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「アーデム × H&M」ロサンゼルスで先行披露 アーデムが着想源を語る

 毎年恒例になった「H&M」のデザイナーズコラボ。今年は英国を拠点とする「アーデム(ERDEM)」と協業し、11月2日に世界で発売する。米国ロサンゼルスをお披露目場所に選び、10月18日夜(現地時間)にはファッションショーを含むイベントを開催する。それに先駆けて同日朝、「H&M」のウエストハリウッドのプレスルームで、デザイナーのアーデム・モラリオグル(Erdem Moralioglu)と、アン・ソフィー・ヨハンソン(Ann Sofie Johansson)H&Mクリエイティブ・アドバイザーがインタビューに答えた。

 トルコ人の父とイギリス人の母の間に生まれたアーデム・モラリオグルは、カナダのモントリオールで育ち、ロンドンの王立美術大学(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)を出てから、ニューヨークの「ダイアン フォン ファステンバーグ(DIANE VON FURSTENBERG)」で経験を積み、2005年にロンドンで自身のブランドを設立。ダイバーシティーを地で行く人物だ。今回は、過去のコレクションから厳選したデザインテーマに沿って新たな解釈を加え、彼の特徴的なデザインであるプリントやジャカード、刺しゅうなど、繊細なクラフツマンシップなどを生かしながら、彼の原風景や歴史などを色濃く反映した、ロマンチックでノスタルジックなコレクションに仕上げた。初めてメンズに挑戦しているのもトピックスだ。

 今回のコレクションのインスピレーション源は、1990年に発表された、ペットショップボーイズ(Pet Shop Boys)の「ビーイング・ボーリング(Being boring)」のミュージックビデオだった。「メンズのコレクションを作ることが決定した際、瞬時に10代の頃に惹かれていた、ブルース・ウェーバー(Bruce Weber)が撮ったペットショップボーイズの『ビーイング・ボーリング』の美しいMVを想起した。イギリスのカントリーハウスに住んでいる若者たちが登場し、カットドレスにベルトを合わせて着る女の子やタキシードにTシャツを着ている男の子など、フォーマルとインフォーマルの対比が面白かった。他にも、画家のデイヴィッド・ホックニー(David Hockney)や歌手で女優のジェーン・バーキン(Jane Birkin)など、英国的な人、あるいは、英国的なエキセントリックな人々にも影響を受けてきた。中でもこのMVは、多様な人々を受け入れるような素晴らしいデモクラシーの要素があった。自分にとってこのコレクションは、16歳でも80歳でも誰もが面白いと思ってくれるクリエイティブなコレクションだと思う」と説明する。

 もう一つ、家族の記憶も服に反映されている。「母のウエアやバッグ、60年代のブレザーをタイトにフィットさせて着ていた父のスタイル、姉妹の高校時代のスタイル、カナダ時代に着ていた服など、昔の写真を見てインスピレーションにした部分もある。父はトルコ人、母はイギリス人、自分はカナダで育ったので、いろいろな背景がミックスされている部分がある」とアーデム。

 「ちなみに、トルコでは『アーデム』の商標がとられてしまっているので、アーデム・モラグリオという本名で出すことになる。学校の制服でフルネームが書かれていたことはあるけれど、トルコのいろいろな場所でフルネームが記されたコレクションが打ち出され、売られることを光栄に思っている」と話す。

 協業にあたり、共有した価値観(シェアードバリュー)について、アーデムは「双方にとって新しい経験だったと思う。『アーデム』は『H&M』が過去にコラボしてきたブランドに比べてかなり規模が小さいし、完全に独立しているブランドだ。私はロンドンに拠点を置き、スタジオで仕事をし、家に帰り、またスタジオに戻るという生活を送っている。私の世界が小さいとは言わないが、世界中で展開する『H&M』に比べて、全く違う経験をしている。特に自分にとって価値があったのは、従来とは異なる側面の仕事を探求できたということ。初めてメンズコレクションやバッグを手掛けるなど、多くの『初めて』を経験できた。過去のアーカイブをもとに低価格で商品を作るのではなく、多様な観点から女性のことを考えながらコレクションを作った。中でも初挑戦したメンズウエアは、ウィメンズウエアに影響を受けていたり、その逆もあったり、フィッティングでも僕が着たメンズウエアを女性モデルに着せたりしたのは興味深い作業だった。『H&M』は多くの工場と仕事をしているが、今回は自分が起用してきたスコットランドのウール工場やイタリアの小さな工場などでも生産したり、コレクションをより良くするためにお互いに平等に主張し合った。自分にとって、“パーマネント”、いつまでも廃れずに長く使えることは重要なことで、ファストファッションという考え方には全く興味がなくて。服を買い、着て、クローゼットに残っていくような私の世界を一緒に実現したいと思っていた。協業のプロセスはとてもダイナミックで、デザインプロセスも楽しくて興味深いものだった」と語る。

 一方、アン・ソフィーH&Mクリエイティブ・アドバイザーは「われわれはどちらもハードワーカーで、目標達成に向けて熱心に仕事に身を捧げるところや、ファッションに対する情熱などが共通していた。『H&M』のチームにとっても有意義な経験だった。今回のタイムレスで美しいコレクションは、みなのファッションライフを救ってくれるはず。何を着たらいいか分からないというときにはこのコレクションが問題を解決してくれる。真のコラボレーションとは、与えたり、与えられたり、共有したり、そういう大事だと思っている。そして信じられないくらいクリエイティブな作業だった」と振り返る。

 ラグジュアリーファッションとデモクラティックなファッションは共生するのかとの質問に対して、アン・ソフィー=クリエイティブ・ディレクターは「すでに共生していると思う。『H&M』と別のブランドやビンテージを組み合わせたりしているし、ファッションは誰に対しても居場所があるもの。全ての人が価格に見合った美しいコレクションを着ることができると思うし、それがコラボレーションを通じてデザイナーのコレクションをより広い層に届ける意味でもあると思っている。われわれのカスタマーにとっては、このコラボレーションでなければこの美しいデザイナーの服を買えないかもしれない。そういう人にも届けられるのがこのコラボの意味でもある。むしろ共生をすることでファッションがより面白くなるはず。ファッションビジネスに携わって30年になるが、働き始めた当初はファッションはもっと限定された人々だけのものだった。今はより民主的になることで、よりファッションを楽しめるようになってきたのだと思う。独裁的ではなく、より個性や自身を表現するもので、ファッションは楽しいものであるべきだと思っている」と述べた。

 これに対して、アーデムは「デザイナーにとって永久的に着てもらえることは喜びであり、デザインが良いことの証拠だ思う。ラグジュアリーとは、自分自身のものであるということ、パーソナルであるということ、そして人間的であることだと思っている。それに、(同じブランドで)トータルでコーディネートするよりもミックスをすることの方がよりモダンだ。高校時代に着ていたようなビンテージと組み合わせたり。民主的、ミックスといった言葉の方が、真面目に同じものでコーディネートするよりも、個性的で良い。そして、メンズやウィメンズ、ボーイズやガールズなどにとらわれない考え方は、ファッションの『流動性』を表していて面白いと思う」とクロスジェンダーでの着こなしも推奨する。

 最後に、会場にロサンゼルスを選んだことについて、アーデムは「今回、(映画監督の)バズ・ラーマン(Baz Luhrmann)とのコラボで映画のような映像を作った。今夜まさにそういう場所を見てもらえる。LAは自分のコレクションも見せたことがないし、『H&M』でもこれまでデザイナーズコラボを開催したことがない新しい場所。私自身の『ラ・ラ・ランド(LA LA LAND)』モーメントになるはずで楽しみだ」とニッコリ。主演のエマ・ストーンが「アーデム × H&M(ERDEM x H&M)」を着用してメディアに登場したこともあり、今夜のゲストではないかとの憶測を呼んだ。