フランスの老舗ラゲージブランド「デルセー(DELSEY PARIS)」が成長軌道に乗っている。コロナ後は2ケタ成長が続き、2024年度の売上高は約400億円に達した。旅行需要の高まりとともに、主力であるスーツケース(中心価格4万円台から6万円台)でヒットが続出した。日本でも23年に東京・原宿に出したコンセプトストア「デルセーラボ」を拠点に、認知拡大に本腰を入れる。来日したジル・バーバリアンCEOが「ラゲージビジネスと旅」についてざっくばらんに語ってくれた。
WWD:「デルセー」はどんなブランドか。
ジル・バーバリアンCEO(以下バーバリアン):1946年にパリで創業したラゲージブランドだ。モノ作りの伝統を大切にながら、時代に合わせて革新を重ねて今日まで支持されてきた。スーツケースを中心としたラゲージの領域で、売り上げ規模は世界3位。私はさまざまなグローバル企業でキャリアを重ねて6月から経営を担うことになった。そんな私から見てもポテンシャルに満ちている。
WWD:どこにポテンシャルを感じるのか。
バーバリアン:すでに100カ国以上に販売網を持っている。地域別の売り上げの内訳は、北米45%、欧州31%、中東・アフリカ・南米13%、アジア11%。日本を含めたアジアではまだ認知度は低いが、それだけ伸び代がある。今回の私の来日も日本や韓国、中国の市場調査とマーケティングの一環だ。
スーツケースは機能性を打ち出したブランドが多い。デルセーは他社に先駆けて開閉式の車輪をつけたトロリーシステムや、安全性の高いセキュリテックジップを発明したり、数多くの特許を所有したりするなど、技術開発力ではどこにも負けない。グローバルな保証制度も整備されており、海外で買ったスーツケースを日本で修理できるし、もちろんその逆もできるから安心だ。
「デルセー」は機能性だけでは終わらない。エモーショナルなデザインもフランスブランドらしい持ち味だ。持つ人がファッションとして、あるいはスタイルとしてラゲージを選ぶことができる。先日、私がパリの街でバックパックを背負っていたら、「それ、カッコいいね」と声を掛けられた。気分が上がるデザインで、所有することに誇りが持てる。
旅のスタイルは細分化している
WWD:開発やデザインはどのような体制で行っているのか。
バーバリアン:パリ郊外の丘の上にデザインスタジオがある。街を一望できる素晴らしいロケーションだ。そこでは最低15年以上の経験を持つデザイナー6人が切磋琢磨しながら新しいデザインと機能を開発している。伝統と革新、エレガンスと現代性、デザインと実用性を大胆に融合させたラゲージで世界中の旅好きの期待に応える。
WWD:バーバリアンさんも自社製品をよく使うのか。
バーバリアン:もちろんだ。私は出張が多いため「デルセー」のヘビーユーザーでもある。良いスーツケースを使うと、気が引き締まるから不思議だ。パッキングも乱雑ではなく、きれいに整理整頓するようになった(笑)。旅支度が楽しくなる。軽くて持ち運びが楽。仕切りやマチ幅を調整できるモデルもあり、隅々まで考えられていると自社製品ながら感心する。
来年の創業80周年に向けて2つの画期的なスーツケースを出す。1つはポリカーボネートの素材にアルミの繊維を混ぜ合わせたスーツケースで、軽さと頑丈さに旅慣れた人ほど驚くと思う。もう1つはわれわれが手薄だったアルミ製のスーツケースで、高級感を打ち出してく。「デルセー」の集大成のようなモデルなので楽しみしていてほしい。
WWD:コロナ禍を経験して旅行市場は変わったか。
バーバリアン:コロナが終息した22年ごろから急速に市場が拡大した。いわゆるリベンジ消費だ。この間、われわれのような旅行や移動にまつわるビジネスはかなり変化した。
第一に需要拡大に伴って新規参入が増えた。新しいコンセプトのラゲージブランドが店頭や通販サイトに並び、消費者の選択肢が増えた。第二に航空需要が顕著になっており、航空旅客市場は今後5年で7500億円拡大するという試算がある。新しい航空路線の就航も活発で、世界中の都市間の行き来が活発になった。第三として、これが最も大事なのだが、消費者の旅へのモーメントが変わった。具体的には旅の種類が細分化されつつある。ショートトリップから滞在型のロングトリップ、ドライブの旅、鉄道の旅、自転車の旅、あるいはアウトドアフィールドでのキャンプに至るまで、世界中で旅のスタイルが細分化されてきた。それに応じてラゲージを使い分ける人が多くなった。
旅に限らず、ちょっとした移動だって変化している。例えばパリでは電動自転車を利用する人が増えている。駐輪したら、(盗難防止のため)バッテリーを外して自分のバックパックに収納する必要がある。自転車に乗るときは快適に背負えて、降りたらバッテリーを手際よく収納できる。ここに着目したバッグパックの需要は高い。
今後5年で売り上げ2倍を目指す
WWD:ラゲージは社会の変化を反映するわけだ。
バーバリアン:ラゲージは人の移動によって需要が生まれるアイテムだ。かつてラゲージメーカーの成長は旅行者の増減次第だった。ただ最近の先進国の事情は少し違う。物価高に大きく左右され、消費者の財布のひもは固く、買い替えはなかなか進まない。だからこそ、イノベーションが重要なのだ。このスーツケースを使えば、旅の体験価値がアップする。「デルセー」は機能と情緒の両輪でそれを追求する。
成熟市場の欧米とは異なり、いわゆるグローバルサウスでは中間層の増加によって旅行の需要自体が右肩上がりだ。この市場の成長を取り込むことで、売上高を5年後には2倍に伸ばしたい。私はそのためにデルセーに呼ばれた。
WWD:注力するエリアはどこか。
バーバリアン:米国はラゲージの市場規模が大きく、当社にとっても最大の稼ぎ頭である。フランスの企業なので、お膝元の欧州は絶対に譲れないマーケットだ。中東はファッション感度の高い消費者が急増しており、伸び代が大きい。
日本はアジアの重要国と位置付けている。100カ国以上に販売網を持つデルセーだが、現地法人(デルセージャパンを2022年設立、Delsey Asia Limitedが100%出資)がしっかりコントロールする国は多くはない。日本はフランス発のブランドに共感してくれる消費者が多いけれど、当社はまだ知られてない。日本の消費者がラゲージに何を求めているか研究し、最適な商品とマーケティングで認知度を高めることから始める。