ファッション

「ジョンロブ」初のアーティスティック・ディレクターが老舗ハウスに新風を吹き込む

 エルメスグループ(HERMES GROUP)傘下の英国高級紳士靴「ジョンロブ(JOHN LOBB)」は、ブランド初のアーティスティック・ディレクターにパウラ・ジェルバーゼ(Paula Gerbase)を任命した。「クラフツマンシップとその価値に敬意を払う一方で、より現代的な視点が必要である」という狙いによる起用だ。

 パウラは2015-16年春夏コレクションにデビューし、17-18年秋冬にはウィメンズラインを立ち上げた。彼女はサヴィル・ロウ(Savile Row)のテーラーで経験を積み、10年に自身のウエアブランド「1205」を立ち上げたが、靴のデザイン経験はない。そんな彼女が描く新生「ジョンロブ」とは?11月に来日した彼女に話を聞いた。

アーカイブはブランドのハート
テーマや気分にマッチするものを取り入れる

WWDジャパン(以下、WWD):サヴィル・ロウで経験を積み、自身のウィメンズウエアブランドを立ち上げたが、シューズデザインの経験はあった?

パウラ・ジェルバーゼ(以下、パウラ):私はとても好奇心旺盛で、いろんなものを学びたいという気持ちがあります。「ジョンロブ」から話をいただいたときは、一度も靴のデザインをしたことがないという不安はあった。でも「ジョンロブ」はもっとも美しいシューズハウスでしょう。クオリティーも間違いない。できるものならばやってみたいと思ったわ。

WWD:実際入ってみてどうだった?

パウラ:もともとシューズの経験がなかったから、自由な状況で参加できたのは意外とよかったんじゃないのかなって思います。

WWD:具体的にはどういうところ?

パウラ:シューズデザイナーだったら、もともとの自分のスタイルもあるから、そこからどうこうという考えになってしまうでしょう?でも私の場合は、靴においては真っさら。だから、入ってまず6カ月かけてハウスの歴史を学びました。ジョン・ロブさんはもともと農家の育ちだったのよ。

WWD:農家からシューメーカーという転身も面白い。

パウラ:彼は幼い頃、落馬して骨折して足が不自由になったそうです。それで彼のお父さんは、手で仕事ができるようにと近くの靴工場に彼を送った。そこから彼の靴作りが始まりました。そして彼が21歳の1850年、歩いてロンドンに出たんですよ。その時に彼が作ったハンドメイドブーツを何個か持って。なんとなく、ジェントルマンでクラシック、シガーとウイスキーのイメージを持っていたのだけれど、違うんですよ!アドベンチャーだったしとてもモダンだった。アウトドアのシューズも作っていた頃もある。いろんなことを経てシティブランドに進化していったんです。発見が多いですよ。

WWD:確かに知らないことが多い。

パウラ:例えばこのブーツは、モダンだしファッション的なアイテムでしょう?でも実は1920年代のアーカイブからデザインを取り入れています。

WWD:アーカイブをもとに今にマッチさせていく役割を担っている?

パウラ:アーカイブはブランドのハートだから。シーズンテーマやそのときの気分にはまるものをアーカイブから探します。それを製作者のトップと一緒にディテールやテクニックを見ながら合体させていきます。1920年代にもラバーソールのスニーカーがあったんですよ。また、2年前にアトリエで、メード・トゥ・メジャーをオーダーしにきたお客さまが「履き心地が手袋みたいな靴が欲しい」というリクエストをしたの。そこから生まれたのが、今のウィメンズシューズの軽量でフレキシブルなインソールになっています。クラシックなものと比べると全く違いますよ。でも製法はグッドイヤー・ウェルトを用いています。

WWD:同じ製法だけど軽くなっている?

パウラ:はい。グッドイヤー・ウェルト製法は1つの靴を作るのに190の工程があります。

WWD:細かい製法はサヴィル・ロウの仕立てと重なる部分も多いのでは?

パウラ:似ていますね。目に見えない作業ですが、履いたとき、着たときに感じる特別感は共通しています。ノーザンプトンのアトリエは、ラボがあって研究所みたいなんですよ!少し削ってテストをしたり。そういったところも似ていると感じます。パターンカッターに日本人もいますよ。

WWD:ウィメンズを始めたきっかけは?

パウラ:歴史がもう一度私にやったら?って(笑)。ジョン・ロブさんの初めてのお客さまは女性だったそうです。そして、初めての新聞広告は“JOHN LOBB now open goods maker for womens and mens(婦人と紳士向けの良い靴メーカー「ジョンロブ」開店)”というものでした。実は、「ジョンロブ」はもともとユニセックスブランドだったんです。1960年くらいの話です。また、94年頃にもウィメンズの既製靴を作っていたみたいです。その当時の木型を用いて、伝統的なグッドイヤー・ウェルト製法で作ったシューズもありますよ。

 メンズブランドがウィメンズを立ち上げるとき、ちょっと力を抜くところがあると思うんです。例えば、ハンドステッチじゃなくてのりで接着したり、レザーのクオリティーを下げたり。でも「ジョンロブ」は女性に対しても手を抜きません。そういったことを大切にしています。

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