「エルメス(HERMES)」のヴェロニク・ニシャニアン(Veronique Nichanian)=メンズ担当アーティスティック・ディレクターが退任する。仏紙ル・フィガロのインタビューで自ら退任を発表し、2026年1月に披露する2026-27年秋冬メンズ・コレクションが最後になることを明らかにした。
1988年にエルメスに入社し37年にわたり同ブランドのメンズウエアのデザインを手掛けてきた彼女はこの数年、アクセル・デュマ(Axel Dumas)最高経営責任者(CEO)とピエール=アレクシス・デュマ(Pierre-Alexis Dumas)=アーティスティック・ディレクターと職務の継承について話し合ってきたという。そして、「エルメスは、私が適切だと感じるタイミングで退くことを快く認めてくれました。今こそバトンを渡すのにふさわしい時期だと感じています」と話す。同紙は数日中に後任が発表される見通しと報じたが、エルメス側は現在のところ、詳細を提供していない。
ニシャニアン・メンズ担当アーティスティック・ディレクターは、フランス・パリ生まれ。パリのオートクチュール専門学校を首席で卒業後、76年から「チェルッティ(CERRUTI)」でデザイナーを務めた。88年に「エルメス」に加わって以降、流行に左右されない独自のスタイルをアップデートしながら、軽やかさを追求したスタイルで安定感のあるコレクションを生み出し続け、メゾンのメンズビジネスの拡大に大きく貢献してきた。同社全体の2024年の年間売上高は、152億ユーロ(約2兆6700億円)に上る。
「このブランドは年月を経て大きく成長しましたが、その本質は変わっていません。今でも私を信頼してくれた家族のような感覚を抱いています。もちろん、今でははるかに大きな家族になりましたけどね」と彼女はコメント。「私は常にここにいることが幸せでした。私たちは同じ価値観を共有しています。特に職人技への深い敬意は、未来に向けた価値だと確信しています」と付け加えた。
平均7、8年でメゾンを去るデザイナー人事が当たり前となっている時代の中、ニシャニアンは長きに渡り1つのブランドでトップを担い続けてきた。37年という経歴の長さは、異例中の異例だ。彼女の後に続くのは、今年でトップ就任20年を迎えた「マックスマーラ(MAX MARA)」のイアン・グリフィス(Ian Griffiths)=クリエイティブ・ディレクター。創業家出身のデザイナーを除くと、同じブランドで10年以上クリエイティブ部門のトップを務めるデザイナーはほんの一握りで、就任して5年以内に退任するデザイナーも珍しくない。