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美容師は“なんかいい”を形にする仕事 「GOODTHING」伊藤竜が髪を起点に広げる生活提案

PROFILE: 伊藤竜/「グッドシング」オーナー

伊藤竜/「グッドシング」オーナー
PROFILE: (いとう・りゅう)1991年生まれ、東京都立川市出身。日本美容専門学校卒業後、都内3店舗を経て2022年12月、東京・北参道に美容室「グッドシング(GOOD THING)」をオープンした。24年6月に代官山、26年4月に五本木に出店し、現在はヘアサロンを3店展開する。店舗では、「ヘアだけじゃない」をテーマに、アパレルや雑貨、ヘアケアアイテムをそろえる。26年1月には古着屋「incvn」をオープン。ディレクターを務めるブランド「ニキ(NIKI)」ではヘアアイテムやアイウエアを展開する PHOTO:TAMEKI OSHIRO

東京・北参道、代官山、五本木に美容室「グッドシング(GOODTHING)」を構える伊藤竜オーナーは、髪を起点に、服や家具のセレクト、シーザーやアイウエアのディレクション、海外でのポップアップ開催まで活動を広げている。根底にあるのはヘアスタイルを単体で捉えない視点だ。「こういうヘアスタイルの人はこういう服を着ている。こういう音楽を聴いている。そういう女性像や男性像を想像しながら服や家具を選んでいる」。髪を整えることはその人の服装や部屋、聴く音楽、佇まいまで含めたムードを形にすることでもある。美容室は髪を切る場所にとどまらず、その人の生活やムードまで提案する場所になれるのか。伊藤オーナーが考える美容室の新しい役割を聞いた。

WWD:現在、伊藤さんが関わっているサロンやプロジェクトを改めて教えてほしい。
伊藤竜「グッドシング」オーナー(以下、伊藤):
美容室は「グッドシング」を東京の北参道、代官山、五本木で3店舗展開しています。店舗ではタオルや家具、洋服、スタイリング剤、ハサミなど、自分がいいと思ったアイテムをセレクトして扱っており、カフェメニューの提供もしています。

ブランドとしては、ヘアケアブランド「ニキ(NIKI)」を運営しています。今年1月からは、五本木店から歩いて10分ほどの場所でメンズを中心に古着とセレクトを扱うショップも始めました。五本木店にはウィメンズの服を置いているので、女性のお客さまにはこちらで見てもらい、男性のお客さまには古着屋の方を案内するような流れもできています。

WWD:「ニキ」ではアイウエアの取り扱いもはじめた。
伊藤:
アイウエアは“最後のスタイリング剤”だと思っています。顔周りのものですし、ヘアスタイル提案の延長と捉えられる。サイズの縛りもあまりないし、性別にも左右されにくい。美容室で提案するアイテムとしても相乗効果が生まれやすいと思っています。

今年7月から、「アーバンリサーチ(URBAN RESEARCH)」、ジュングループの「ボンジュールレコード(BONJOUR RECORDS)」、「1LDK」、代官山の「蔦屋書店」でアイウエアのポップアップや取り扱いが決まりました。ゆくゆくは「ニキ」を美容室と同程度の売り上げ規模に押し上げて、2本目の柱にしたい。会社としての人材ポストの提案にもなると思っています。

WWD:美容室と物販、ブランドはどのようにつながっている?
伊藤:
美容室はコミュニティーのハブであり、お客さまと深く関わることができる場所だと思っています。髪を切る中で髪だけではない悩みも共有してくれる。そうした悩みに対して、少しずつですがうちのサービスで解決できている実感があります。1つ1つの取り組みが僕の中では全部つながっていて、それぞれに相乗効果が生まれたらと考えています。

軸は常にヘアスタイルにあります。こういうヘアスタイルの人はこういう服を着ている、こういう音楽を聴いている、こういう部屋に住んでいる。常にそのような人物像を想像して買いつけをしたりアイテムを作ったりしています。

WWD:「グッドシング」の1店舗目をオープンしたのは2022年12月。当初から、髪を起点に服や家具まで提案する現在の形を構想していた?
伊藤:
やりたいことは全然変わっていません。髪は洋服があって、メイクがあって、その上に乗っているもの。だから髪以外の要素に関してもいいものを提案したいという気持ちがずっとありました。

ただ、思ったより早い段階でいろいろできている感覚はあります。店舗展開もそうですし、いろいろなことが形になるスピードは想定以上の部分です。

WWD:想定以上に広がった要因は?
伊藤:
インスタグラムのリール動画が大きかったです。投稿が広がり、そこから注目していただく流れができました。

もともとカメラがずっと好きで、6Kのシネマカメラで撮った映像を縦型にしてインスタグラムのリールに上げていました。自分の好きが高じたこだわりが結ばれたのかなという気持ちがあります。カメラが好きでよかったなと思っています。

WWD:多店舗展開は当初から構想していた?
伊藤:
僕はもともとコンパクトにやりたいタイプで、今でもとても大きくしたいと考えているわけではありません。ただ、人を雇っていく中で、人の成長とともに場所が必要になっていく。おかげさまで辞めている人がほぼおらず、今は社員が32人ほどいます。店舗ありきではなく人ありきで出店の選択肢が生まれている状況です。

海外に届いた“グッドシング”のムード

WWD:韓国、台湾、ロンドンでのポップアップイベントも実施している。
伊藤:
これまで海外で行ったイベントやポップアップは全てお客さまとのつながりがきっかけです。最初はロンドンでした。ロンドンの「カフェ・ヴィンズ(CAFÉ VINS)」のオーナーが髪を切りに来てくれて「ぜひ何か一緒にやりたい」と言ってくれたのが始まりです。インスタグラムでうちのムードや雰囲気を見て来店してくれました。韓国も台湾もお客さまとのつながりがきっかけ。現地ではフリーカットをしたり、ドリンクを出したりといったイベントとして開催しました。

WWD:インスタグラムで打ち出すムードが海外にも届いている。
伊藤:
フランス人のカメラマンの友人になぜ「グッドシング」のインスタグラムが海外でも伸びているのか意見をもらったことがあります。その時に、うちが提供しているサービスやコンテンツはワールドワイドで国境がないと言ってもらいました。フランス人が見てもアメリカ人が見てもいいと思えるものを作っている、と。

うちはヘアを提案しているというより雰囲気やムードを提案している。それが海外にも届いたのかなと解釈しています。

WWD:北参道、代官山、五本木の店舗は、それぞれ空間の雰囲気がかなり異なる。
伊藤:
店舗を作る時は必ず雰囲気を変えています。最初に作った北参道は木をたくさん使ったクラシックな空間にし、人工物もあまり入れていません。逆に代官山は色をなくして真っ白な無機質な店舗に。五本木は3席のみの小さな店舗です。

「この空間だったらどうなるのか」「こういうスタッフが集まったらどんな店になるのか」。そういうチャレンジをしていきたい気持ちがあります。

髪を切らなくても立ち寄れる美容室へ

WWD:そもそも、「グッドシング」のような美容室の形態はどこから着想を得た?
伊藤:
美容室では珍しい形かもしれませんが、バーバーには結構あると思っていて。グッズを売ったり、イベントをしたり、お店でお客さまとお酒を飲んだり。そういう意味ではバーバーの方が一般の人に目が向いている印象があり、そういった文化をミックスしたい気持ちはありました。

もともと美容室は敷居が高すぎると感じていました。予約しないと入れないし、予約していない人は店に入りづらい。それをなくしたかった。「グッドシング」では物販だけを見に来る人もいますし、ハードルを下げられている部分があります。今後はよりそのハードルを下げていきたいです。

WWD:今後、理想とする形は?
伊藤:
本当は大箱で衣食住が全部できる空間が一番いいです。街のテーマパークではないですが、複合施設のような場所。カフェもあって、洋服も買えて、髪も切れて、何をするにも立ち寄れる場所を作りたいです。

長期的には宿もやりたいです。都内ではなく山梨なのか静岡なのかはまだ分からないですが、そういう場所も作れたらいい。ただ、今は目の前のことでいっぱいなので長期目標を細かく決めているわけではありません。自分が40代、50代になった時に、今の新卒の子たちもいてもっといい組織になっていたらいいなと思っています。

「あくまで自分は美容師」

WWD:活動の広がりとともに、自己紹介の難易度も高まっていそうだ。
伊藤:
一言で言い表せなくなっている難しさは感じています。でも、あくまで美容師という経歴は大事にしています。髪を切るのも好きですし、初対面の方に自己紹介する時は「美容師です」と名乗ります。その上で「グッドシング」のインスタグラムを見せたり、古着屋もやっていたりすることを説明しています。

WWD:現在も現場には立ち続けている?
伊藤:
今は「ニキ」や物販の活動、カメラマンとしての仕事、他社のインスタグラムのクリエイティブを担当する仕事があり、それらが入っていない日は現場に立っています。五本木店に立つようになってからは週3〜4日ほどはサロンにいると思います。

WWD:髪を切る、写真を撮る、クリエイティブを考える。これらはどうつながっている?
伊藤:
根本的に何かを生み出すことや形作ることが好きなのだと思います。写真も構図を考えたりレタッチしたりするのが好きですし、髪も最終的な形への関心が強い。理論というよりシェイプや完成形に近づけていく感覚でカットしていて、彫刻っぽいカットをする方だと思います。

カメラマンとしての仕事もモデル撮影が多いので、モデルさんの意思があり、それを尊重しながら指示を出していく。髪を切る時と違いはないと考えています。ある程度の条件や縛りがある中でどうするのがきれいかを考えるイメージです。

美容師は「なんかいい」を形にする仕事

WWD:現在のサロン業界はどう見えている?
伊藤:
シンプルに、技術力の高い人がたくさんいると思っています。中でもその人の色を出せている人は目立っていると感じます。昔よりも業界は良くなっていると思います。表現も自由になっていますし、薬剤の進化もその技術を押し上げている。

ブランディングなど見せ方の重要性も高まっていますが、最終的に僕は上手いのが正義だと思っています。やっぱり技術やバランス力が大切。それが極められていたら、どのような形であれ上手くいくと思います。

WWD:伊藤さんの感性はどのように育まれてきた?
伊藤:
映画がずっと好きでした。あとは本も好きで中学生くらいから小説を読んでいました。文章から情景が浮かぶ感覚は、インスタグラムのリールや映像を撮る時にも意識しています。たとえば、村上春樹の少し青春っぽい、青臭い文章を表現するにはどうしたらいいのかと考える。難しいですが、それがブランディングにもなると思っています。

美容師は、「エモい」「なんかいい」という感覚を形にする仕事だと思っています。髪型でも映像でも写真でも、「なんかいいよね」という曖昧な感覚を形にしていく。これからもそういうことをしていきたいです。

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