ファッション
連載 エディターズレター:THE HUMAN 第9回

懐かしの「プロフィール帳」からネクスト・ラグジュアリーを考える

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懐かしの「プロフィール帳」からネクスト・ラグジュアリーを考える

先日、「ロフト」の方にお話を伺ったところ、文房具カテゴリーが再び盛り上がっているそうです。一度はデジタルデバイスの普及で売り上げが落ち込みましたが、近年は持ち直しているといいます。

それを聞いて、中学時代に文具オタクだった僕は少し嬉しくなりました。ドイツの製図筆記具の「ロットリング(ROTRING)」やぺんてるの“グラフ1000フォープロ”、万年筆型の“ケリー”、隠れた名品“スマッシュ”といったシャープペンを試し比べ、芯の硬度との相性まで吟味するなど、教室の隅で夢中になっていたのです。

けれど今や、アップルペンシル一つでペンにも万年筆にも消しゴムにもなり、直線も自在に引ける。近い将来は触覚まで再現され、紙とペンの書き味に限りなく近づいていくでしょう。だからこそ、“書く・記録する”といった機能としての文具はデジタルに置き換えられ、ますます厳しい時代を迎えているのかもしれません。

しかしロフトの担当者曰く、今注目されているのは道具としての性能ではなく“体験”です。「大切な人に送る手紙や便箋」「特別な日記帳」が再評価されているというのです。つまり、ただの記録ではなく“相手に届けるメッセージの器”としての文具に光が当たっている。コロナ禍を経て人と人のつながりの大切さを再認識した今、それを媒介し、心に彩りを添える存在になっているのです。

思えば中学時代、僕がシャープペンの書き味比較にふけっていた脇で、女子たちは「プロフィール帳」の交換に夢中でした。名前や生年月日、趣味や好きな食べ物、気になる人まで書き込む、赤裸々な“わたし”の集合体。これを交換することが、親友の証でもあったように思います。今となっては個人情報的にとんでもないモノですが、デバイスに入れた情報のすべてが漏洩リスクにさらされる時代にあって、生成AIにも漁られないタンスの奥のプロフィール帳こそ、もっともプライベートでエクスクルーシブな記録媒体なのかもしれません。実際、スマホを使いこなす今の小中学生の間でも「プロフィール帳」は再ブームとなりつつあるそうです。

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