ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、中国専門ジャーナリストの高口康太さんがファッション&ビューティと小売りの視点で分かりやすく解説します。今回のテーマは、「中国市場のシン・攻略法」。中国ビジネスに精通するNOVARCAの濵野智成社長に聞きました。(この記事は「WWDJAPAN」2025年5月19日号の転載です)
中国人訪日客数は
過去最高を超える勢い

中国人インバウンド需要が急回復している。1~3月の訪日中国人旅行客は236万人と、コロナ禍前の2019年を上回り過去最高を記録した。今後の推移次第では初の1000万人超えも視野に入る。訪日中国人旅行消費額も5443億円と19年比で1200億円増を記録した。ただ、中国国内の景気は不透明だ。21年に始まった不動産不況は依然続いており、 消費低迷へと拡大している。昨年半ばから本格化した買い換え補助金などの大型景気対策は一定の効果を示しているが、消費の先食いでいずれは息切れするとの見立てもある。さらにトランプ関税が雇用、消費にどれだけのダメージを与えるかも予測が難しい。中国に進出、あるいは中国人をターゲットにする日本企業はこうした状況にどう対応すべきか。日本ブランドの海外進出支援を手がけるNOVARCA(ノヴァルカ)の濵野智成社長に聞いた。
PROFILE: 濵野智成 NOVARCA社長CEO

―中国の消費の現状は?
濵野智成社長(以下、濵野):いわゆる消費のダウングレードが顕著だ。例えばクレンジング市場は販売数量は伸びているのに販売総額が減少する「平替」(平価替代品の略。手頃な価格の代替品を指す)、つまりは消費者が高額商品から低額商品に乗り換えるブランド・スイッチが起きている。加えて市場は縮小しているのに、参入事業者は増え続けており、競争が激化している。一部の中国企業はひそかに内容量を減らすコストダウンを行っている。偽物も相変わらず多い。まっとうに競争している日本企業は不利だ。
―競争激化で利益が削られていく、円がどんどん小さくなる内巻きのらせんのようだとして中国では「内巻」(インボリューション)と言われている。
濵野:日本消費財メーカーは2010年代半ば以降、中国市場で「出せば売れる」という黄金時代を享受してきた。プラットフォームとインフルエンサーに支払う広告料はかさんだが、金を積んだだけ売り上げは伸びた。今、状況は一変している。良い商品でも市場とフィットしなければ伸びない。広告の投資効率も低下した。マーケティング戦略の再構築が必要だろう。
資生堂はその好例だ。昨年末に発表した中期経営戦略では、ブランドの整理、集約を強いられている。「売れているブランドは残し、売れていないブランドは撤退」という戦略を明確にした。
“タビナカ”需要に注目
―中国ブランドの台頭もあり、日本ブランドの存在感は薄れている。競争が激しすぎる中国市場は撤退戦と捉えるべきか。
濵野:ネガティブなニュースは多いが、中国は世界第2位の市場であり、取り組みは続けるべきだ。日本企業にとって、「唯一の救い」とも言えるのがインバウンドの復活だ。中国で怪しげな商品が増えたこともあって、日本ではだまされないという信頼感は強みだ。中国でも販売されている日本製品でも、わざわざ日本で購入するという話も聞いた。現在のインバウンドで重要視すべきはタビナカだ。旅行中に、中国人観光客自らが“発見”するプロセスが重要だ。例えばホテルの備品だ。弊社のSNS分析によると、リファのドライヤーやポーラのシャンプー、馬油製品など、ホテルの備品を使ってみて、その良さに気づいて購買したという書き込みは一定数ある。また、日本限定商品、日本で購入した場合にのみもらえる特典なども訴求力がある。前述の資生堂を例に出すと、中国市場から撤退した「dプログラム」などのブランドは結果的に「日本にしかない商品」となり、インバウンドでのニーズが高まっている。
もう一つ、新たに生まれつつあるニーズにも注目したい。その代表例が花粉症だ。中国には花粉症はないと言われてきたが、ようやくその存在が認知された。日本では定番であっても中国ではなかなか手に入らない、花粉症先進国・日本の医薬品や関連化粧品、花粉症グッズなどが注目を集めている。
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