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バングラデシュ出身のマザーハウス新取締役に聞く 「私たちのために働く日本人女性への感動」で日本企業に転職

PROFILE: 山口絵理子/株式会社マザーハウス 代表取締役チーフデザイナー(写真右)

山口絵理子/株式会社マザーハウス 代表取締役チーフデザイナー(写真右)
PROFILE: (やまぐち・えりこ)1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程に留学。現地での2年間の滞在中、日本大手商社のダッカ事務所にて研修生として勤めながら夜間の大学院に通う。2年後帰国し「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとしてマザーハウスを設立。現在、バングラデシュやネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの6カ国に自社工場を持つ。国内42店舗、台湾4店舗、シンガポール2店舗の計48店舗を運営する PHOTO:TAMEKI OSHIRO

山口絵理子が代表を務めるマザーハウスは、2006年の創業以来、途上国の自社工場で生産したバッグやアパレル製品を販売している。 “途上国から世界に通用するブランドを作る”をミッションとして、ビジネスと社会性を両立する先進的存在だ。

ビジネスと社会性の双方を意識して同社は12月16日、「経営幹部が日本人のみで占められているのは理想的ではない」(山口代表)としてバングラデシュのバッグ工場“マトリゴール”で工場長を務めるムハンマド・アブドゥル・アル・マムン(Mohammad Abdullah Al Mamun)を、外国籍社員として初の取締役に任命した。途上国で現地採用されて工場で勤務してきた人材が、日本企業の経営陣に加わるケースは珍しい。

マムン取締役はバングラデシュに生まれ、ダッカ大学で皮革工学を専攻したのちに、現地最大手のバッグ工場で勤務した経歴をもつ。08年にマザーハウスに入社してからはマトリゴール工場で工場長として、革加工とバッグ製造の指揮を取りつつ、約330人の従業員のケアを続けてきた。アパレルやジュエリーなどをも扱う同社だが、全体の売上の約80%を占める革製品を作るのが、マトリゴールだ。山口代表は「コロナ禍でマザーハウスに最も貢献してくれたのがマムンだった。倒産・休業した現地の工場が多い中、約330人の従業員全員を繋ぎ止めながら、7割の生産能力を維持してくれた」と感謝する。

「技術者と経営者の両面を併せ持つ珍しい人」と山口代表が評するマムン取締役とはどのような人物なのか。東京都台東区のオフィスで、来日中のマムン取締役にこれまでの歩みやリーダーとしての哲学を聞いた。

“ボス”ではなく“友人”を目指すマネジメント理念

PROFILE: ムハンマド・アブドゥル・アル・マムン/株式会社マザーハウス 取締役兼マトリゴール工場 工場長

ムハンマド・アブドゥル・アル・マムン/株式会社マザーハウス 取締役兼マトリゴール工場 工場長
PROFILE: 1981年生まれ、ダッカ出身。1998年よりダッカ大学で皮革工学を専攻。2004年、バングラデシュ国内最大手のバッグ工場に就職。2008年にマザーハウスへ入社し、2017年より自社工場“マトリゴール”の工場長を務めている PHOTO:TAMEKI OSHIRO

WWDJAPAN(以下、WWD):山口代表との出会いについて聞かせてほしい。

マムン取締役:08年当時、一人の日本人女性がバングラデシュで革製品を作ろうとしていることを、新聞を読んで知りました。「なぜ彼女はそんなことを志しているんだろう?」というちょっとした好奇心から、絵理子さんに会うためにマザーハウスの面接を受けたんです。

絵理子さんはバングラデシュから何かを産み出そうと考えている人でした。「日本人の彼女がバングラデシュのために動いているのに、バングラデシュ人の僕が何もしないわけにはいかない」と感動したんです。当時僕は国内最大のレザーバッグ工場で働いていたし、マザーハウスはとても小規模な企業だったけど、会社のフィロソフィーに共感したうえに、ファッション産業に関わりながら国のために技術者として働きたかったから、大企業という“コンフォートゾーン”を抜け出すことに決めたんです。

WWD:働き始めた当初、困難だったことはあるか。

マムン取締役:絵理子さんや日本人を知ることでした。前の工場で働いていたころ、周りのバングラデシュ人が「日本製品は複雑だし、検査も厳しい」「日本人は批判的」と口々に話すのを聞いていました。一つのバッグを作るにしても、使い心地やフィッティングなどの多くの要素を考えなくてはならないからです。ただ、実際に作ってみると、製品自体はそんなに複雑ではなかったし、そもそも日本は細部に価値を見出す文化を持っているだけで、日本人が批判的なわけではないと分かったんです。

また、絵理子さんも「成功するまでやってくれていいですよ」とフレキシブルな働き方を許してくれたので、失敗を恐れずに新規レザーの開発なども進められました。アメリカもヨーロッパも日本も、どの国も独自の文化を持っている。そこに適応するには、自分たちの考え方を変えればいいと思うようになったんです。

WWD:工場長を務めるにあたって大切なことは?

マムン取締役:工場ではたくさんの人が働いています。役職もスキルも様々なので、みんなで協力しなければ製品は生まれない。だから、従業員にチームワークの大切さを知ってもらうことを意識しています。マザーハウスはバングラデシュのために事業をしていて、ただの製造企業ではない。僕たちは社名が意味するように“第2の家”の一員、つまりファミリーなんです。僕が相互理解を大切にしているからこそ、現在まで8割の従業員が辞めずに工場で働き続けてくれているんだと思っています。

また、従業員に決定権を与えて責任感を持ってもらうことも重要です。絵理子さんが僕にしてくれたみたいに、工場の人たちにはフレキシブルに働いてほしい。僕は「ボスになりたい」なんて思ったことはなく、ただ従業員の信頼に足る友人でいたいんです。何かあったら僕が責任を取るから、安心してなんでも共有してほしいし、自信を持ってほしい。ボスが上から指示してばかりではいい結果は生まれないので、自分の頭で考えて行動してくれたらと思っています。いつ僕が病気にかかって何日も休むことになるか分からないじゃないですか? その甲斐あってか、日本滞在中の現在、一度も工場から電話はかかってきていません。

WWD:山口代表から、コロナ禍のマムン取締役の活躍を聞いた。

マムン取締役:工場が4カ月間も完全にシャットダウンしてしまったので苦労しました。費用面の課題は多くありましたが、従業員全員が安心・安全でいられることが最優先と考えて給料を払い続けていました。当時は銀行も閉まっていたので、なんとか2時間だけ開けてもらい、その隙に振り込みをして。給与面に不安が生じると、人が他の企業に流出するリスクが高まってしまいますからね。

シャットダウン明けには、従業員を3分の1ずつ出社させて、シフト交代制を取りました。ミシンの配置を変えて彼らが距離をとって働けるようにしたり、水道管を準備して5人ずつ一斉に手を洗えるようにしたりして、感染が拡大しないように注意を払いました。新規素材開発の際は、ガラス越しに互いに色の確認をしたこともありましたね。

WWD:今の課題は?

マムン取締役:バングラデシュの教育水準は高くありません。だからこそ、会社の理念を従業員たちに理解してもらうように教育し続けることが課題です。バングラデシュでは、「人に仕事を教えてしまったら自分の仕事をとられてしまう」と考える人が多い。僕は「従業員が仕事を覚えてくれれば、自分は次のレベルを目指すことができる」と思うタイプなので、従業員にも「同僚と競わず自分自身と闘いなさい」と伝えています。技術と同時にモラルの向上を目指すためにも、スポンジのように新しいことを吸収しやすい新人を常に雇い入れるようにしています。

実は僕が日本のメディアに登場するのは初めてなんです。バングラデシュから出てきた自分の名前が載ることで、一つの事例として人々に知ってもらえるのではないでしょうか。ロールモデルを目指すのではなく、人を後ろから支えていきたいという思いがあったから、ここまで来れたんだと感じています。

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