
東京コレクション開幕、トップを飾る「ヨシオクボ」のランウエイ
東京コレクションのコアイベントの「楽天 ファッション ウィーク東京」が8月31日に開幕した。口火を切ったのは09年春夏から東京コレクションに参加し、デザイナー歴20年を超えたベテラン久保嘉男デザイナー率いる「ヨシオクボ(YOSHIOKUBO)」。今季は「ナチュラル・ボーン・ノマド」をコンセプトに掲げ、誰にも縛られず、群れず、自らの意志で自由に走る人物像を描いた。
“自然に走る”ランナーの姿がノマドとリンク
着想のきっかけは、久保デザイナーがロサンゼルスの海岸沿いで目にした光景。ボロボロの車が停まると、ヒッピーのような格好をした若者が降り、ごく自然な流れで走り始めたという。「走りたいから走るという姿が、とてもかっこよく見えた」。特別なウエアに着替えて走るのではなく、日常の延長線上で走り出す。その自由な姿が、今季のコレクションの起点となった。
ランウエイでは、流線型のシルエットや異素材のミックス、薄手の素材を幾層にも重ねたレイヤードが目を引いた。シャツやベスト、アウターなどを重ねながらも、全体は軽やか。必要なものを身にまといながら移動するノマドの姿を、レイヤードによって表現している。久保デザイナーが「今ってシーズンが本当になくなってきている」と話すように、春夏のコレクションながらダウンも登場。季節に合わせて服を決めるのではなく、その日の気候や行動に応じて重ね、調整するという発想がスタイリングにも表れた。民族衣装のニュアンスを持つフリンジや編み込みを思わせるディテールも使用したが、特定の民族や地域には縛られない。「どこにも存在しない民族」をイメージし、どこかの土地に根差しているようでいて、どこにも属さないスタイルへと昇華した。編み込んだドローコードは伝統的な民族衣装を思わせながら、スポーツウエアにも通じる機能的なパーツ。細かなディテールを積み重ねることで、単なる“民族調”ではない独自の表情を作り出した。カーキ、ベージュ、ブラウン、ブラックといったアースカラーも、砂漠など乾いた土地の風景に馴染むようなイメージから選んだ。
生き方と骨を表す“born”
もう一つのキーワードとなったのが“bone(骨)”。1994年公開の映画「ナチュラル・ボーン・キラーズ」を見返し、“born”という響きから身体を支える骨を連想し、今季のコレクションに落とし込んだ。服の随所に骨を思わせるモチーフを潜ませ、ランナーの身体性とも呼応させている。ショーの演出も、コレクションのスポーツ性を印象づけた。終盤に会場が暗転すると、足跡が蛍光色で一斉に姿を現した。明るい場所では見えないものが暗闇で現れる仕掛けによって、ランウエイにサプライズを加えるとともに、蛍光色が持つスポーティーなイメージを強調した。
演出面では、ランウエイの中心に置いたモンゴルの“ゲル”が存在感を放った。久保デザイナーが以前から惹かれてきた、土地ごとの暮らしや服装、移動する人々の姿を視覚化するような存在として、コレクションの世界観を補強した。走ることを起点にしながら、ランニングウエアそのものには向かわない。旅や民族、日常の観察を重ね、季節や場所にも縛られない服へと変換する。「ナチュラル・ボーン・ノマド」が描く“街にいるランナー”を通して、現代のノマドの姿をランウエイに映し出した。
PHOTOS:SEIGO ISHIZAKA