ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はアパレルブランドにおける適正な売上規模を考察する。いかに勢いがあるアパレルブランドであっても無理にアクセルを踏み続ければ、その反動に苦しむことになる。適正な売上規模はどう見極めればいいのか。そこを突破してブレイクスルーを目指すのであれば、何が必要なのか。
アパレルに限らず経営は適正規模と挑戦、仕掛けとコストの数次関数だと思う。仕掛けを駆使して挑戦すればどこまでも成長できそうだが、無理をするとコストが肥大して壁に当たってしまう。ならば身の程をわきまえて最も収益性が高い規模で止めるという選択もあるのではないか。それで拡大するには多事業化やM&Aがあるし、事業のスタンスをシフトアップすればブレイクスルーすることもできるが、さてどう選択すれば良いのだろうか。
ブランドと業態の市場規模と風向きを見極める
アパレルの事業規模には特定のマーケットを狙ったブランドや業態が望み得る「天井」みたいなものがあるようで、そのハードルを無理やり越えようとすると急激にロスやコストが上昇して収益が悪化し、逆戻りを強いられることがある。
もちろん、販路やプラットフォーム、調達手法や運営手法を抜本的に革新すれば壁を超えられることもあるが、大半の事業者は既存のやり方をゴリ押ししてハードルを越えようとするから、手痛い挫折を味わう場合が多い。当事者は手を替え品を替えて新たに挑戦しているつもりだろうが、従来手法の延長でしかない場合が多く、いずれ無理なゴリ押しが壁に当たることになる。
アパレルで難しいのは、この「天井」が時流に押し上げられて急激に高くなったり、逆に急激に押し下げられたりすることで、見誤れば在庫の山を抱えて経営が傾くこともある。しかも、時流の風向きが変わる要因もサイクルもさまざまだから、風向きの変化を読むのは容易ではない。
ファッショントレンドによる風向きは「3年昇って3年沈む」と言われて、かつてはブランドの消長を見ているとなるほどと思うケースも多かった。時流の追い風が強いほど風が止んだ後の落ち込みも大きく、2011年に民事再生法を申請したラブボートのようにブレーキが間に合わず破綻に至るケースも多々あった。
消長のサイクルが長いのもしんどく、ゴールドウインがスキーブームの終焉で3年連続の経常赤字に転落してからアウトドアブームで業績を回復するまで、なんと20年以上を要している。スポーツメーカーが特定の競技に依存するリスクは大きく、アシックスのように技術的に突出したアイテム(シューズ)で多様な競技に対応する方向に転じている。
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