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「私が最後の美容師になるかも」 訪問美容で知った、人生に寄り添う美容師の仕事

PROFILE: 金澤真由美「バイザサロン(BY THE SALON)」オーナー/訪問美容師

金澤真由美「バイザサロン(BY THE SALON)」オーナー/訪問美容師
PROFILE: (かなざわ・まゆみ)福島県出身。専門学校卒業後、東京・原宿の「ピークアブー(PEEK-A-BOO)」に入社し、約10年間勤務。退社後は介護関連の資格を取得し、ヘルパーや福祉美容の現場で経験を積む。2016年に東京・代官山で「バイ ザ サロン(BY THE SALON)」を立ち上げ、2020年に中目黒店をオープン。現在は2店舗を運営しながら、サロンワークと訪問美容を両立している PHOTO:NANAKO ARAIE

東京・代官山、中目黒にある「バイザサロン(BY THE SALON)」でオーナーを務める金澤真由美さんは、サロンワークと並行して訪問美容にも取り組んでいる。約10年間勤めた東京のサロンを離れ、介護の世界へ飛び込むきっかけとなったのは、大好きだった祖父の死だった。介護を学び、ヘルパーとして働いた経験を経て知ったのは、きれいなヘアスタイルをつくることだけが美容師の仕事ではないということ。「もしかしたら、私が最後の美容師になる方も多いのかなと思う」。顧客と共に年齢を重ねる中で変わった、技術、美容、そして美容師という仕事への思いを聞いた。

祖父の死をきっかけに介護の世界へ

WWD:金澤さんは東京の有名サロン「ピークアブー(PEEK-A-BOO)」の出身だ。

金澤真由美スタイリスト(以下、金澤):専門学校卒業後、原宿のサロンで約10年間働きました。有名なサロンだったので、ショーや撮影などサロンワーク以外の仕事も経験させていただき、東京の美容室への憧れを持ったまま、とても楽しく働かせてもらいました。

WWD:そこから介護、訪問美容の世界に進んだきっかけは?

金澤:大きなきっかけは祖父が亡くなったこと。私は祖父母にとてもかわいがってもらって育ち、帰省すると祖父の髪を切ったりしていたんです。でも仕事が忙しくて入院してからなかなか会いに行けないまま亡くなってしまって。亡くなった後に祖父と会ったら、髪がとても伸びていたんですよ。それを見た瞬間に「私、こういう仕事をしているのに何をやっていたんだろう」って。ずっと支えてもらって今があるのに、何も返せなかったなと落ち込みました。送り出す前にできる範囲で髪を整えたら家族がとても喜んでくれて。そこで初めて、こういう形で美容師の仕事をしたいと思ったんです。

WWD:約10年勤めたサロンを辞めて、すぐに訪問美容師になった?

金澤:いえ、その時点では自分のお店をつくることも考えておらず、「とりあえず介護を勉強しよう」と。資格を取ってヘルパーとして働いたり、福祉美容を専門にしている会社でパートとして働かせてもらったりしました。

WWD:美容師として約10年のキャリアがあっても、改めて勉強が必要だと感じた。

金澤:必要でしたね。高齢の方の体のことやコミュニケーションについて学ぶと、「髪がきれいになってもらえたらうれしい」だけでは足りないと思い知りました。

それに、大きなサロンでは美容師が美容師の仕事に集中できるように、さまざまなセクションの方が支えてくださっていたんですよね。辞めてから「私、カードも切れないんだ」「お客さまのお会計すらできないんだ」って気付いて(笑)。30歳前後でしたが、美容以外は何もできないんだなって。逆に、技術を学ぶ上でも、サロンワークに向き合う上でも、どれだけ恵まれた環境にいたのかをその時とても実感しました。

「来られないなら行く」
顧客との関係を終わらせない

WWD:現在はサロンワークと訪問美容を両立している。今の形になった背景は?

金澤:今一緒にサロンを経営している清水(清水光子共同代表)と話していたことがきっかけです。キャリアを重ねると、お客さまも一緒に年齢を重ねる。でも年齢を重ねると、駅から歩くことや段差を越えること自体がだんだん大変になってくる。「できるだけ皆さんにいつまでも通ってもらえるサロンをつくりたいね」と2人で話していたんです。

私はどうしても来られなくなった方のところへ行く。清水はサロンに来てくださる方を担当する。そうすれば、その方の状況が変わっても美容を提供し続けられる。そういった経緯から2016年に今のお店を始めました。

WWD:「訪問できればいい」ということでもない?

金澤:本当だったら、来店できる方には美容室に来てもらった方がいいと思っています。美容室に出かけることは、社会に触れる機会にもなる。今は医者も薬剤師もリハビリの方も自宅に来てくださって、それはとてもいい環境だと思うんです。でも、その分どうしても家の中にいる時間も増える。

だから、「美容室へ行く」という予定がその方にとって外に出るきっかけになればいい。来られるうちは来てもらって、難しくなったらこちらから行く。その両方があったらいいと思っています。

完璧なデザインより
「つらくない」が先に

WWD:サロンワークと訪問では同じカットでも考え方は変わる?

金澤:とても変わります。一技術者としては、「もっとここの重さを取りたい」「もう少しここをすっきりさせたい」と、デザインの部分を細かくチェックしたくなるんです。でも訪問先には、同じ姿勢で長く座れない方や腰が曲がっていたりコルセットを着けていたりする方もいます。

そういう方に普通のサロンと同じように「あとちょっと」と20分座っていただくことが本当に必要なのか。切ってほしいけれど「つらい」と思われてしまったら、それが一番良くない。だからデザインや技術の完璧さより、まず安心、安全。その人が快適に施術を受けられることを優先するようになりました。

認知症などで、途中から座っていることが難しくなる方もいます。最初は私も戸惑いましたが、「こういう症状がある」「今日はこういう日なんだ」と自分が理解して、その方の状態に合わせることも含めて技術なんだと思うようになりました。

WWD:ヘアスタイルを提案するときは何を見る?

金澤:例えば、今までパーマをかけてボリュームを出していた方でも、腕が上がらなくなって毎日セットできないならそのスタイルをつくってもご本人が再現できません。

だから、“逆提案”をすることも多いです。「頻繁に染められなくなって白髪が気になる」と言われたら、「とてもきれいなグレーカラーだから、これを生かしましょう」とか。「いい癖があるから、これを生かしましょう」とか。そうすると、「今までそんなこと言われたことなかった」と喜んでくださることもあります。

そのために、髪だけではなく生活も見ます。誰と暮らしているのか、自分で髪を乾かせるのか。娘さんがセットしてくれるなら、娘さんに方法をお伝えすることもある。サロン以上に「生活の中で無理なく続けられるか」を考えています。

WWD:訪問先のお客さまにとって美容はどんな意味を持っていると感じる?
金澤:もちろん、きれいにすると皆さん喜んでくださいます。ただ、私のお客さまに多い感覚で言うと、「美しく見せたい」というより「汚くなりたくない」に近いのかな。ちょっとストレートすぎますね(笑)。

年齢を重ねて体が動きにくくなっても、「髪がボサボサでもいい」とは思っていない。ちゃんとしていたい、整えていたいんですよね。「デイサービスでいつも髪が格好いいわねって言ってもらえるんだ」と話してくださる方もいます。そうすると、「この間、同じくらいの年齢の方がこんな髪型をしていてすてきだった」と、人にも目が向くようになる。

人から見られているという意識は、社会とのつながりとしてもとても大きいと思うんです。それがなくなってしまうと、自分のこともどうでもよくなってしまうというか。私はそれを一番避けたいかなと思います。

100歳の3日後
「最後に髪を切れて良かった」

WWD:これまでで特に印象に残っているお客さまは?

金澤:今年、今のお店ができる前から担当させていただいていた方が2人、旅立たれたんです。そのうち一人は100歳になった3日後に亡くなられました。

最初にお会いした頃は80代後半で、ご自身で動けるし、とてもしゃんとしていて。私が片付けていると「早く仕事に行きなさい。若い人は仕事しなさい」って(笑)。当時は私もまだ30歳くらいだったこともあり、とても応援してくださっていました。

でも、だんだん年齢を重ねて車椅子になり、娘さんが来店にいつも付き添ってくださるようになって。ご本人とはほとんど会話ができなくなりました。施術中もウトウトしていることが増えたんですけど、最後に鏡を見せると急にしゃきっとするんですよ。さっきまでウトウトしていたのに、鏡を見た瞬間に、以前のその方を思い出すような元気な顔になる。その顔を見られると、「やっていて良かったな」って思いました。

100歳のお誕生日が近づいて、「迎えられるかな」とご家族と話していて。最後の最後だけベッドカットになりました。髪を切った後、娘さんから「100歳を迎えられました。ちゃんと髪も切ってもらったから、みんなに褒められていました」と連絡をいただいて。その3日後くらいに亡くなられたんです。

WWD:その方の最後の美容師になった。

金澤:最後に髪を切れて、本当に良かったです。お医者さんみたいに病気を治すことはできない。でも、それでもその人の力にはなれる。100年生きたその方の最後の美容師になれたと思うととても光栄でした。

もう一人の方も、私がお伺いした1週間後くらいに亡くなられて、海外に住む娘さんから「母がきれいな状態で迎えられて本当に良かったです」と言っていただきました。「整える」という意味では、美容師も最後まで役割を持てるんだと実感しました。これから訪問する方は、もしかしたら私が最後の美容師になることも多いのかなと思うんです。そう思うと、一回一回がとても大事になる。「じゃあ、また」と言いながら、「また会えますよね」という気持ちは以前より強くなりました。

「気持ちがある」だけでは、訪問美容は続かない

WWD:一方で、訪問美容を仕事として続ける難しさは?

金澤:特に東京では移動が大変です。シャンプー台などの荷物もありますし、車で動けば提供できるサービスは増えますが、駐車場所や駐車料金の問題もある。移動時間があるので、一日に担当できる人数にも限界があります。訪問美容だけで生計を立てるとなると、まだ難しい部分はあると思います。私の場合は、サロンを支えてくれるスタッフがいるから外へ出られるし、一度介護業界で働いたことで、今もケアマネジャーやヘルパーから紹介をいただける。利用者さんにとっても、全く知らない美容師が突然家に来るのは不安ですよね。間に信頼できる人がいることはとても大きいです。

WWD:今後、訪問美容を取り巻く環境に期待することは?

金澤:美容も、もう少し医療や介護の中にねじ込んでいただきたい。「やりたい」という気持ちがあっても、仕事として成り立たなければ続ける人は増えません。利用する方だけでなく、美容師側も出向きやすい仕組みがもう少し整ってほしい。私一人では難しいですけど、福祉の方とももっとつながっていつか行政にも働きかけられたらと思っています。

WWD:最後に、今改めて美容師という仕事をどう捉えている?

金澤:その人の人生の中で美容師ってものすごく大きな存在ではないと思うんです。でも、「いなくなったら困るよ」くらいの存在ではいたい。私がデビューした頃、「今度小学校に上がるから」とお母さんに連れられて髪を切りに来た子が、今は結婚して子どもがいるんですよ。「人生だな」って思います(笑)。入学や卒業、就職、結婚があって、その先には年齢を重ねた時間もある。ずっと通ってくださった方の最後の髪を切らせてもらうこともある。美容師はずっと主役ではないけれど、その人の人生を陰で少し支えながら、いろいろな場面に立ち会える。そこに今はこの仕事の大きなやりがいを感じています。

店舗情報

■「バイ ザ サロン だいかんやま(BY THE SALON)」
時間:平日 11:00〜19:00/土日祝 10:00〜19:00
住所:東京都渋谷区猿楽町23-2 HOLON代官山4F
インスタグラム:@bythesalon_official

■「バイ ザ サロン なかめぐろ(BY THE SALON)」
時間:平日 11:00〜19:00/土日祝 10:00〜19:00
住所:東京都目黒区青葉台1-23-11 Brownie中目黒1F

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