サステナビリティ

「キークス」水原希子とローラ 耕作放棄地や後継者不足に光を当てるコラボを語る

PROFILE: 左:水原希子、右:ローラ

左:水原希子、右:ローラ
PROFILE: 水原希子(みずはら・きこ)女優、モデルとしてマルチに活躍している。 2010 年に映画「ノルウェイの森」でスクリーンデビューし、その後も多くの映画に出演。 「奥田民生になりたいボーイ出会う男すべて狂わせるガール」ではヒロイン役を務め、「あの子は貴族」では高崎映画祭にて最優秀助演女優賞を受賞した。米国のブランド「オープニング セレモニー」とのコラボレーションライン「キコ ミズハラ フォー オープニング セレモニー」を手掛け、世界的シンガーのリアーナやビヨンセが着用したことで話題になる。 自らのブランド「OK」は、日本のギャルカルチャーからインスピレーションを受け、自由で解放的なスタイルと場を追求している。サステナブルな活動にも取り組んでおり、再生素材や環境負荷の低い天然素材を使用したオリジナルプロダクトを提供。日本語と英語を話す。 Rola(ローラ)16 歳でモデルデビュー。ハーフモデルとして独⾃のアイデンティティーをもち、その愛くるしいキャラクターと個性溢れるスタイルで国内外を問わず活躍。あらゆるファッション誌の表紙を飾り、さまざまな表情でファンを楽しませている。 2016 年12 月に公開された⽶映画「バイオハザードⅥ : ザ・ファイナル」では、映画製作プロデューサーの⽬にとまり戦⼠役に抜擢されハリウッド映画デビューを果たす。環境に配慮した自身のライフスタイルブランド「STUDIO R330」も手掛ける。PHOTO: KAZUSHI TOYOTA

インスタグラムのフォロワー数は2人合わせて約1700万人。特に若い女性に大きな影響力を持つ水原希子とローラは、水原がプロデュースするブランド「キークス(KIIKS)」の第3弾アイテム「茶の実ヘアオイル(GREEN TEA SEED HAIR OIL)」で協業をした。この2つの製品の魅力は製品自体に加えて、その存在を通じて日本の地域課題「農業離れと耕作放棄地」および「後継者不足による伝統文化の衰退」に光を当てるところにある。「髪を美しく保ちながら社会課題解決の一助となる」という思いを掲げ、彼女たち行動を起こしている。

放棄茶畑では茶の木が花を咲かせ、秋にはたくさんの実をつける

「茶の実ヘアオイル」のお披露目の会は1月14日に、東京・渋谷の街中にひっそりとたたずむ小さな古民家で開かれた。靴を脱いで上がる昭和の佇まいの居間を展示スペースとし、水原とローラは終日説明にあたっていた。空間全体はヘアオイルの甘みのある爽やかな香りと、同時開催したワークショップで使用するハーブティーの香りで包まれていた。

フロア中央の木製ボウルには大量の茶色い殻に包まれた実が飾られている。これが製品の原点となる茶の実だ。茶葉は見たことがあっても、茶の実は見たことがない人は多いだろう。なぜなら現在の茶の栽培では一般的に、茶葉に栄養がいくよう新芽を摘んだ後、刈り取ってしまうため花を咲かせず、茶の実もならないからだ。しかし、放棄茶畑では茶の木が9月から11月にかけて花を咲かせ、秋にはたくさんの実をつける。「キークス」は、茶の実から抽出された茶実油使用のヘアオイルの開発を通じて地域の課題解決の一助となろうと考えた。

2人を中心とした「キークス」のチームが赴いたのはヘアオイルの製造を行う会社ボタニカルファクトリーがある鹿児島県大隈半島。同社は、廃校した小学校・中学校の跡地に化粧品工場を作り、自然由来の原料を使ったナチュラルコスメを手がけている。同社からほど近い同県錦江盤山地区は県内有数のお茶どころで、他の多くの地域と同じく農業従事者の高齢化や若者の農業離れが深刻な問題となっている。また茶の消費量の減少や茶葉価格の低迷も続いており結果、広大な茶畑が放置され、未使用の茶の実が大量に発生しているのが現状だ。

「キークス」チームは昨年秋に同地区の自治体との話し合いから始め、地元の人たちと耕作放棄茶畑に入り150キログラム近くの茶の実を収集。畑近くの体育館を借りての手作業で殻むきに始め、製品化へとつなげた。茶の実拾いから製品化まで2ヶ月弱というスピードだ。製品は茶の実油と桜島産の椿油をベースに、サンダルウッドとジャスミンのエッセンシャルオイルをブレンド。手に取るとふわりと広がる華やかで心地よい香りが誕生した。

薩摩つげ櫛にオイルを馴染ませ髪をすく

オイルと合わせて木原つげ櫛屋による「薩摩つげ櫛」も、お茶染めのケースに入れて発売する。このつげ櫛はオイルとの相性がとても良い。つげは成長が遅いために年輪が狭く、木材はきめ細かい弾力のある質感がある。黄色くなめらかな肌合いの櫛は、椿油を染み込ませて使うことで、髪をすく(梳く)たびに自然な艶と潤いを与えるという。最近は「髪をとかす」という表現が一般的だが、この櫛を手にすると「髪をすく」という描写がピッタリであることに気がつく。木製の櫛は静電気が発生しにくく、髪を傷めることが少なく、さらに天然の抗菌作用を持つため、長期間使用しても清潔に保つことができるという。

「薩摩つげ櫛」もまた他の伝統工芸と同じく、存続の危機にある。「薩摩つげ櫛」は江戸時代からその名を全国に広め、特に薩摩地方では深く愛されてきた。整髪料がなかった時代から、つげ櫛は一生ものの道具として重宝されており、女児の誕生を祝うためにツゲの木を植える伝統もあったという。製作には高い技術が求められ、熟練の職人たちが丁寧に作り上げているが、後継者不足の課題に直面しており、次世代の職人を育てる取り組みが急務となっている。「キークス」は、「薩摩つげ櫛」の存在を伝え、魅力を広めることで伝統工芸を守る一助となることを願い取り組んだ。

水原希子とローラの人を巻き込む推進力とコラボの力

2人から製造過程の説明を聞く中で印象的だったのは、コラボレーションの力だ。インスタグラムのフォロワー数は水原希子(i_am_kiko)783.2万人、ローラ(rolaofficial)908.9万人(いずれも2025年1月24日時点)と、それぞれに大きな影響力を持つ。その影響力を“正しく”掛け算し、「伝統工芸を守るきっかけとなる事を心から願う」と行動する。2人は互いの仕事をどう見ているのか?会場で話を聞いた。

WWD:お互いのクリエイションの強みについて教えてください。お互いをクリエイターとしてどのように評価していますか?

ローラ:私から見て希子ちゃんは「みんな一緒にやろうよ」というエネルギーがとても強い人です。そのエネルギーが、今回のプロジェクトにも大きく影響していると感じています。それと同時に希子ちゃんのセンスも素晴らしいです。彼女は長年ファッション業界に携わってきた経験を活かし、選び抜かれたセンスを持っています。今回のビジュアルもとてもかっこよく仕上がり、広告というよりアート作品のようになりました。

WWD:「良いこと」をセンス良く伝えることは大切ですね。それでも多くの人を巻き込むのは簡単ではないですよね。

ローラ:そうですね、簡単ではありません。同じ業界で働いていると、さまざまなしがらみや環境問題など、難しい課題がたくさん出てきます。しかし、それでも挑戦し続ける希子ちゃんの姿勢には本当に感心します。一人で心細くなることもありますが、それでも信念を持ち、進み続けるのは勇気のいることです。彼女の強さや情熱にはいつも刺激を受けています。

水原希子(以下、水原):ローラは努力家で、何事にも真摯に取り組み、常に新しいことを学び続けています。そして学んだことをみんなとシェアする姿勢がとても尊い。自分の学びを言葉で伝えることは簡単なことではありませんが、彼女はそれをスピーディーに、そしてピュアな思いで実践しています。その純粋さや優しさが、多くの人々を包み込む魅力になっています。また、彼女はネガティブな経験をすべてポジティブなエネルギーに変える力を持っていて、本当にすごいと思います。

WWD:今回のプロジェクトでは、香りの部分にもローラさんが深く関わったと伺いましたが、どのような思いを込めましたか?

ローラ:香りには特別なこだわりを持ちました。私はメディテーションをするのですが、瞑想やものづくりをする中で、自分を落ち着かせるためのエキゾチックな要素を取り入れたいと考えました。香りは感覚的で、内面を癒す力があると思います。

水原:私も椿オイルを使ったシンプルなヘアオイルを作りたいと考えていました。ローラと一緒に成分を一つ一つ選び抜きながら、学んできたことを活かして作りました。ローラの手作りコスメを使ったとき、その香りと効能に感動したのが、このプロジェクトを始めるきっかけでした。

WWD:耕作放棄茶畑でどのような経験をしたのですか?

水原:この商品は、多くのボランティアや地元の方々の協力がなければ実現しませんでした。放置された畑に入り、道を切り開きながら種を集める作業はとても大変でしたが、みんなで力を合わせてやり遂げました。地元の方々も日本の未来や環境問題について真剣に考えてくださり、目的を共有して取り組む姿勢がとても心強かったです。

WWD:地元の方々との交流で印象的だったことは?

ローラ:お茶を作る地元のおばあちゃんが話してくれた伝統や文化の話がとても印象的でした。お茶づくりを通じて自分を見つめ直し、伝統を未来につなげようとする姿勢に感動しました。

水原:お茶の実を拾う作業は大変でしたが、その過程で地元の方々と話す時間がとても有意義でした。皆さんの純粋な思いが、今回のプロジェクトに込められていると感じます。

WWD:いじわるな質問になりますが、後継者不足という課題はとてつもなく大きくて、一つのアクションがどのくらいの影響を生めるのでしょうか?

水原:実は、プロジェクト通じて出会った地元の若い方が畑を購入を決意し、すでに作業を始るなどの変化が生まれました。私たちの活動がきっかけで、一歩ずつですが前進していると感じます。

WWD:ワークショッを組み合わせた理由は?

水原:ワークショップでは、自分の体調に合わせたハーブティーをブレンドしたり、アロマオイルを作ったりと、感覚を研ぎ澄ませる体験を提供しています。商品だけでなく、体験そのものを持ち帰ってもらうことで、自分を知り、自分を癒すきっかけになればと願っています。

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