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400年の時を越えてよみがえった「伊東マンショ」にイタリア館で会う【ライター橋長の万博回顧(1)】

184日の会期中に2900万人以上が訪れ、終盤は熱狂の渦に包まれた大阪・関西万博の閉幕から1カ月半。なぜ、多くの人が万博に魅力に惹かれたのか。異国の文化と最新の産業技術に触れられ、非日常を体験できる醍醐味だけでなく、会場内での出会いや感動、サプライズが多くの来場者の心をとりこにしたのだと思う。万博ボランティアとしても参加し、会場には取材とプライベートも含めて計29回足を運んだ関西在住ライターの筆者の印象に残った万博ならではの取り組みを紹介していきたい。

万博だから実現したパビリオン間コラボ

まず取り上げたいのは、出展国や団体が互いに交流を図り、深める目的で行われたパビリオン間のコラボレーションだ。筆者はアンドロイドロボットの研究で第一人者である大阪大学の石黒浩教授がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」と、イタリア館やヨルダン館とコラボした取り組みを取材した。万博会場だからこそ実現したコラボからは、両者のこれまでの関係性がより強くなり、未来に広がりを見せることが想像できた。

万博で屈指の人気を誇ったイタリア館は、本物の美術品を見学できるパビリオンとして話題を集めた。古代ローマ時代の大理石彫刻「ファルネーゼのアトラス」やベルジーノの「正義の旗」、レオナルド・ダ・ヴィンチの「アトランティコ手稿」、カラヴァッジョの「キリストの埋葬」、ミケランジェロの「復活のキリスト」といったイタリアの至宝が集結し、間近で鑑賞できるという豪華な展示だった。そのイタリア館がプロモートするイタリアウィーク(9月7日~14日)に、期間限定で展示されたのが、「いのちの未来」とのコラボ展示「時空を超えた国際交流~伊東マンショロボット」だ。

伊東マンショは、戦国時代に天正遣欧少年使節の一員として、わずか13歳でヨーロッパに派遣されたキリシタンで、ローマ教皇に謁見した。ルネッサンスの画家ドメニコ・ティントレットによって描かれた肖像画は有名だ。

今回のコラボでは、「いのちの未来」で開発された伊東マンショのアンドロイドが肖像画から再現された衣装をまとって登場した。当時の壮大な旅路を語りながら、挑戦する勇気と国際交流の大切さを来館者に伝えていた。もともとロボティクス分野においてイタリアとの交流が深い石黒教授が、万博のイタリア総代表でイタリア館館長のマリオ・ヴァッターニ氏と対面したときに提案されて実現したという。

このコラボで伝えたいメッセージについて、石黒教授は「万博では国と国がつながって新しいことにチャレンジできることや、お互いの歴史を認め合い、より友好を深めていくことの大切さを来館者にも感じてもらいたかった。今回の万博は、テクノロジーをどう受け入れて未来を作っていくのかを、来館者自身に考えてもらうことが大事だった」と話す。

マリオ館長も「イタリア館は『芸術は生命を再生させる』をテーマにしている。イタリアに初めて渡った日本人の若者を描いたルネッサンスの肖像画からマンショのロボットは生まれた。時空を超えて両国の橋渡し役になっている」と語った。

伊東マンショの衣装を製作したのは、大阪の衣装デザイナー、マツサキ・ケイ氏だ。イタリアのマントヴァの職人協会が、ティントレットの肖像画に忠実に復元したものをもとに約1カ月かけてロボット用に製作した。オリジナルは厚いベルベット素材で作られているが、ロボットの場合は排熱や配線などの問題があるため、通気性に優れた薄い素材やメッシュ素材で熱を逃すように作ったという。

「この企画は、500年も前に作られたものを未来のロボットに着せるというもの。その存在自体がタイムマシンのようなニュアンスを持ち、歴史的なものが未来へとつながっていくことが重要になっている。ロボットに歴史という要素が加わった瞬間に、歴史は過去のものではなく生きているものではないかと感じた」とマツサキ氏。復元された衣装は、当時流行っていたスペインのスタイルで、イタリアでもスペインの影響力が強かったことがわかる貴重な資料といえる。

スターウォーズのワンシーンのようなサプライズ競演

石黒教授は、ヨルダンの大学機関とも交流を持ち、万博ではヨルダン館とのコラボレーションも実現した。

ヨルダン館では、ヨルダン南部にあるワディラム砂漠の赤砂を敷き詰めて砂漠を再現した。裸足で直に体感できる砂漠体験が大好評だった。実際に赤砂の砂漠の上を歩くと、サラサラとして砂がくっつかずひんやり気持ちいい。ワディラム砂漠は、世界遺産にも登録され、「スターウォーズ」などの映画のロケ地としても有名だ。中東の砂漠をそのまま持ち込んだ贅沢な演出と、没入感のある360度の映像空間は、万博を訪れた人たちの満足度調査でも1位に輝いた。

この砂漠に登場したのが、いのちの未来パビリオンで50年後の案内ロボットとして活躍した「ペトラ」だ。ペトラという名称は、ヨルダンの世界遺産で映画「インディージョーンズ」のロケ地でもある「ペトラ遺跡」と共通することからコラボイベントが実現した。砂漠の会場にペトラが現れたときは、まるでスターウォーズのワンシーンを観ているかのようで、サプライズの競演に興奮した。一回限りのイベントだったが、来場者の記憶に深く刻まれたのではと思う。

パビリオン間の協働体験は、万博期間中にとどまらず、万博後のプロジェクトにもつながっていくだろう。ペトラロボットがヨルダンの砂漠で観光客を案内する未来はそう遠くないかもしれない。

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