずに長い列ができていた。
サイクルショップ「ジャイアント」
尾道の魅力に触れると、観光客が増えている理由が分かる。地方都市の活性化はどの地域でも課題だが、昔ながらの魅力と地元を愛する後継者による新しいアイデアによって、成功している事例だと感じた。1店舗のみ、1プロジェクトのみでの頑張りはなかなか継続が難しいが、点が線になり、線が面となった時に、その魅力がさらにひとつのまとまりになって話題を呼び、人を呼ぶのだろう。これからまだまだ新しいプロジェクトが水面下で進んでいるという。来年もさらに観光客が増えそうだ。
尾道の駅前にあった市役所を観光バスが止まれるスペースにしてはどうかと市役所に掛け合ったのも「パリゴ」を運営するアクセだ。それぞれができることをすることで、さらにまちの総合力を高めている。“地の利を生かす”という言葉を今回の滞在で何度か耳にした。尾道の事例には地方都市が参考にすべき点がたくさんありそうだ。
※文中の肩書き・事実関係などは2015年11月23日当時のものです