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「ディオール」の仮面パーティーで知る素顔を隠す解放感

 「最近の『ディオール(DIOR)』はなんか変わったよね。なんというか、よりメジャーになった。売れているんでしょう?」。そう話すのは、パリコレ取材の際にお世話になっているドライバーでフランス在住40年超の日本人男性です。パリでの日常生活で最近の「ディオール」の変化を感じるというのです。日本人旅行客のコーディネーターの仕事もしている彼は「買い物に来る人たちの様子を見ても『ディオール』は若い人の間で盛り上がっている感じ」というから鋭い。実際、日本でもマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)がアーティスティック・ディレクターに就任して以降、顧客の年代が若返り百貨店での売り上げも好調だと聞きます。

 そんな新生「ディオール」は2018年春夏オートクチュールのショーの同日夜に、盛大なパーティーを開きました。同ブランドが“グランバル”と呼ぶ壮大なアフターパーティーは、昨年に続いて今年もドレスコードは“仮面着用”でした。

  仮面パーティー……。なんて謎めいた響きでしょう。そんな、映画のような世界が本当にあるなんて、1年前にこのパーティーに出るまでリアルには知りませんでした。そして、“仮面着用”のドレスコードに若干おびえつつ参加した昨年、すっかりその魅力を知ってしまったのです(笑)。生け垣でできた迷路を抜けた先に待っていたのは、現実離れした異空間。鏡の前で繊細なレースの仮面を着用すると、ワクワクして同時にリラックスしました。仮面で素性を隠すことで気が大きくなるなんて、実際には気が小さい証拠なんでしょう(笑)。でも女性ならわかってもらえると思うのですが、1日の終わりで色濃くなった目の下のクマを隠せるとホッとして少し気が大きくなるものです。
 
 あれから1年、今年もショーの当日夜にロダン美術館に建てたテントの中で仮面パーティーが開かれました。2回目ともなると参加する側も慣れたもので、自前の仮面を用意して気合いの入った人が多数で、眺めているだけで楽しかったです。

 「ディオール」の2018年春夏オートクチュール・コレクションのキーワードは“シュルレアリスム”。会場演出も実にシュールでした。オセロゲームの黒と白で彩られた空間や、巨大な鳥かごの中で談笑する美女2人、トランプのケーキ。壁からはたくさんの人の手が突き出ており、その中のひとつは生身の人間でこちらを手招きしています。“シュルレアリスム”な仮面パーティーだなんて、ともすればアンダーグランドに着地しそうですが、そうはならずあくまで美しく官能的な世界になっているのは、細部まで徹底してこだわった空間デザインがあるからに他なりません。

 とにかく、素性を隠し、非日常の映画やゲームの中を歩くようで楽しく、解放感がありました。着ている人たちのファッションも楽しい。シュールをテーマにしたファッションだなんて難易度は高そうですが、会場に来ていたモデルでアーティストでもあるサーシャ・ピヴォヴァロヴァ(Sasha Pivovarova)がテーマを見事に体現していました。

 会場では、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMHファッショングループ会長兼CEOなど同社の幹部たちもマスクを着用して集合しており、セレブリティーだけではなく閉店したコレットのサラ・アンデルマン(Sarah Andelman)はじめファッション関係者が彼らの元を次々に訪れ仮面越しにご挨拶。少し距離を置いて立つボディーガードたちもマスクをしており、一帯はものすごい重厚感を放っていました。そしてその輪の中で常にどっしりと構えているのがマリア・グラツィア・キウリなのです。人懐っこい(とても優しい女性です)女帝のような存在感を見ていると、「ディオール」の9代目のデザイナーとしての彼女のキャリアは長くなりそうだな、と思います。

 マリア・グラツィアの仕事には、そのクリエイションからもこういったイベントからも常に“ファンタジー”と“解放”という2つのキーワードが浮かびます。それはまさにファッションが成せること。なぜ今若い女性たちが新生「ディオール」を支持し始めているのか、その理由は単純にモノがカワイイから、ということもあるでしょうが、彼女たちはそのモノを通じてメゾンが投げかけてきているこれらのキーワードをちゃんとキャッチしているのではないでしょうか。