PROFILE: クリスティーナ・タルディート/「クリスティーナ ティ」デザイナー

フェミニンで知的、そして芯の強い女性のための服作りで知られる、イタリア発のファッションブランド「クリスティーナ ティ(KRISTINA TI)」は、2024年春夏シーズンに約7年ぶりに再上陸。あらためて日本でのファンを広げている。今回、来日したデザイナーのクリスティーナ・タルディート(Cristina Tardito)に、ブランドの哲学や経営において大切にしている価値観、理想とする女性像、日本市場について話を聞いた。
WWD:「クリスティーナ ティ」はどんなブランド?
クリスティーナ・タルディート「クリスティーナ ティ」デザイナー(以下、クリスティーナ): 「クリスティーナ ティ」は個性を大切にし、自分の道を歩む女性のために生まれたブランドだ。「人と違う自分でありたい」「選ばれる側ではなく、自ら選ぶ存在でありたい」といったメッセージはブランドの核。始まりは、家族が経営していた水着会社の中で、私自身の名前を冠した小さなコレクションからスタートした。そのあと18年間は「シャネル(CHANEL)」で働いて、一時期は「プッチ(PUCCI)」や「リック オウエンス(RICK OWENS)」にも関わっていたが、「クリスティーナ ティ」は、コレクション作りから販売まで、すべて自分で手掛け、情熱と熱意を持って育ててきた。現在は、イタリア国内のポルト・チェルボ、トリノ、ミラノ、フォルテ・デイ・マルミの4都市に店舗を構えている。ランジェリー、アウターウエア、バッグ、靴などを展開しているが、コレクションの規模をあえて抑え、少数精鋭の特別なアイテムに絞っている。ジーンズに1点合わせるだけでも存在感を放ち、複数のアイテムを自由に組み合わせて楽しめるような、「一目惚れ」できる特別な一着を届けることを目指している。
WWD:ブランドを経営する上で重要視している価値観は?
クリスティーナ: さまざまな人と交流することで異なる価値観を吸収し、一緒に何かを生み出すこと。例えば、アーティストのボスコ・ソディ(Bosco Sodi)とコラボし、彼の作品に使われている素材感を水着の生地で再現した。こうした異なる価値観やビジョンを持つ人と情熱を共有しながら創作することは、とても刺激的で、特別なものが生まれると感じる。ただ、自分の内側から湧き出るものではないと意味がないので、他人の意見に耳を傾けつつ、自分自身を信じてやりたいことをやるようにもしている。
WWD:理想とする女性像とは?
クリスティーナ: 自由を愛し、自由なマインドで生きる女性たちが好き。今の時代、私たち女性は、かつてよりも多くの力を持ち、以前よりずっと自由になっている。自由な心で人生を築けば、きっとすばらしいことがたくさんできるから。不安や恐れを感じることもあるが、自信を持ち、あえてコンフォートゾーンから出て、時間が経つと自分の道を見つけて強くなり、新しい何かが起こるだろう。ファッションにおいても、単にトレンドを追うのではなく、「自分が素敵に見える」ことが何よりだ。“ユニーク”という言葉が好きで、すべての女性に、唯一無二の“特別な存在”であってほしい。
WWD:日本の女性とファッションに対するイメージは?
クリスティーナ: 日本の女性は物事に丁寧に向き合い、品質やフェミニンさにこだわりながら、派手すぎず上品でシックなスタイルをしている。彼女たちを思い浮かべると、どこか特別な魅力を持っているように感じる。ただ、若い世代のファッションは少し理解が追いつかないこともある(笑)。歳のせいかもしれないね。彼女たちの服装はとても面白くて、遠い存在だけど、時には若者からインスピレーションをもらうこともある。
自分のやりたい事を貫く
“長く愛される”ための服作り
WWD:サステナビリティにも力を入れている。
クリスティーナ: 従業員にはきちんと給料を払い、快適に働ける環境を整えていることはもちろん、私にとってのサステナビリティとは、「長く使える質の良いものを買い、時間をかけて大切にし、最終的には家族へ受け継ぐこと」だ。「クリスティーナ・ティ」全ての製品は厳しく管理・検品したうえで出荷している。このようにして、製品の”命”を少しだけでも伸ばせたらいいなと思う。生地選びでは、リサイクル素材をあえて主軸にしていない。なぜなら、多くの工程を経て品質が落ちることが多いから。ただ、ランジェリーの世界で育ってきたので、体に身に着けたときに心地よく感じることが何より大切で、生地と肌との最初の感触が重要だ。肌に直接触れるものには特にこだわりがあり、シルクやリネン、コットンなど自然素材の生地を採用している。また、長く着続けられるためにはデザインも重要だ。トレンドを追いすぎたアイテムは飽きが来やすいが、特別でありながらも過度に流行に左右されないユニークなデザインなら、10年先でも着られる服になる。ほかに、「グリーンフューチャープロジェクト」にも参加しており、「アクア」という水着のラインで、1点の販売につき1本の木を植える活動を行なっている。単にウェブサイトに環境配慮と記載するだけではなく、実際に意味のある行動を起こしたい。
WWD:他に取り組んでいるSDGs活動は?
クリスティーナ: 現在取り組んでいるのが「リボーン(Reborn)」と呼ぶプロジェクト。店舗やオンラインで一切セールを行わないので、社内にはある程度の在庫が蓄積されている。そこから数点をピックアップし、刺しゅうなどの加工を施して、「リボーン」のラベルを付け、自社店舗限定で再びコレクションとして展開している。
WWD:現在、日本市場に向けて考えている特別な戦略は?
クリスティーナ: 私はコレクションを作るときは、直感的に動いている。義務感で作るのではなく、街を歩くことで感じることからアイデアが生まれる。例えば、イタリアではスカートはあまり履かないが、日本ではスカートを履く人が多いので、コレクションを作るときも、日本市場のためにスカートを取り入れたりしている。また、透け感のある素材は好きだけど、日本市場向けにはそのまま出せず、何かカバーできる工夫をしている。若い世代の感覚も大切にしているので、今季のコレクションは若い世代向けのアイテムと、幅広い年齢層の女性向けのアイテムに分かれている。ただ、日本市場用に作るというよりは、日本ではなかなか見つけられないものを提供したい。つまり、商業的なニーズに耳を傾けつつも、自分が本当にやりたいことを大切にしている。
60周年という節目とその未来
WWD;家業の60周年を記念して写真集を制作したと聞いた。
クリスティーナ: 去年、家業が60周年を迎えた。それを機に、何か形に残るものを作ろうと思って、写真集の制作を始めた。編集者は使わず、写真の選定からグラフィックデザインまで、すべて自分自身で手掛けた。当初から、いつものような「綺麗なロケーションで、ロマンティックにコレクションを見せる」みたいなスタイルではなく、もっと現実味のあるものにしたかった。それで、インスタグラムで一般公募をかけて、「人となり」を重視しながら8人の女性を選出した。撮影は、イタリア人の無名のフォトグラファーに依頼した。彼の写真は、ロマンティックで夢のような空間というブランドの世界観とは真逆の、ストリートスナップのようなリアルなスタイル。そういう全く異なるアプローチで仕事をすることが、私にとってすごく刺激的だった。モデルになってくれた女性たちには、どう服を着こなすかはすべて自分で決めてもらったし、「あなたが好きなこと、嫌いなことを、短く教えてほしい」という質問に対して彼女たちの回答もすごく興味深かった。本当にやりたかったプロジェクトだった。
WWD:ブランドとしての次なる目標は?
クリスティーナ: 簡単なことではないが、自分のペースを重視しながら、一歩一歩よりグローバルに展開していきたい。ただ、程よい規模でね。まずは、いくつかポップアップを開催する予定だ。ポップアップの魅力は、その場で何が起こるか予測できないところ。だからこそ、思いがけない出会いや出来事が自然に生まれることを楽しみにしている。