
英国ロンドン、キングス・クロスのイノベーションギャラリー&コンセプトストア「ファブリカX(FABRICA X)」で、企画展「パフォーマンス・ウィズアウト・トキシシティ(PERFORMANCE WITHOUT TOXICITY、毒性なきパフォーマンス)」が2026年6月26日まで開催されている。「高機能性」と「人体・環境への健全性」の両立を目指すイノベーターたちが、ここに集結する。運営するのは、香港とロンドンに拠点を持つザ・ミルズ・ファブリカ(THE MILLS FABRICA)。VCファンドとイノベーションギャラリーを統合運営するこのプラットフォームでは、商品軸の従来型ショールームとは異なり、並ぶのは「アイデア」と「革新性」だ。出展者の多くがファブリカ自身の投資先でもあり、展示空間そのものがある種のメディアとして機能している。本展のリード・イノベーション・パートナーは、日本のゴールドウイン(GOLDWIN)。ザ・ミルズ・ファブリカで欧州統括を務めるエイミー・ツァン(AMY TSANG)に話を聞いた。PHOTO:Calum Barlow
ルーツは香港の紡績会社、だから「現場感」がある
WWD:ザ・ミルズ・ファブリカは、香港の南豊集団(NAN FUNG GROUP)の紡績ヘリテージという繊維のDNAを継承しながら、サステナブル・イノベーションのハブへと進化してきた。その継承が、パフォーマンスウェアの未来という問いを掲げる企画展と、どのように結びついているのでしょうか?
エイミー・ツァン ザ・ミルズ・ファブリカで欧州統括(以下、ツァン):つながりは自然なものです。ザ・ミルズ・ファブリカは、イノベーションは産業に対する深い知見と切り離されてはならず、むしろそこに根ざすべきだ、という信念のもとに設立されました。南豊紡織のテキスタイル・ヘリテージは、素材、生産、サプライチェーンの実態を理解する土台となっています。これらは、外から、後から獲得することは難しい価値です。
企画展「パフォーマンス・ウィズアウト・トキシシティ」はその継承を映し出しています。未来志向ではありますが、極めて実務的な問いに根ざしてもいます。私たちが深く知る業界を、いかにして安全で、責任ある、そしてレジリエントな産業に進化させるか、という意味で、です。私たちにとってパフォーマンスウェアの未来とは、私たちが関わるセクターが直面している現実の課題に立ち向かうことを意味しています。
「サステナ」を曖昧にしない。だから「毒性なき」と掲げる
WWD:ザ・ミルズ・ファブリカはサステナビリティをどう定義し、2018年のローンチ以降その定義はどう進化してきましたか?
ツァン:私たちは常に、サステナビリティを包括的かつ実行可能なものとして捉えてきました。設立当初から、カーボンのような単一の指標に焦点を当てるだけでは、ファッションと繊維産業の複雑性に応えるには不十分だと考えています。
時間の経過とともに、定義はより精緻になっています。今日の私たちは、サステナビリティを複数のレンズ、つまり人間の健康、環境への影響、サーキュラリティ、解決策のスケーラビリティなどを通して見ています。私たちが一貫して問うのは、あるイノベーションが現実のシステムの中で機能し、規模ある変化を生み出せるか、という点です。本展はこの進化を反映しています。概念的に強いだけでなく、有害な慣行を実行可能な代替に置き換えるべく、実際に動いているソリューションを集めているからです。
WWD:本展のタイトル「PERFORMANCE WITHOUT TOXICITY(毒性なきパフォーマンス)」は、業界に対してどのようなメッセージを発するものでしょうか。そして、成長を続けるスポーツウェアの世界市場においてPFASなどへの圧力が高まるこの瞬間に企画展を開催した背景は?
ツァン:タイトルは意図的にストレートにしました。長らくパフォーマンスウェアは、耐久性、ストレッチ、吸湿性といった主要機能を実現するために、合成繊維や時に有害な化学物質に依拠してきました。多くの場合、長期的な影響を考慮することなく、です。
PFASをめぐっていま起きているのは、このモデルがもはや受容されないという認識の広がりでしょう。本展はそれに応える形で生まれました。私たちは、機能と責任を同時に重んじる形でパフォーマンスを再定義できるか、と問うています。
そして答えは本展が示しているように、イエスです。テクノロジーと素材はすでに存在します。いま必要なのはマインドセットの転換、これらのイノベーターへの集合的な支援、そして業界がそれらをスケールして採用するというコミットメントだと思います。
なぜゴールドウインだったか。投資先がそのまま出展者になる仕組み
WWD:日本企業であるゴールドウインを、本展のリード・イノベーション・パートナーに選んだ理由を教えてください。また、ゴールドウイン プレイ アース ファンドのポートフォリオ企業の数社、カラリフィックス(ColoriFix)、ディンポラ(Dimpora)、ソーラーコア(Solarcore)、アンバーサイクル(Ambercycle)、リソーテクス(Resortecs)が出展しており、日本のスパイバー(Spiber)、バイオワークス(Bioworks)、シンフラックス(Synflux)はロンドン拠点のブランド「JL-AL」とコラボをしています。「投資家でありながら出展者でもある」という関係は、本展にどのような奥行きをもたらしていますか?
ツァン:ゴールドウインは本展にとって自然なパートナーでした。彼らはパフォーマンスウェアに対する深い理解と、サステナビリティおよび長期的なイノベーションへの強いコミットメントを併せ持っています。両社はこの点で深く一致していて、豊かなテキスタイル・ヘリテージを共有していることも同じです。ザ・ミルズ・ファブリカの親会社である南豊集団は、1954年に南豊紡織として創業し、1960年代には香港最大の綿糸メーカーとなりました。一方、ゴールドウインは1950年にニット生地工場としてスタートし、まもなくスポーツ用品メーカーへと進化しています。
このパートナーシップが特に意義深いのは、ゴールドウイン プレイ アース ファンドを通じた彼らの投資活動と、本展に登場するテクノロジーとの整合性にあります。スタートアップに投資し、場合によってはコラボレーションすることで、ゴールドウインは新たなイノベーションの開発とスケーリングに能動的に貢献しています。これによってより統合された物語が生まれる。来場者は、ソリューションそのものだけでなく、それらを育てるエコシステム、そして産業への実装の形まで見ることができるからです。
WWD:投資ファンドとイノベーションギャラリーを統合運営するという独自のモデルについて教えてください。ポートフォリオ企業の、目には見えずらいテクノロジーをリアル空間で展示することは、スタートアップ自身にどのような価値をもたらしますか?また、来場者は、業界関係者と一般の生活者の両方ですが、両者への影響をどう見ていますか?
ツァン:物理的な空間は、イノベーションを実体のあるものにするうえで重要な役割を果たします。私たちが扱うテクノロジーの多くは、プレゼンテーションやレポートだけでは全容を理解しづらいものです。
展示することによって、人々が素材に直接触れ、それがどう機能するかを目で見て体験できる場が生まれる。スタートアップにとっては、可視性と文脈が得られ、イノベーションと実装の間にあるギャップを埋める助けとなる。来場者にとっては、対話がよりアクセスしやすくなるでしょう。業界関係者であれ一般の消費者であれ、これらのソリューションが何で、なぜ重要なのかをよりよく理解できるはずです。
研究機関が集まる街で「何を作るか」から「どう作るか」へ
WWD:本展には、生産プロセスやシステムそのものをデザインの対象として捉えるシンフラックスのようなイノベーターも参加しています。「何を作るか」だけでなく「どう作るか」を問う姿勢です。さらに、「バレナ(BALENA)」 × 「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)のように、製品のエンド・オブ・ライフの責任までデザインに織り込む取り組みもある。デザインの概念は「何を創るか」から「どう創り、どうループを閉じるか」へと拡張しているように思えます。これは、私たちが従来理解してきたファッションデザインにとって何を意味しますか?
ツァン:美学や機能性に閉じたデザインから、よりシステム的なデザインへとシフトが起きていると言えるでしょう。デザイナーは、素材調達から廃棄までの製品全体のライフサイクルを考慮するようになっているからです。
この変化は、これまでとは異なるデザイン思考を必要とします。また、学際的な協働、そして素材とプロセスへのより深い理解が必要です。「良いデザインとは何か」をめぐる従来の前提を問い直すことでもあります。
WWD:キングス・クロスは、ロンドン中心部で大英図書館、UCL、フランシス・クリック研究所など研究・教育機関が集積する「ナレッジ・クォーター」と呼ばれる地区の中にあります。ファブリカXをここに置いたことで、どのようなコミュニティや来場者との接続が可能になりましたか。また、この拠点からファッション業界との関係をどのように築いてきたのでしょうか?
ツァン:キングス・クロスは独特の文脈を提供しています。ナレッジ・クォーターの一部であることで、ファッション業界だけでなく、研究者、テクノロジスト、機関といったより広いネットワークと関わることができるのです。
これは学際的な対話の機会を生む。サステナビリティのような複雑な課題を扱ううえで不可欠なものだと思う。同時に、立地のアクセスのよさは、学生から業界プロフェッショナルまで多様な来場者を引き寄せる助けとなっています。これまで、ファッション業界とは少しずつ関係構築をしてきました。一貫したプログラム、パートナーシップ、対話を重ねることで、人々を空間に呼び込み、継続的な関与を促してきました。
WWD:日本のファッション関係者には、本展から何を持ち帰ってほしい?
ツァン:日本には、クラフツマンシップ、素材イノベーション、ディテールへのこだわりという長い歴史がある。これらは、業界がいま直面している変化の文脈において、計り知れないほど価値のある資質です。
より責任ある素材とシステムへの移行はすでに始まっているということ、そして「完璧さよりも前進(PROGRESS OVER PERFECTION)」ということの重要性を伝えたい。実装可能なソリューションがすでに開発されており、それらがどのように採用され、スケールしていくかを形づくる一員になれるチャンスがあることを知ってほしい。カギを握るのは協働です。地域や領域を越えて働くことで、進歩を加速させ、革新性と責任が両立するパフォーマンスのモデルへと向かうことができることを伝えたいです。
■パフォーマンス・ウィズアウト・トキシシティ(PERFORMANCE WITHOUT TOXICITY、毒性なきパフォーマンス)
期間:2026年1月26日〜6月26日
会場:ファブリカX(FABRICA X)
住所:英国・ロンドン、キングス・クロス
主催:ザ・ミルズ・ファブリカ(THE MILLS FABRICA)
主な出展者
リード・イノベーション・パートナー:ゴールドウイン
素材イノベーション:Alliance for European Flax-Linen & Hemp、Balena、BIOTEXFUTURE、Bioworks(Goldwin Innovator)、Finisterre、Hyosung、KUORI、Lenzing、MATEREAL、OzoneBio、PLNTmatter、Supercarb、Syntetica、Tera Mira
グリーン・ケミストリー:Amphico、Beyond Surface Technologies、Colorifix(Goldwin Innovator)、Dimpora(Goldwin Innovator)、DryFiber、Homage to Mountain、Remora、SolarCore(Goldwin Innovator)、The Sustainable Angle
耐久性とサーキュラリティー:Ambercycle(Goldwin Innovator)、Biorestore、Norrøna、Resortecs(Goldwin Innovator)、Synflux(Goldwin Innovator)、United Repair Centre
フットウェア:A Blunt Story、Allbirds(Goldwin Partner)、Balena × Stella McCartney、Korvaa Consortium Shoe(Ecovative/Modern Synthesis/OuroBio)、Nanoloom、SOLK、SuperNatural Runner by Circle Sportswear、Vivobarefoot