中島輝道デザイナーが手掛ける「テルマ(TELMA)」は9月10日、2027年春夏コレクションを発表した。ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)への参画に伴い、今年1月に新会社TELMAを設立して以降、初の本格的なシーズンとなる。ブランドの“リスタート”と位置付けた今季は、日本各地の職人と開発したテキスタイルを通して、人が作ることの価値をあらためて問い直した。職人との協業を深め、これまでとは異なる“強さ”を示したコレクションだ。
着想源は、1969年に開催されたウッドストック・フェスティバルと、その背景にあったヒッピー・ムーブメントだ。ただし、当時のスタイルをそのまま引用したわけではない。「自由や平和を本気で信じ、それに向かって突き進んだ人たちの、人間的な強さに引かれた」と中島デザイナー。その姿勢を、長い時間をかけて技術を受け継いできた職人たちの力と重ねた。
白から始まり、菖蒲の花が咲き誇る
ショーは白いルックから始まった。軽やかなコットンやリネンを用いた、緩やかでありながら輪郭のあるシルエットが続く。白には「新たな気持ち。純粋な今の気持ち」を込めたという。淡いグリーンのピンストライプのテーラードジャケットや、花柄、幾何学模様、刺しゅうを組み合わせたウエアへと色彩を広げ、次第に会場をポジティブな空気で満たした。
メーンモチーフに選んだ花は菖蒲だ。美しい一方、角度によっては少しグロテスクにも見える形に引かれた。「美しさや強さと、花が持つ繊細さ。相反する要素を感じた」。菖蒲が持つ希望などの前向きな花言葉も、今季のテーマと重なった。オリジナルのジャカードやプリント、刺しゅうによって、形を崩した菖蒲をさまざまな表情で描いた。
「職人の喜ぶ声が何よりうれしかった」
今季は、直接取り組む職人や事業者だけでも5社以上に上る。中でも象徴的なのが、ボンバージャケットやコートに採用した足利の工房と開発したほぐし織だ。何千本もの経糸をそろえた状態で柄をプリントし、一度巻き取ってから織機にかけ、緯糸を織り込む。工程の中で生まれる柄のずれが、独特の揺らぎとなる。
「テルマ」はそこにジャカードを重ね、さらにラメ糸を加えた。糸作りや染色、織り、加工を担う職人たちが集まり、小さな試織を確認しながら開発を進めていく中、ラメを入れた瞬間、生地の表情が大きく変わり、職人たちから歓声が上がった。「『こんなのは見たことがない』と、ものすごく喜んでくれた。それが何よりうれしかった」と振り返る。
さらに、鮮やかなオレンジが目を引くドラマチックなドレスには、群馬の職人と開発した三重織の素材を採用した。三層の織物を接結糸で部分的につなぎ、接結していない部分を浮かせることで、一枚の布の中に反りや揺らぎを生み出した。中島デザイナーは、この不均一な立体感を「人の手仕事の痕跡」と表現する。ドレスには約13mもの生地を用いた。
ほかにも、大柄の膨れジャカードのジャケットや、二層の生地をレーザーカットして下層をすくい上げた立体的な素材のドレス、約25柄のアーカイブ残反を用いたパッチワークのジャケット、丹後ちりめんを用いたトップスなどが並んだ。手仕事によるゆがみや揺らぎ、偶然性、不均一さを肯定し、端正なシャツやテーラードジャケットにも豊かな立体感を加えた。
中島デザイナーは、職人の技術をそのまま使うだけではフェアではないと考える。「100年、200年の時間をかけて成熟させてきた技術を使わせてもらうなら、こちらからも新しい視点を提案しなければいけない。なぜその技術がいいのかを理解し、職人が頑張れば実現できるぎりぎりのところを一緒に探す。先人が培ってきた知恵や、日本の風土に合った文化を、ノスタルジーではなく新しい文脈や価値に変えて次につなげていく。それが『テルマ』の本質だと思っている」。
今季のコレクションには、ピンクや花柄など、中島デザイナー自身が素直に「かわいい」と感じるものも積極的に取り入れた。「全てをポジティブに捉え、見た人が純粋に『かわいい』と思えるものを作りたかった」。クリエイティブに専念する体制にあらためたことで、以前よりも自分の仕事と前を向くことに集中できるようになったという。
「ようやくスタートラインに立った感覚」
中島デザイナーは8月31日、「第44回 毎日ファッション大賞」の新人賞・資生堂奨励賞に選ばれたばかりで、さらに注目を集めている。「いい意味で、ようやくスタートラインに立たせてもらった感覚だ」。白から始まり、菖蒲の鮮やかな色と職人の手仕事へと広がった今回のショーは、「テルマ」にとって再出発を告げるものとなった。