フォーカス

川上未映子のエッセー集など 2019年8~9月出版のファッション関連書籍

 2019年8~9月に出版されたファッション関連書籍の新刊情報を紹介する。8~9月出版のファッション関連書籍の中から、島精機製作所の創業者の足跡を迫ったビジネス書や小説家の川上未映子によるファッションエッセー集、「リクルートスーツ」を取り巻く社会現象を分析した書籍など7冊を紹介する。それぞれの書籍ごとに関連性の高いニュースやコラム情報を添えてあるので、紹介した書籍とあわせて読んでいただきたい。

「つながる力 世紀の発明家・島正博の源流と哲学」
(合田周平、PHP研究所)

 無縫製ニット機“ホールガーメント(WHOLEGARMENT)”を生み出し、国内外のさまざまなアパレルメーカーから高く評価されているニット機メーカー島精機製作所(以下、島精機)。本書では、その創業者である島正博・島精機会長の生い立ちから現在までをドラマチックに描き出し、発明家/実業家としての生涯をつぶさにたどる。筆者は島精機の根底に島会長の「発明哲学」が流れているという。島精機の経営理念でもある“愛・創造・氣”“Ever Onward―限りなき前進”など、島会長の思想を読み解くことで島精機の成功要因が見えてくるのかも知れない。もの作りのトップランナーから学べることは少なくないはず。

「Third Way 第3の道のつくり方」
(山口絵理子、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 社会性とビジネス、大量生産と手仕事、個人と組織、グローバルとローカル……。“途上国から世界に通用するブランドをつくる”をコンセプトに掲げるマザーハウス(MOTHERHOUSE)が目指すのは、相反する2つの概念を高い次元で統合する第3の道=サードウェイだと山口絵理子・社長兼チーフデザイナーは語る。デザイナーと経営者の二足のわらじを履く自身の経験に基づいた、マザーハウスのサードウェイ的な実践を紹介。本書を読むと、アパレル・ファッション企業が直面する一見矛盾しているように思える課題は、決して一方を犠牲にせずとも解決することができるのではないかと思えてくる。

「学びなおす力 新時代を勝ち抜く『理論とアート』」
(石川康晴、PHP研究所)

 会社経営のかたわら京都大学大学院でMBAを取得した石川康晴ストライプインターナショナル社長が「学びなおし」をキーワードに学び続けることの重要性を説く。これからの時代のビジネスを成功させるためには、経営学などの理論的枠組みと同等に発想力を高めるアートの教養が役立つという。ビジネスの場面で応用できる考え方やヒントを丁寧に解説。学ぶことの価値やアートの意義がわからないと悩む人にとっては、目からうろこの内容かもしれない。章末のチェックリストは読み直す際に有用。業界を問わず、ビジネスの世界で活躍するために必要な素養が見えてくるのでは。

「片山正通教授の『仕事』の『ルール』のつくり方(instigator 4)」
(片山正通、マガジンハウス)

 武蔵野美術大学教授でインテリアデザイナーの片山正通ワンダーウォール代表が同大学で開催している特別講義の講義録第4弾。編集者の都築響一、ウルフルズのトータス松本、猪子寿之チームラボ(TEAMLAB)代表、映画監督の是枝裕和、写真家のホンマタカシ――5人のインスティゲーター(instigator=扇動者)の言葉は、既成の概念にとらわれない自由に生きる術を教えてくれる。自分なりのルールのあり方について考えさせられる本書、ジャンル問わず創作の現場に身を置く彼らからファッションの世界にも応用しうる考え方が掴めるのではないだろうか。

「弱いから、好き。」
(長沢節、草思社文庫)

 セツ・モードセミナーの創業者であり日本のファッション・イラストレーターの第一人者、長沢節氏のエッセー集を約30年ぶりに文庫化。署名にも使われているエッセー「弱いから、好き」のほか32編を収録する。「マイナスとマイナスがふと引き合う時にこそ美しく、真の優しさが生まれるのではないだろうか」(P.64)。長沢氏が語る人間像には現在にも通用する普遍性がある。長沢氏が描いたイラストを随所に使用。儚さをはらんだ線で描かれたドローイングに、長沢氏が本書内で書き記した「弱さ」への哲学が感じられる。

「おめかしの引力」
(川上未映子、朝日文庫)

 「おめかしの喜びとは、トライ&エラーの果てにやってくる、『つかのまの完璧なフィット感』なのかもしれません。ときどきすごく疲れるし、憂うつになるし、失敗も多くてイヤになるけど、でもそんな瞬間があるから、やめられない」(P.169)。軽やかな語りの中にふと真理のようなものが顔を出す、小説家・川上未映子によるファッションエッセー集。同名書籍の文庫版で、新規エッセーやインタビューが加わっている。時折吹き出してしまうような「おめかし」にまつわる魅力溢れた文章が満載。「ファッションの価値ほど人によるものはないですよ。それは物ひとつひとつにストーリーが密着しているから」(P.310)。ついつい自分のクローゼットを開いてみたくなる一冊。

「リクルートスーツの社会史」
(田中里尚、青土社)

 季節の風物詩ともなったリクルートスーツ。その存在に対して違和感を覚えながらも、なぜなおも存在し続けるのかを誰もよく知らない。本書では、このリクルートスーツという不思議な“現象”を、時代、文化、価値観の変遷と照らし合わせながら読み解いていく。読めば、多くの人が袖を通したであろうリクルートスーツの意義が見えてくるはず。豊富な資料研究に基づいた精緻な分析からは、その背景にある制度や言説の構造が浮かび上がってくる。リクルートスーツほど、社会的な制度や規範との関係が強く表れている衣服はないのかもしれない。

秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。