
日本の化粧品産業は、長く成功モデルを築いてきた。一方で、その前提が静かに揺らぎ始めている。世界市場の競争軸が変わる中で、これまで強みとされてきた価値は、必ずしもそのまま競争力として機能しなくなりつつある。問われているのは、製品やブランドの是非ではなく、産業としての設計思想そのものだ。ここでは、多数のメーカーの顧問として携わり、化粧品産業の変遷を長年見てきた竹岡篤史氏の視点から、現在の課題と次に求められる視座を整理する。(この記事は「WWDJAPAN」2025年12月22日&29日合併号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
品質は高いのに、世界で勝てない理由

竹岡篤史/化粧品成分開発者・研究者
品質と研究で築いた信頼の高さ
日本の化粧品産業は、品質管理を基盤に、処方技術や皮膚科学研究を長年にわたり積み重ねてきた。安全性への高い感度や、過去のトラブル(白斑問題など)を教訓として築かれてきた厳格な基準は、世界から一定の信頼を得ており、日本独自の文化的資産ともいえる。また、研究成果や技術情報を一般消費者でもアクセスできる形で比較的オープンに社会へ還元してきたことも国際的には“特異”な特徴だ。
一方で、その優位性がかつてのように際立っているかといえば、状況は変化している。国際的な技術発表の場であるIFSCCでは、中国や韓国の発表件数や存在感が近年急速に高まり、基礎研究や成分評価分野への投資も拡大している。日本の強みが失われたわけではないが、「日本だけが突出している」という前提で優位を保てる段階ではなくなりつつあるのが実情だ。
内需依存が生んだ「内向き設計」と
競争環境の変化
日本は内需が大きく、国内だけでも事業が成立しやすい市場構造を持つ。その結果、製品やブランド、組織体制が「国内で勝つ」ことを前提に組まれやすく、グローバル市場で勝つための設計や発信は後回しにされてきた。問題は海外展開の有無ではなく、最初から世界を見据えた設計思想が十分に組み込まれていなかったことにある。限られた国内市場での競争が続いたことで、産業構造は外に開かれにくく、日本の化粧品市場はいまだに鎖国的な側面を残していると考える。
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