村上亮太デザイナーが手掛ける「ピリングス(PILLINGS)」が2027年春夏コレクションを発表した。テーマは「landscapes 2」。昨シーズンの「landscapes」に続き、日常の中に残る曖昧な記憶や印象を起点に、現実と幻想の境界が少しずつぼやけていく感覚をウエアに落とし込んだ。
ここ3シーズン、村上デザイナーが見つめてきたのは、ありふれた日常に潜む“面白さ”だ。26年春夏シーズンの「MY BASKET」では、日々の暮らしに根差したリアリズムを出発点とし、昨シーズンは現実と夢の間にある世界に移った。今季はさらに抽象度を高め、特定の人物像を持たない風景を描いた。
「正確ではないからこそ残る印象に魅力を感じた」
「毎日見ているビルや信号も、その日の感情や心情によって違って見える。何が正解かを決めるのではなく、人によって感じ方が異なる世界を大切にしたい。それが今の時代の豊かさやラグジュアリーだと思う」と村上デザイナー。なんとなく覚えている景色を、うろ覚えのままスケッチしたような、正確ではないからこそ残る印象に魅力を感じたという。
チーム内では、小川洋子の小説について話すことも多かった。現実から地続きのまま、気付けば知らない世界へと迷い込んでいるような感覚や、「知らないけれど知っている」と思わせる物語に引かれた。電車で本を読みながらうたた寝し、目の前の現実と夢、読んでいた物語が混ざり合っていくような経験も、今季のイメージにつながった。
会場に選んだのは、朝日新聞本社。朝日新聞の読者投稿欄「声」を愛読しているという村上デザイナーのリクエストでかなった。幅広い世代が社会の出来事への感想を寄せるこの欄を「今の社会に触れる場所」と説明し、自身のコレクションを発表する場として決めた。
大きな窓には、高層ビル群と緑の木々が入り交じる東京の風景が広がっていた。しかし、その景色に村上デザイナーはあえてブラインドを閉めた。ブラインドの隙間から差し込む光と情景が今季のコレクションにさらなる“印象”を与えられると思ったという。
ショーは電車内で目にする日常の風景から始まり、次第に夢のような世界へと移り、最後は白を基調としたルックへと戻った。音楽のキーワードは「美しい退屈さ」。約1分30秒の音源を繰り返しながら、反復の中で音をずらしたり、組み合わせを変えたりすることで、平坦な時間の中に潜む感情の起伏を表現した。
路上で鮮やかに咲く朝顔が着想源に
クリエイションの着想源の一つとなったのが、村上デザイナーが毎日のように目にした朝顔だ。都会の路上に溶け込みながら、よく見ると鮮やかな色をたたえている姿が印象に残ったという。ブルーやパープル、ピンクなど、淡い色から鮮やかな色までをショー中盤に取り入れた。
花びらに広がるグラデーションはハンドニットで表現した。タイダイ染めのように見えるが、実際には複数の色を使い分けて手編みしたものだ。白いデニムには手作業で染料をのせ、ムラのある色合いに仕上げた。
朝顔がしぼんだようなシルエットのドレスやコートも登場した。製作を担ったのは、造花を手掛ける会社。生地を手で染めた後、半田ごてのような道具で熱を加えてしわを寄せ、花びらのような表情を生み出した。当初は襟口や袖口の一部に用いる予定だったが、試作を重ねる中で服全体へと広げた。「花のような服、あるいは服のような花を作りたかった」と村上デザイナーは話す。
“失敗”から生まれた、色をにじませる“泣き糸”
今シーズンを象徴するのは、“泣き糸”を用いた服だ。あえて堅牢度の低い糸で縫製し、洗いをかけることで糸の染料を生地へにじませた後、再び加工して色を定着させた。カーディガンのボタンホールやスリップドレスのレースの縁、シャツのフリルだけでなく、ネームタグにも施した。
色が別の部分へ移ることは、本来は“失敗”とされ、色がにじむ様から職人の中では「泣く」といわれている。村上デザイナーはその響きにも引かれ、今回採用した堅牢度の低い糸の“泣き糸”と名付けた。「作っている中でたまたま出てしまった失敗や、作り手の癖、少し無理をしたことでできた形に、人間らしさを感じる。そういうものを洋服の中に取り入れてきた。そのデメリットをデザインにしたい。さまざまな可能性がある技術だと思っている」。
縮絨によるゆがみや洗いでつくった縮みなど、従来であれば避けられる技法を“美しさ”に転換し、ブランドの一つの特徴ともしてきた。手仕事を大事にしてきた「ピリングス」が表すエレガンスさともいえる。村上デザイナーが見いだすのは、完璧に整えられた造形ではなく、偶然や作り手の形跡に宿る人間らしさだ。“泣き糸”のにじみは、ブランドの美しさを象徴する新たな表現となった。
「東京でのショーは今回が最後」
ここ数シーズン探求してきた現実と幻想の行き交う世界。今シーズンはその集大成ともなるような内容だった。「今は時代自体が曖昧になってきたので、そろそろ少し違うものを探そうかなと思っている」。
次シーズンの発表については、「ショーという形では、東京でショーをするのはたぶん今回が最後だと思っている」と明かした。「ランウエイは、どうしても表現が先に走ることがある。今は、もう少し服作り自体に集中するタイミングなのかなと思っている」といい、ショーとは異なる発表の形も模索する。