ファッション

20年で100万個を届けても「まだスタートライン」 「マザーハウス」が描く次の10年

「まだスタートラインに立ったばかり」。マザーハウスの山崎大祐副社長は、20年の歩みをそう表現する。山口絵理子デザイナーによるバッグブランド「マザーハウス(MOTHERHOUSE)」は2026年3月、ブランド創設20周年を迎えた。バングラデシュで出合った麻素材ジュートを使ったバッグ作りから始まり、現在はアジア6カ国に生産地を広げ、日本、台湾、シンガポールに計58店を展開する。20年で届けた製品は約100万個。それでも、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念は、まだ本当の意味で届け切れている実感はない。

「マザーハウス」は、山口デザイナーがバングラデシュで出合った麻素材“ジュート”を使ったバッグ作りから始まった。「かわいそうだから」という途上国への同情ではなく、土着の素材や手仕事の純粋な魅力で選ばれるモノ作りと、その背景まで伝えることを目指してきた。

現在は、バングラデシュ、ネパール、インドネシア、ミャンマー(政情により停止)、スリランカ、インドなどアジア6カ国に生産地を広げ、バッグのほか、ジュエリー、アパレル、チョコレートなどにも領域を拡大している。店舗は、日本に50店、台湾に5店、シンガポールに3店を展開する。海外でも代理店や卸を介さず、自社で販売する体制を重視してきた。

「まだスタートライン」

国内の店舗では、百貨店でメゾンブランドと同じフロアに並ぶケースも増えている。一方で、それらのブランドと同じように顧客の選択肢に入れているかといえば、まだ十分ではないと山崎副社長は話す。引き続き出店を続けながら国内市場でブランドとしてのポジションを確立し、その先に米国や欧州でも勝負できるブランドを目指す。

足掛かりとして、25年には米国市場でEC販売を開始した。主軸のバッグに加え、動物をモチーフにしたシリーズなども好調に推移し、想定以上の手応えを得たという。米国に足を運ぶ中で実感したのは、アメリカにとってアジアが依然として遠い存在であるということだった。「製品をただ届けているのではない。製品を通して、こういう国がある、こういう存在があるというつながりを届けていくことが大事」。

国内外50店舗を超えた今も、同社にとってはまだ「スタートライン」と捉えているという。「一進一退で世界に挑戦しているのが正直な現状だ」(山崎副社長)。

「第二の家」に

先進国が売り、途上国が作るというパワーバランスに問題意識を抱いてきた同社にとって、製造拠点との関係値の構築は製品の販売と同様の熱量で進めてきた。創業2年目の08年に立ち上げた同工場は、現在約400人規模まで拡大し、直近では3階部分の増床も行った。29年には新たな工場へ移転する構想があり、1000人が働ける規模を想定する。新工場では、地域に開かれた病院や保育施設の併設も計画中だ。

山崎副社長は「すべての雇用に対して責任を持ってきた」とし、「ハウスのような工場を作りたい。第二の家のような工場を作りたいと思ってやってきた」と語る。「一緒にものを作る」という共通言語で対等な関係を20年継続してきたこと、そして何より経済的な安定性を担保し続けてきたことが、信頼につながっているという。

接点を広げ
原点を更新する

20周年の節目に打ち出したプロダクトの1つが、2月に発売したレザーアイテム“ジップジップ(Zipzip)”(全12色、各1980円)だ。バッグのジッパー部分に取り付けるアイテムで、同ブランドのバッグだけでなく、さまざまなジップに付け替えることができる。既存顧客が手持ちのバッグを新しく楽しめる商品であると同時に、学生など、バッグの購入にはハードルを感じる層にも手に取りやすいエントリーアイテムとして企画した。同社にとって初めて特許申請を行ったプロダクトでもある。

4月には、新素材“ジュテ”を採用したバッグ2型も発売した。ジュートはブランドの原点である一方、天然素材特有の風合いが強く、都市生活や通年使用に合わせるには課題もあった。山口デザイナーは、06年に発売した初期のバッグについて「まさに麻のバッグだった」と振り返る。その“ほっこり感”に愛着を持ちながらも、時代とのマッチングには難しさを感じていたという。

20年間、研究開発を続けてきた中で、これまで取り扱ってこなかった化学素材を組み合わせ、ポリエステル37%、ジュート63%の配合で、軽さや機能性、強度を高めた新素材“ジュテ”を開発した。山口デザイナーは「ジュートは斜陽産業と言われているが、もしかしたらこれによって未来が変わるかもしれないというくらいワクワクしている」と話す。

今後は、20周年記念の取り組みとして、6月に自主制作のドキュメンタリー映画を公開する予定だ。7月には顧客がバングラデシュの工場を訪れるツアーを実施し、9月にはアジア各国の生産地から職人を招いたイベントも計画する。

あくまで“小売”
だからこそ「届ける感覚を増やす」

米国市場への挑戦も、新工場構想も、新素材の開発も、根底にあるのは「製品を通じて届ける」という姿勢。社会的側面に注目を集められがちだが、自分たちのやっていることはあくまで“小売り”だと山崎副社長はいう。「小売は小さく売って“小売”。20年で届けた製品を数えたら、100万個ほどだった。つまり、100万人に届いている。これは僕は小さくないインパクトがあると信じている」。

同時に、10年後について問われると「正直わからない」と山崎副社長は話す。変化の大きい時代に、将来の姿を一つに固定することは難しい。一方で、理念をより多くの人に届けるために、事業の規模を広げる必要性を感じているという。「10年後には必ず大きくしたい。届ける感覚を増やさないといけないと本当に思っている」。

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