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ドレスコードを書き換えてはいけない? 「ドレス・コード?―着る人たちのゲーム」

 京都国立近代美術館と京都服飾文化研究財団(KCI)は8月9日~10月14日まで、日常的に行う「服を着る」「装う」という行為に焦点を当てた展覧会「ドレス・コード?―着る人たちのゲーム」を開催しています。

 同展では18世紀の宮廷服から最新のコレクションアイテムまでKCIが所蔵する約90点の衣装を中心に、映画のポスターやアート作品など約300点を展示。デザイナーの創造性やファッションの歴史を強調した内容ではなく、あくまで日常的に服を着る主体に目を向けた構成になっていることが特徴です。「#モードって何?」特集の取材で京都に行く機会があり、せっかくだからと足を運びました。

ドレスコードは
守らなくてはならない?

 会場では13のドレスコードが提示され、それぞれのテーマにまつわる衣装や展示が並びます。ほとんどのテーマが「組織のルールを守らなければならない?」などのように断定形の文章に「?」が添えられた疑問文になっていて、鑑賞者への問いかけになっています。ルールの存在を自明のこととしてそれを強制させようとする断定形の言葉づかいに、ドレスコードが持つ強い影響力が表現されていると感じました。

 「装う」ということは極めて私的な行為である一方で、他者のまなざしに否応なく晒される社会的な行為でもあります。共有されるドレスコードは社会や時代、文化などによって異なり、誰しもがこのまなざしを向ける/向けられる関係、ドレスコードの内/外をめぐる装いのゲームに参加することになります。

 ゲームと言われると、与えられたルールの中でだけ振舞うことが許されるものと考えてしまいがちですが、このドレスコードをめぐる“ゲーム”はルールが一方的に与えられる不自由なものではないはずです。

 記憶に新しい「#KuToo」運動(SNSを中心に広がった業務中のヒール靴・パンプス着用強制に抗議するムーブメント。約1万8000人による賛同の署名を集めた要望書が厚生労働省に提出された)は、まさにドレスコード=ルールに対する異議申し立ての象徴的な出来事でした。時としてドレスコードは“社会通念”となって過度の従属を強要することもあるが、常にそれに従う必要はない――このことを「#KuToo」運動から感じ取りました。問いを立て発信し議論の俎上に載せるという点で、同展にも「#KuToo」運動と同様の問題意識があるように思われます。

誰もルールを書き換えられない?

 「ゲームには必ずルールがある。スポーツであればルールを順守することが望まれるが、ルール違反ギリギリの行為や、ルールを逆手に取ったプレーがある。(中略)これらのルールは変更されることがある。ファッションであろうと、ゲームであろうと、その枠内で設定されるルール(=コード)は、厳密にみえて実は変動性のあるものなのだ」(「ドレス・コード?― 着る人たちのゲーム カタログ」より「ドレス・コードをめぐって 明日着る服を考えるために」、石関亮、p.21)。

 展示全体(特にコーナーの一つである「誰もがファッショナブルである?」)を見て、ルール=ドレスコードの設定において、絶対的な主導権を持った存在はいないということを再確認しました。確かに、これまで守られてきた慣習や常識、あるいはパリを中心とする流行生成のシステムはいまなお大きな影響力を持っていますが、あくまで装う人の手にこのルールを如何とする権利は委ねられているはずです。同展に並ぶドレスコードをはみ出した事例・実践がこのドレスコードを更新してきたという事実に、それを見ることができます。

 服を着る主体はゲームのプレーヤーであると同時に、ゲームのルールメーカーでもあるということを意識しておきたい。ドレスコードは恒久不変のものではなく、プレーヤー自身によって常に解釈され、組み替えられ続けるものであるはずです。着る主体である自分にもそのルール=ドレスコードを書き換える権利があるということをあらためて感じられた展覧会でした。

 ただし、装いには必然的に他者の存在、他者のまなざしがついてまわるということは忘れないようにしたいと思います。他者への敬意を欠いた装いや、他者の権利を阻害するような装いは、ルール以前の前提としてわきまえておきたいものです。

改めて考えるきっかけとして

 同展のカタログは、日本のファッション論の草分け的存在である鷲田清一・大阪大学・京都市立芸術大学名誉教授の代表的著書「モードの迷宮」(ちくま学芸文庫、[1989]1996)から「明るいニヒリズム?」を収録。ほかにも3月に行われた同展のプレ・セミナーにおける千葉雅也・立命館大学准教授と蘆田裕史・京都精華大学准教授による対談をはじめ、牧口千夏・京都国立近代美術館主任研究員や石関亮KCIキュレーター、小形道正KCIアシスタントキュレーター、宮脇千絵・南山大学准教授らによる論考など、展示を補完してさらに思考を広げてくれる内容が多く掲載されているので、併せて読むことをおすすめします。

 同展は2019年12月8日~2020年2月23日に熊本市現代美術館でも巡回展を開催。日々逃れられない「服を着る」ということをあらためて考えるきっかけとして、足を運んでみてはいかがでしょうか。

■「ドレス・コード?―着る人たちのゲーム」京都展
日程:8月9日~10月14日
時間:9:30~17:00(毎週金曜日、土曜日は21:00まで開館 入館はいずれも閉館の30分前まで)
場所:京都国立近代美術館
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
休館日:毎週月曜日(ただし8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館、翌火曜日休館)
入場料:一般1300円 / 大学生900円 / 高校生500円 / 中学生以下無料

■「ドレス・コード?―着る人たちのゲーム」熊本展
日程:12月8日~2020年2月23日
時間:10:00~20:00
場所:熊本市現代美術館
住所:熊本県熊本市中央区上通町2-3
休館日: 毎週火曜日(ただし2月11日は開館、12月29日~1月3日、2月12日は休館)
入場料:一般1100円 / シニア900円 / 学生600円 / 中学生以下無料

秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。